ファイオファート記 第二十章
ファイオファートの民は叫ぶ。
「おお、ファムーン、神纏いし者、日輪の御子、我らが輝きの男王よ、貴方の身体は友と共にあり」
呪われし民は叫ぶ。
「おお、トナティフ、闇憑きし者、獄炎の使者、我らが怒りの女王よ、貴方の身体は友と共にあり」
神々は呪詛の言葉で人々を罵る。
「ファイオファート、神の国よ、偉大な主を失いし者たちよ、汝らの命運は尽きたり。魔の者たちと別れよ。魔の者たちを滅ぼせ。汝らの命運は尽きたり。トナティフ、魔神の尖兵、魔界の扉、汝らの主ファムーンを殺めた者の亡骸を、神に差し出せ」
しかし民は神の言葉に最早耳を傾けず。呪われし民と手を結び、神との約定を反故にした故に。
ファイオファートと呪われし民の国の間に作られた巨大な王墓。
そこに眠るは、神王ファムーン。
そこに眠るは、魔王トナティフ。
二人の英雄王の遺骸は、共に眠る。
それは魔の民と神の国の和解の象徴とならん。
故に神々は怒り、呪詛の言葉で人々を罵る。
「ファイオファート、神の国よ、勇敢な王を失いし者たちよ、汝らの命運は尽きたり。魔の王の遺骸を神の薪にくべよ。神たる王の寝所を清めよ。汝らの命運は尽きたり。トナティフ、魔を司りし戦士、魔界の扉、汝らの王ファムーンを殺めた者の魂を、神に差し出せ」
しかし民は神の言葉を最早聞けぬ。魔の者との共存により、神の力は失われた。神の言葉を理解する者は最早僅か。神の依り代も減り、大地からは祝福が消え、川には呪詛が流れた。
作物は畑で育たない。魚は川で流れない。獣は山で生まれない。
ファイオファート、栄華究めし神の国。その栄光は最早影に消える。
しかし呪われし民は、彼らを受け入れたファイオファートの民に恩義を感じ、力を貸した。
それは神の言葉にあらず。神の力にあらず。
それは不浄なるもの。神を退けしもの。故に彼らは呪われし民。
その力は大地を汚したが草木を育て、その力は川を汚したが魚を呼び、その力は空を汚したが鳥を羽ばたかせた。
呪によりて異形となりし、魔の民。
しかしその知恵と力は、神の加護なきファイオファートに恵みをもたらす。
「おお、呪われし民、我らが女王トナティフと共に生きた者たちよ。我らは汝らを祝福せん」
「おお、神々の民、我らが男王ファムーンと共に戦った者たちよ。我らは汝らを祝福せん」
諍いの歴史はこれにて終焉を迎えた。
神国ファイオファートより神は去った。
さりとて、二つの民が共に作りし新たな国は繁栄の道を歩む。
人よ、歌い継げ。これは神に祝福されし聖国、ファイオファートの滅亡哀歌である。
人よ、語り継げ。これは神から巣立ちし者たち、ファイオファートの英雄譚である。
『ファイオファート記 第二十章より』