水底の鳥 第六節
「嵐の神、<ヴァニト>、空に属する神。山の神が、山に神居を拵えるように、空の神は、空に神居を設けると聞く」
タナーシャの説明に、未だ状況を飲み込めていないヴァラムは、首を傾げていた。
「待て待て、ここは海じゃないか。どうして、空の神の神居があるんだ。それじゃまるで、空から海に落っこちてきた……」
しかし、そこまで言いさして、彼は自分の言葉で疑問を解決してしまった。
「その通り。あの噴出孔は、海を泳ぐためではなく、空に浮かぶため。上に登るのではなく、下に下るかのような構造なのも、海底の神居だからではなく、そのせいだ。魔獣が第一階層にいなかったのは、この神居は空に属するから、そこにあるのは勿論、空の生物の記憶。しかし海水に浸食された場所では、空の魔獣は生まれたとしても馴染めまい。まさに『水底の鳥』ということだ」
「そんな。そんなことがあるのか。しかし、どうして落ちてきたんだ?もしかしてもう、この神居には神はいないのか?」
ヴァラムの疑問を聞いて、タナーシャはおもむろに床に手を付ける。まるで僅かな胎動を感じ取ろうとするかのように、その神経を手のひらに集中させていた。
「いや、この神の家には、まだ神気の流れを感じる。外の噴出孔が動いていたことや、扉が自ずと開いているから、わかってはいたが。恐らく、単純に、神気が足りない。信仰不足、とも換言できるか」
そう言い終わると、ゆっくりと身体を起こし、部屋を仄かに照らす、壁につたう蒼い光を眺める。
「もしかしたら急いだほうがいいかもしれない。ひょっとすると、神聖晶が、その神の力を使い切ってしまうかも」
彼女の危惧に答えるかのように、蒼い光はまるで使い古した伝統のように、ゆらりと明滅を始めた。
「な、なんで急に!」
「話は後だ。兎に角、下に降りよう」
二人を急かして、彼女は急いで階段を降り始めた。二人も慌ててタナーシャに着いていく。
「恐らく、引き金は私たちがこの社に立ち入ったこと。休眠状態にあった神居が、試練に向けて、再び動き始めた。海流が生まれたのが二十年前なら、この神居は、二十年以上もの間、神気が不足しているということ
「だが、それは同時に朗報だろ。第三の試練の相手も神気が足りないということ」
「その通りだが、足りなさ過ぎても困る。試練相手が動かず、試練を達成したとみなされなければ、ここまでの苦労は水の泡だ」
彼らの気持ちを反映させるかのように、三人の足取りは徐々に逸っていく。
階段を下りきり、最後の段に差し掛かって、三人は脚を止める。
「皆、弱ってはいても、神の僕だ。気を引き締めろよ」
タナーシャの言葉に無言でうなずく二人。それを了解の合図だとみなしたのか、タナーシャは二人を再び腕に抱え、勢いよく飛び降りる。二度目ということもあってか、、今度は二人も叫ぶことはなかった。
第三階層に到着すると、部屋の中心で何かが動く音がした。タナーシャは動いたものの正体を確かめようと、神の炎を部屋の中央に向けて放つ。炎に照らされて現れたのは、大地に横たわる神の像であった。神居の落下の衝撃なのか、それとも経年による劣化なのかは判然としないが、その神の像には、あちこちにひびが入り、今にも崩れそうな様子であった。
「地上の者……アシムの神の子らに…神ヴァニトの僕たる我が、試練を与えん」
ところどころに雑音が混じる声を発しながら、その像は立ち上がろうとする。しかしそのために大地に着いた右足が、膝先から崩落し、再び地に伏せる。
「このまま放っておいても、恐らく動き出せば自壊するだろうな」
その様子を見ながら、バルーはぽつりとそう呟いた。それを聞いたタナーシャは、改めて目の前の神像を、再びじっと見つめる。彼女は崩れ行く神像の姿をしっかりと目に焼き付ける。それは既に自己の領域から離れ、神気が失われてなお、主人のために試練を遂行する名もなき従属神に対する最大限の敬意であった。
「だが、試練は遂行する。私に一人に任せてくれないか」
そう言いながら、二人よりも一歩前に出るタナーシャ。二人は彼女を止めること無く、意思をくみ取り、そのまま沈黙していた。仲間の無言の合意を受け取り、そのまま神の像へと歩を進める。
神の像も、彼女の接近を察知し、戦闘態勢を取ろうとする。右足は欠損しているため、それはその場から動くことはできなかったが、その背には弓のような物があった。背に右手を回して弓を取るが、それには肝心の弦も矢も無かった、遠くから見ていた二人は、それを劣化による破損だと思っていたが、神の像はそこに本当に弦があるように矢をつがえる動作をすると、弓の両端を繋ぐような光の糸と、それと垂直に交わる光の矢が現れる。光の弦を十分に引き絞り、それは矢を放った。その矢は的確にタナーシャの胸元へと飛んでいくが、それを彼女は右拳で弾き飛ばした。
