リュード、追放される。
よろしくお願いします。
「リュード、お前今日で首な。もう俺たちのパーティにはいらないんだわ」
ある日の昼下がり、滞在先の食堂でリーダーのラスタに呼び出されたリュードは、
パーティリーダーのラスタにそう宣言された。
ラスタとともにテーブルを囲っている他のパーティメンバーもラスタの言葉に頷いた。
リュードには冷たい視線を向けていた。
リュードたちはこの国の宿敵である、竜魔王を倒すことを夢見て集まった冒険者パーティだった。
竜魔王を倒すためにはまず、国に認められるほど活躍をして勇者パーティとして選ばれる必要があった。
勇者パーティとして選ばれれば国による潤沢な討伐資金やサポートが得られる。
そして竜魔王を倒すことができれば
一生遊んで暮らせるような莫大な報酬と
国中から崇められるような名声が手に入るのだ。
そんな一攫千金を夢見て集まったのがリュード達のパーティ≪フレアフレイル≫だった。
リュードたちは勇者パーティとして認められるために冒険者として活動してきた。
小さな竜から巨大な竜まで倒してきた。
町を救うような活躍もしてきた。
勇者パーティとして選ばれるに十分な活躍をしてきたのだ。
そろそろ勇者パーティに選ばれるはずなのだ。
だからリュードは全く理解できなかった。
なぜそんな時期に俺を追放しようとするのか。
なぜ俺をいらないというのか。
そんな当然である疑問をラスタに投げかける。
「ラスタ、俺はアサシンとしてパーティに十分な貢献をしてきたはずだ。
なのに急にいらないとはどういうことだ?」
「は?それだよそれ、お前がアサシンだからいらねえんだよ!」
ラスタは全く取り合う気がないようだ。リュードはしつこく理由を問う。
「アサシンであることがいけないのか?意味が分からない」
「うるせえよ!お前がパーティで大した役割を果たしていないからに決まってるだろうが!
お前ができる役割って全部他のやつらでもできるよな?」
ラスタが言った理由は一見するともっともらしいことだった。
リュード以外の他のパーティメンバーは
前衛攻撃役のジョブ、戦士ののラスタ。
後衛魔法使いのジョブ、魔法使いのサリー。
回復魔術師のジョブ、ヒーラーのリバルの3人だった。
そしてリュードのジョブ、アサシンだった。
アサシンは斥候、前衛攻撃、補助魔法ができるとされている。
リュードはそれに加えて俺は作戦立案、後衛魔法攻撃、回復魔法の補助もこなしていた。
そう、リュードは多くの役割を一人でこなしているのだった。
リュードはこれによりパーティ全体で余裕を持って行動することができていたのだった。
当然斥候、前衛攻撃、補助魔法の役割は十二分にこなしていた。
しかし
戦闘という一面で見れば補助魔法以外は全て
他のメンバーでも役割をおこなうことができるのだ。
それでもあえて他の役割も兼任していた。
他のメンバーが切羽詰まっていたら補助をしてあげることで
少ない人員のパーティでも余裕をもって竜討伐ができる。
それは火力貢献だけではなく、パーティ全体としての地力を引き上げることにもつながったはずだ。
リュードは間違いなくパーティの中で活躍をしていた。
「なあラスタ。もしかして俺のことを微妙な火力役だとか思っているのか?
それなら弁解させてほしい。きっとわかってくれるはずだ」
「微妙な火力役!そりゃそうだ!結局はお前より俺のほうが火力あるからな!
魔法はサリーのほうが強い。回復魔術はリバルが一番だしな!」
「そんなことはない。総合的な火力ではリバルと同じぐらい貢献しているはずだ。
毒や麻痺毒、弓の火力で貢献しているだろう」
「はあ……お前さあ。アサシンは武器にいちいち毒が必要だったりよ……そもそも武器が使い捨てだったりよ……金がかかりすぎるんだわ。はっきり言うと燃費が悪いってことよ」
アサシンは暗器や毒など多種多様な道具を利用する。
常備しているナイフや弓以外にも討伐する竜によって異なる装備を用意する必要があった。
だからこそ他のメンバーよりもお金がかかってしまうのは事実だった。
しかしそれはパーティを組む際に散々話し合ったことだった。
しかしそれでも合意してパーティを組んだのだ。
今更蒸し返すにしてもいきなり追放するのはひどい話だった。
「燃費が悪いというのはおかしいだろう?俺の武器には多少お金がかかることは言ったはずだ。
それにパーティ共通の財産は十分に残っている」
そう、そもそも金がかかりすぎるという話もおかしい。
リュードたちは急速に成長したパーティだ。
だからこそ竜の討伐で多額の報酬を得ている。
リュードの使い捨ての武器は報酬額と比べれば微々たるものだ。
装備をこまめに整備、新調するなどしてもパーティには十分な資金があったはずだ。
つまり燃費が悪いという理由で追い出すのは妙な話だった。
しかしラスタは意にも返さなかった。
「お前さあ、事実金が足りないって話なんだよ。お前をパーティにいれておくと金が足りねえってこと。
結果を受け止めておとなしくしてろや」
魔法使いのサリーもラスタに便乗する。
「そうよ。あなたの武器にお金がかかってそしてお金が足りないということよ。おわかりかしら?」
リュードはやはり反論する。
「それは違ーーー」
「それによう、リュード。アサシンじゃん?勇者がアサシンって意味わからんくねえか?」
「ラスタ、どういう意味だ」
「勇者は竜魔王の討伐だけをするだけじゃない。英雄としての振る舞いも必要なんだよ。
正々堂々戦うことが求められるのさ。
だからアサシン、つまり暗殺者は似合わない。今すぐ勇者を目指すのをやめてくれ」
「それも話し合ったことだろうが!俺が暗殺者でも構わないといったのはお前たちだろう?」
思わず声を荒げてしまう。
しかしラスタは取り合う気はないようだ。
「この間倒した竜って結構強かったと思うぜ?
