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人竜大戦伝承 第三章

 竜が星を支配し、国を建ててから、数年を経た。

 人は最早、神の被造物にあらず。僭主たる龍神に隷属する、奴隷であった。

 物の数え方を忘れたので、指を使って計算し、文字の書き方を忘れたので、先祖の名前も覚えられず、知識も失ったので何も作れなかった。

 人は、仕えるべき主人の威光を忘れ、天を仰がない。

 人は、拒むべき僭主の力を恐れ、地に伏せる。

 そんな卑しき者たちの中にあって、光り輝く娘がいた。

 竜のために土を耕す母と、竜のために種を植える父の子であり、彼女もまた竜のために、その身を粉にして働いていた。

 名をフューオン、陽光の下で、その炎のような赤き肌を輝かせし、生まれながらの貴人。隣の兄弟は、彼女の前で光を思い出し、また隣の親子は、彼女の言葉で、物の作り方を思い出した。彼女の両親も、彼女のそばで、先祖の名を書き記した。

 ある夜、フューオンはいつものように、他の人間のように、土の上で眠りについた。冷たく硬い土も、連日の困憊の前には、眠りの妨げにはなり得なかった。

 夢の中で、彼女は目を開ける。

「ここはどこだ」と、暗闇に声をかける。すると暗闇は、光となった。

「ここは忘れられた場所だ」と、光は答える。

「あなたは誰だ」と、光に声をかける。すると光は、脚を作り、腕を作り、口を作った。

「私は忘れられた存在だ」と、光は答える。

「何故私はここにいる」と、神に声をかける。すると神はその身に光輝を纏い、畏怖の翼を広げた。

「汝は、己の名と、宿命、そしているべき場所を知るために、ここにいる」と、神は答える。

「私はフューオンです。神よ。私は耕すために、ここにいます」と、彼女は答える。

 だが神は首を横に振る。

「汝、その身に宿る力を知るべきである」

 するとフューオンの胸から、赤い炎が溢れる。

「汝は赤竜、竜に因む者。汝は赤竜、竜を滅ぼす竜、汝は赤竜、かの僭主を打倒し玉座を得る王なり」

 フューオンの肌に青い光が走る。

「私は災厄を祓う者」

「然り。神の威光を取り戻し、竜をあるべき地へ送るもの。人を竜から、神の手に取り戻すのだ」

 フューオンは目を閉じる。彼女は邪悪な者であることを知った。故に神の姿は見てはならない。

 フューオンは耳を塞ぐ。彼女は神に仇なす存在であることを知った。故に神の言葉を聞いてはならない。

 フューオンは立ち去る。彼女は竜であることを知った。故に神の庭に立ち入ってはならない。

 フューオンは聖域より去り、俗世に目覚める。




『人竜大戦史書 第三章より』



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