走って接近するタナーシャに対して、それは二射目を先程よりも素早くつがえ、対応しようとするものの、矢を掴む左手の指先が破損して、弓はあらぬ方向へと弱々しく飛んでいく。その間に、タナーシャは神の像の懐に潜りこんでいた。
「安らぎたまえ、ヴァニトの使徒よ」
タナーシャは左拳に、溜められるだけの神気を籠める。
見上げると、彼女の三倍はあろうかという巨躯であったが、威圧感は最早なかった。
ゆっくりと、それでいて抑揚を感じる、舞のような優雅な姿勢から、光の拳が神像へと放たれた。拳が貫いた胸部を中心に、神像の全身にヒビが徐々に広がっていく。ヒビからは神気の蒼白い光が漏れ出し、そして最後には一際大きな光を放って、神像は石の断片へと砕け散った。
と同時に床下の扉がゆっくりと開く。神像だったものが、その空間へと吸い込まれていった。
「行こう。もしかしたら神聖晶もあまり長く持たないかもしれない」
何事もなかったかのように、タナーシャは二人に言葉をかけ、先に階段を降りて行った。
残された二人は、一度互いの顔を見合わせた後に、急いで彼女を追いかけるように階段を降りた。最後の大穴の手前で、タナーシャは下をじっと見降ろしていた。二人が追い付き、同じように下を見る。
「そうか、床が壁になってるから、神聖晶も壁についてるのか」
ヴァラムの言う通り、神聖晶がまさに彼らの真下にあった。
「ここからで、多分問題ないと思う。二人とも、少しだけ離れて」
タナーシャの促す通りに、ヴァラムとバルーは崖から離れる。
「<ヴァニト、嵐の神、この神居の主よ。私は神の巫にして、汝の試練を乗り越えし者>」
彼女が神語で語り掛けると神聖晶は、やや弱々しく明滅した後、最下層の部屋を眩い光で満たした。
『<神の巫と、その仲間よ、汝らは試練を乗り越えた。故に神の祝福を汝らに与えん>』
三人の頭に、言葉が響く。前の神居での経験から、バルーもヴァラムも、それが神聖晶が、タナーシャを認めたことを意味する言葉であることはわかった。すると神聖晶は再び強く光ると、拳ほどの大きさの水晶に姿を変え、タナーシャの手元に飛んできた。
「これで、またタナーシャの記憶が戻る……?」
バルーとヴァラムが息をのむ中、タナーシャはおもむろにその神聖晶を右手で掴んだ。
そして再び光がタナーシャの頭を駆け巡る。神の光が、彼女の失われた記憶の断片へ導く。
しかし今回の映像はかなり短かった。蘇った記憶の中で、タナーシャは、かつての従者エネテヤが言葉をかわしていた。
「この首飾りは、決して奴らに奪われてはならない」
「はい、<ドゥスエンティ>の鼻祖より受け継がれし宝、奴らは未だその価値には気づいていないようですが……」
「だが念には念だ。神術で一度、この首飾りは見えなくしておく。再び私が解除の術を使うまで、これは誰にも触れられず、誰にも認知ができないもの。勿論私でさえもだ」
記憶の回帰は、そこで途絶えた。
記憶の旅路から舞い戻ってきたタナーシャの表情を心配そうな表情で二人はのぞき込んでいた。彼女の瞳が二人の顔を交互に見据えるのを確認して、二人は安堵の吐息を思わず漏らす。
「で、どうだった?今回はどういう記憶だった?」
少し急かすように、タナーシャの成果を尋ねるバルー。
「説明するより、見せた方が早いかな」
そう言って彼女は、自分の胸元に手を当てる。
「<現れよ>」
短い神語を彼女が唱えると、彼女が手を重ねる胸元に、蒼い光が現れる。その光の中には、銀色に輝く、小指ほどの長さの鉛筆程度の細さの装飾品があった。
「なんだこれ、首飾り?どっから出したんだ?」
「出したわけじゃない。今までずっと"あった"んだ」
タナーシャの説明に、首をかしげるヴァラム。それに対してバルーは、その首飾りに強い関心を示していた。
「認識阻害の術という奴か。記憶を失ってたせいで、本当に誰にも認識されなくなっていた、と。よほど大事な宝物なんだな」
バルーの言葉を聞き、首元の首飾りを手に取り、タナーシャはじっとそれを見つめる。
「……大事、なのだろうな……」
しかし肝心のタナーシャはその首飾りが重要であるかどうか、判断がつかないようであった。
「まさかとは思うが、何で『大事な物』なのか、忘れてしまった、とか?」
