牛乳はどこですか?
目にとめていただきありがとうございます。
第2回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞応募作品です。
初投稿のため不慣れで申し訳ないですが、よろしくお願いします。
少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
キーワードは「牛乳」です。
「牛乳はどこですか?」
可愛い声の先には、お財布を握りしめた男の子がいた。
「牛乳はどこですか?」
お使いだろう。少し心細そうにこちらを見て繰り返す。
「こちらへどうぞ。」
可愛いなぁ、なんて思いながら売り場へ案内して振り返ると、男の子はいなかった。
「あれ?」
早く歩き過ぎたかと通路を戻り、通りかかった先輩に声を掛ける。
「…見たの?」
先輩からの思いがけない返事に、私は動きを止めた。
「10年近く前かなぁ?
お使いに来た男の子がね、帰り道で車にひかれて亡くなった事故があったみたい。」
品出しをしながら先輩の話を聞く。
「それからお客さんがいない時にたまに出るんだって。
“牛乳はどこですか?”って。
悪さもしないし、何よりかわいそ過ぎるからみんな売り場まで案内してるの。」
初バイトにして初めて霊というものを見たけれど、怖いと言うより悲しい気持ちになってしまい、言葉が出なかった。
「と、いうわけだから、また出たら案内してあげればいいよ。」
先輩も切なそうに微笑む。
「早くママの所に帰れるといいよね。」
そして先輩の言葉通り、男の子はその後も現れた。
「牛乳はどこですか?」と聞かれ、案内すると消えるの繰り返し。
変わらないやりとりを続けながら、私はどんどんと胸が苦しくなっていた。
「お使い?偉いねー!」
何度目かでついに私は言った。
男の子を元気付けたい。そんな一心だった。
彼は一瞬嬉しそうに目を輝かせ、しかしすぐに俯いた。
「ダメなの。ぼく、おつかい、しっぱいしちゃったの…」
男の子の目が潤んでくる。
「ぼくが…ぼくがちゃんとおつかいできなかったから、ママ、ずっと泣いてるの。
ぼくのせいで、ママ…ずっと泣いてるの…」
こらえ切れずに泣きじゃくる彼を、私は思わず抱きしめていた。
「大丈夫だから!
ママは、ママはただあなたに会いたくて泣いてるの。心配してるだけだから。
ねっ、大丈夫。牛乳はあっちだよ。持って帰って。
ママの所に。
ママ、待ってるから。」
気付けば、私も泣いていた。
「どうしたの?」
驚いた先輩の声で我に返ると、男の子は消えていた。
涙でぐしゃぐしゃになった私を見て、先輩はなんとなく理解してくれたようだ。
「顔、洗っておいで」
頭を下げて水道へ向かう。
途中でふと陳列ケースに目をやると、牛乳が1本、消えていた。