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風に薫る花のように  作者: 深郷田 恋
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過去に囚われて

 林田くんはすぐに出た。なんかびっくりしてるようだけどどうしたのだろう。まあいいや。目的を済まして切ろうとしたら慌てた声が聞こえた。

『待ってください、薫子さん!僕、なんか最近薫子さんに変なこと、その、口説いてるみたいなこと言ってたと思うです。』(あーはいはい、言ってたね。大丈夫だよ間に受けてないから。)

『でも違くて。いや違くはないか、だからその、、今度お食事でもいかがでしょうか!!』

 へ?何言い出したこの子は。声が好きだとか、薫子さんとお付き合いできる人は幸せとか、そもそも薫子さんて呼び出したのも『タチバナって被ってますし親しみを込めて薫子さんと呼ばせていただきます!』なんて宣言してたなぁ。

『えーと、林田くん?今就業中だからね、そう言う話は今するべきじゃないと言うか、いやだからと言っていつできるかって話なんだけど。翔!こう言う時は先輩に頼るんだよ!わかった?ね、じゃあね。』

 あ、勢いで切っちゃった。でもどうしよう。もし本気だったらどうしよう。私なんかじゃ太刀打ちできない絶対。会話続かないし、根暗だし、そもそも見た目良くないし。名前負けしてるって思われるんだよ。初めて言われた時の衝撃が蘇る。

 中学生の頃にニキビが大量にできた。それが嫌で、でも気になって触って潰した。それを隠したくてマスクをして前髪を目の上ギリギリに調整した。ニキビは治らない。そして、忘れ物を取りに教室へ向かったら男女数名の声が聞こえた。隠したところで汚い、昼の時間が地獄、『あれで橘薫子だよ?名前負けもいいとこ』と言って笑っていた。わかっていた。そんなことわかっていたし、綺麗になりたいと思っていたし、名前に見合う品のある花のような女性になりたいと思っていた。泣いた。その日は家に帰ってずっと泣いた。宿題なんてやる暇もなく泣いた。しかしその後も開き直ってニキビを見せびらかせるような強い花になることはなく、なんとか思春期を終え、当時悩み苦しんだニキビとは別れを告げた。と同時にニキビ跡と日々を過ごすこととなった。

 誰が見てもこんな汚い女良いと思わない。せめてポジティブに生きようと思ってもトラウマという物がまとわりついてネガティブになる。花はずっと枯れている。林田くん、私は君が思ってるような付き合った人を幸せにできるような人間じゃないんだよ。たとえニキビ跡が綺麗になったからと言って顔が変わるわけじゃなく、元の顔だってよく言って下の上。笑ってくれ、こんな女。何故か好きになってくれた彼氏に依存して引きずる女。失礼だけど彼だってイケメンじゃなかった。お互い釣り合っていたのかもしれない。一緒にいると楽しいし落ち着く、安心できる、ずっと一緒にいたいとかそんな戯言を言っていた。何故あんな言葉を鵜呑みにしたのだろう。始まりは終わりの始まりってよう言うじゃないか。終わりを考えながら付き合うのなんて夢がないと思っていたけれど、私はどこまで少女だったんだ。馬鹿じゃないか。そんなことを考えて日々が過ぎた。いつのまにか彼のことを考える時間がなくなった。アニメやご飯のことを考えることが幸せになった。

 それなのになんだ、もう懲り懲りだ。期待させないでよ。幸せになったらさらに上の幸せを求めてしまうのが人間でしょう。好きになったら離れたくなくってしまう。好きにならせないで。好意をちらつかせないで。思い出させないで。君が優しくて仕事に真面目で会話を楽しませてくれて人懐っこいこと知ってるよ。君と付き合えた人は幸せだろうな。そういう人は幸せになれるよ。君の幸せを願ってるから幸せになりな。私じゃなくていいんだよ。

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