ヴァラムの率直な質問に、タナーシャは図星とばかりに思わず目を背ける。
「大事な理由は何となくわかる。これは王家が継承してきた大切な遺産であると。だけど恐らくこれは、ただの遺産ではないはず。凄く断片的な記憶だったけど、私とエネテヤは、これが<ユヴァート>の手に落ちるのを恐れてた。何か秘密があるんだと思う。けど……」
「アムゥはタナーシャの記憶と力を奪っている可能性がある。だとすると、奴らが僕たちを追いかけているのは、その首飾りと関係があるかも……」
バルーの演繹は実にもっともらしく、それでいて不安をあおるものだった。こちらは首飾りが向こうの手に渡ることの危険性を全く理解できない。それどころか、<ユヴァート>が彼女の記憶を奪っていながら、この首飾りを奪っていなかったということは、エネテヤもタナーシャも如何なる拷問に対しても、この首飾りにかけた術をかたくなに解かなかったということを意味する。しかし今やその術は解かれた。加えてタナーシャは、この術を再びかけなおすことが、今の彼女には不可能であることもわかっていた。認識阻害は人間だけでなく、世界すら騙す代物である。本来の彼女の力をもってしてもそれを行使するのは難しく、恐らくはエネテヤと二人で共に術を編んだに違いないからだ。
だとすれば、この首飾りを再出現させたことは、この宝物を命を賭して守った、過去の自分と従者を裏切る行為に他ならないのではないか。タナーシャは、術の解除前に、この思考に思い至らなかった自身の軽薄さを酷く憂い、頭を抱えてしまう。
「私は、私はとんでもないことをやらかしてしまったかもしれない……」
彼女はこの記憶の旅路が、状況を好転させるためのものであると、今まで信じて疑わなかったが、ここにきてむしろ『忘れていた方が良かった』、と考えるようになってしまった。
しかしそんな彼女を見かねて、バルーとヴァラムが、彼女の肩にそれぞれ手を当てる。
「なぁ、俺たちはもう、仲間で、友人なんだ。何でも自分のせいとか、自分が何とかしなきゃ、とか思いこむなって」
「ヴァルの言う通り。もう一蓮托生だ。こうなったら、その首飾りの真価を思い出すまで、この旅を続けようじゃないか。もしかしたら本当にとんでもない代物で、一撃でこの戦況を覆すような代物かもしれないぞ?」
珍しく楽天的な考えを披露し、タナーシャを励ますバルーと、持ち前の人の好さを発揮するヴァラムだったが、その表情と言葉は、確かに彼女の胸に強く響いたようで、タナーシャの心痛は大きく和らいでいた。
「そう、だな。今は前向きに、前向きに」
タナーシャがそう述べた後、三人は来た道を振り返る。
「あーあ。そういや穴を落ちてここまで来たんだった。どうやって戻るかね?」
ヴァラムの言う通り、もう一度船にまで戻るのには、随分な苦労が予想された。
「空に属する神の術であれば、上まで飛んでいくのはそう難しくないだろう」
そう言って、彼女は目を閉じ、神の言葉を思い出す。
「<ヴァニトよ空への梯子をかけたまえ>」
すると、三人の身体は、まるで何かに引っ張られているかのように、自然と身体が浮き上がり、空へと昇って行った。
「もう空を飛べるようにもなったか」
ヴァラムが術に関心を寄せていたが、タナーシャは首を振って否定する。
「いや、これだって別に自由に空を飛べるわけじゃない。<セタク>の体系は、天空神を首座とする神話体系だ。まだ私は天空に属する神の術を全て使えるようにはなっていない」
それは決して謙遜ではなかったが、今実際空を浮かんでいるのに、ヴァラムは素直に感心していた。
「おいおい。空を浮くって滅茶苦茶大変なんだからな?」
ヴァラムが、調子よくタナーシャをおだてていると、三人は既に第二階層を抜け、第一階層へと向かう階段の途中であった。しかしその行く先、第一階層への入り口には水の壁のようなものが張られていた。
「第一階層から水がこっちに漏れてこなかったのは、こういう仕組みか。どの神居にも、邪悪なもの、良からぬものが入らぬような仕組みになっている。元々試練を通った者以外通さない仕掛けだからな。水すら例外ではなかった。勿論海に属する神の神居であれば、水で満たされていてもおかしくはなかっただろうが」
三人が第一階層に入ると、重力に従って床に広がっていた水は退き、第一階層への入り口には誰も濡れること無く入ることができた。まだタナーシャの歩く場所から水が消える術は失われていなかったためだ。
「しかしそうなると、何で第一階層だけは水で満たされていたんだ?」
