カドック叙事詩 第九章
ミュージュ、輝く顔を持つ者、絶世の美でその身を満たす者、神々の愛を一身に受ける者が、冥界の神アンナーナ、天の女王の半身に攫われた。
草花は、この世で最も美しき存在の喪失を悔やみ、獣は、高貴な光が失われたことで道を失う。地上の人々が嘆き、天上の神々さえも苦い涙を流す。
しかし、天の女王の妹、力の神たるアンアーナ、冥界の主人は、彼女の母、ピューナさえも命令することができない。ミュージュに心を奪われていた人々、神々は皆、一様にアンアーナのかどわかしに怒りを覚えたものの、取り返そうとする者は誰もいなかった。
しかし神を纏いし者、この世に並ぶこと無き戦士、太古の都市の王たるカドックは、愛する夫のために立ち上がり、剣を手に取った。
「聞け!群衆よ!我らが高貴なる光にして、星より落ちし御子、我が愛ミュージュが、冥府の主人に攫われた!我は冥界に下り、アンアーナに挑む!」
それを聞いていた民は動揺し、王たるカドックにこう尋ねた。
「おお、王よ、我らが主人、神を纏いし者よ、どうかおやめください。かの神、アンアーナ、冥界の主人、天の女王の妹は豊穣の神。彼女は、この世界を維持する、秩序の化身。そんなことをすれば、我らが都市はもう神に愛されなくなり、豊穣と繁栄を手放すことになるでしょう」
群衆が恐怖におののきながら、そう尋ねると、カドックはこう答えた。
「恐れるな。我らの都市は、我が守る。我の庇護に疑問を持つものは、隣国へ行くがいい!」
それを聞いていた神官は動揺し、神々しきカドックにこう尋ねた。
「おお、王よ、我らが主人、神を纏いし者よ。どうかおやめください。かの神、アンアーナ、創世の七柱すら恐れ、終局の七柱すら手を出さぬ力の神。彼女は、この世界を悪から守る、力の化身。そんなことをすれば、王は決して生きては帰れないでしょう」
神官が畏怖をこめ、そう尋ねると、カドックはこう答えた。
「恐れるな。我が力は、神さえ打ち倒す。我の力に疑問を持つものは、隣国へ行くがいい!」
すると、最後に天より光が降り注ぎ、その光の階段を、若き神が降りてきて、こう尋ねた。
「カドックよ、神を纏いし者よ。やめよ。かの神、アンナーナは、創世の七柱、ピューナの娘。彼女に手を出せば、きっと天の神々はお前と民を決して許さぬ。どうしてミュージュのために全てを捨てる必要があるだろうか?」
若き神が、そう尋ねると、カドックはこう答えた。
「如何なる脅威も、我とミュージュの愛を引き裂くことは敵わぬ。ミュージュは我が愛。愛こそ、我の力。ミュージュを失って、どうして王を務められようか、どうしてこの国を守れようか」
そう言い、カドックは若き神を退けた。
カドックは七つの業風を纏った。それは全ての悪を退け、王を救う盾である。
カドックは白銀の刃を背負う。それは全ての敵を切り裂き、王を勝利へ導く剣である。
神を纏う者、至上の王、カドックは、それらを手に冥界の大穴へと落ちていった。