それなのにいまだに俺らは勇者パーティにはなれない。
つまりアサシンのお前が原因ってことだろ?」
意味不明の理屈だ。そもそも国側に聞いた話ではないし
憶測だけで話を進めているのだ。
冷めた目で見ている残りの二人にも意見を聞いてみようか。
「リバル、サリー、君たちもラスタと同じことを思っているのか?」
「そうだな。俺はヒーラーとして助けてもらったこともある。
しかし、国としても外聞が悪いというのは一理ある」
リバルも憶測だけで話を進めている。
そしてヒーラーは回復薬だが、でリュードは攻撃役だ。
評価軸がずれているのだった。
サリーも答えた。
「私もリュードはうちのパーティを出るべきだと思うわ。
資金足りないでしょ。うちのパーティは、暗器にかけるお金の余裕はもうないわ」
足りているだろう、とリュードは思う。
大方プライベートでお金を使い込んでいるからもっとお金を使いたいだけだろう。
リュードの活躍はやはり評価されていないのだろう。
気づかないうちにリュードはこの堕落したパーティですら嫌われる存在になってしまったようだ。
「はあ……皆の考えていることはわかったよ。こんなパーティ俺もごめんだ。
俺はパーティを出ていく」
それでもラスタはすかさず喰いついてきた。
「は?なんでお前がそんな偉そうな口ぶりしているんだ?今までご迷惑をおかけしてすいませんでした、だろ?」
リバルも文句を言う。
「リュード、君がいるから俺たちが勇者パーティに選ばれるのは遅くなったんだ。
せめてもう少し誠意を示すべきじゃないか?」
サリーはリバルの言葉を聞いて大笑いした。
「私は謝罪とか求めていないわよ。リュードを今日までパーティに残していたのは
私たちの落ち度でもあるわけだし」
リュードは流石に呆れてしまう。
俺が悪いというのか?
取り決めを勝手に反故にして勝手に追放の話を進めたくせして。
長年のパーティとしての信頼関係も思い出も一瞬で崩れてしまった。
ラスタは再び追い打ちをかけた。
「ここの宿代もパーティで出してるだろう?
お前がここにいるのもただじゃねえんだわ、早く出て行ってくれねえか?
土下座したら一泊ぐらいさせてやってもいいけどよ!」
リュードは心の底から残念に思う。
いつからこんな追放の話を立てていたんだろう。この三人は。
こんな状況になるとは思わず、俺はパーティメンバーとして懸命に役割を果たしていたというわけだ。
「これでいいか?満足か?」
リュードはテーブルに金貨の入った袋を置いた。
有り金のほぼ全てが入った金貨袋だ。
ラスタはにやにやと笑った。
「リュード、わかっているじゃねえか。この件はこれで許してやるよ。
じゃあもうお前は俺たちのパーティメンバーじゃねえんだ。
用はねえからさっさと出ていきな」
「……わかったよ。君たちの気持ちは。俺はこのパーティ≪フレアフレイル≫を抜けよう」
リュードが宿を出ていくのと入れ替わりにラスタたちのもとに向かっていく一人の大男がいた。
巨大な盾を持っている。
リュードに代わる新しいパーティメンバーだろう。
ラスタの声が聞こえる。
「よっ!新しいパーティメンバー様の登場だぜ!
これで勇者パーティらしい面子になったな!これからよろしくなぁ!」
こうしてリュードはパーティを追い出されることになった。
ラスタたちはパーティの見た目の華やかさ、そして目先の金策を理由にリュードのことを追い出した。
しかしメンバー達は結局誰がパーティの重心だったのか、
誰のおかげでこのパーティが今日まで活躍していくことができたのかを理解していなかった。
パーティの戦線崩壊はもうはじまっていた。
後に彼らはこの選択を心から後悔することになる。
そしてリュードの人生はこの追放を機に一変することになる。
読んでくれてありがとう!
次回は今夜投稿予定です!
もしよろしければ星評価とブクマ登録お願いいたしますね。