「恐らくだが、そもそも第一階層は神聖晶から発せられる神気が、魔力へと転じる場所だ。元々神聖さを保つ必要のない場所だから、保護が弱いのかもしれない」
三人は第一階層を抜け、神居の外に出る。そして飛空艇へと乗り込む。ヴァラムは飛空艇を始動させようとするが、あることに気づいて手を止めた。
「なぁタナーシャ、一応神術を切ってくれないか?影響があるかわからないが、水の無い空間ができてるのは、飛空艇を飛ばすのにもしかしたら不具合を及ぼすかもしれない」
ヴァラムが言う通りに、タナーシャは神術を切る。するとたちまち、飛空艇の周りの空気の層は消え、再び辺りは深海の底へと戻った。
「さて、帰るか。行きと違って、帰りは真っ直ぐ上に登るだけだから、すぐ陽の光が拝めるぞ。まあそろそろ夕方だから、沈みかけだけど」
飛空艇は、その船体の頭をもたげ、真っ直ぐに海面へと飛ぶ。漆黒は紺碧へ、そして徐々に周りの景色は蒼から茜色へと変わっていく。それは既に、地上が暮れ合いに差し掛かっていたことを示していた。
「さてもうすぐ海を出るぞ」
飛空艇は海から出て、海中移動から、空中飛行の形態へと切り替えた。だが、飛空艇は、夕焼けに染まった空へと飛び立たず、海面間際で、強い衝撃と共に動きを止めた。飛空艇の中の三人は慌てて状況を把握しようと、窓の外を眺めた。
そして、すぐに急停止の原因を突き止めた。
「聖騎士め……、どうやって私たちの場所を……」
彼らの乗る飛空艇の船体には、合計五本にも及ぶ重厚な鎖が、その先端の磁石によって繋がっており、そしてその鎖の先には、彼らの飛空艇よりも一回り大きな、戦闘艇が、同じく五つ浮遊していた。またそれ以外にも、二つほど、更に大きな飛空艇があった。その飛空艇は、その胴体が台形上の変わった形状であり、船体の中央には大型の昇降口がその左右についていたことからも、兵員輸送用の船であることがわかる。
そのうちの一機の昇降口が開き、中にいた人間が顔を出した。腰まである長い銀髪はヴァラムら三人にとって、畏怖の象徴でもあった。
「そこの無断飛行を行う飛空艇に告ぐ!!速やかに機体より降り投降せよ!さもなければ、即刻撃ち落とす!」
体裁だけを表面上だけ取り繕った言い回しだったが、それは殆ど脅迫行為であった。事実、不認可の武装した飛空艇を取り締まる、とだけしか聞いていなかった第二番隊の聖騎士は、第一番隊隊長の過激な恫喝に動揺を隠せないでいた。そしてそれは、第二番隊の隊長であるルファも同様であった。
「アース様、失礼ながら。この任務は治安維持のはず。撃墜は彼らが反撃してこない場合に限るべきではないかと」
ルファの忠言に対して、アースは一瞥だけして、再びヴァラムたちの飛空艇に向き直る。
「言っただろう。ルファ。この任務は話せていないことが多い。単なる治安維持ではないのだよ」
「しかし……」
「<魔剣、召喚>」
アースの右腕に召喚される黒い魔剣。高い魔力素養を持つルファや、シヴィでさえも、一瞬身構えてしまうほどの禍々しさを放ち、それ以上の異論をはさませなかった。
「従え。私の剣は常に、この皇国を守るべく振るわれる。それに逆らうということは、貴様らもまた逆族であると知れ」
アースは魔剣を見せつけるように、まっすぐ伸ばした右手で、水平に構える。
ヴァラムたちのいる場所からも、それが攻撃の準備であることはすぐにわかった。
「十秒数える。それまでに速やかに投降せよ」
彼女が数字を数え降ろす度に、魔剣とアースの身体から、おどろおどろしい魔力が迸る。
「おのれ、アース。生き残っていたのか……!!」
「おい、どうする?一応、星の外に出るための耐熱装甲と、魔力障壁は使えるが、あの一撃、何発防げるかわからんぞ」
一度その脅威を目にしたヴァラムは、アースの強さをいやというほどに理解していた。多くの修羅場を潜り抜けてきた彼ではあったが、未だに彼女の力の前では身震いが止まらなかった。
「神術で最初の一撃は防ごう。だがあのエネテヤを一瞬で追い詰めた破壊力、私も防げて一度二度、つまりバルー、アースが我々の守りを貫く前に、この状況を打破する妙策を編みだせ!!」
「無茶なことを言う!!だが、わかった!ヴァラム、君はどんなことが起きても操縦桿を離さないように!僕が策を思いついたらすぐに実行してもらう。タナーシャは守りに専念!」
三人が会話を交わす間に、アースは零まで言い切り、そして剣はすでに今すぐにでも焼き尽くさんと紫炎を轟轟と纏っていた。
「時間切れだ」
剣を大きく振りかぶり、それを垂直に振り下ろす。剣の先より迸る烈火は、刃の形を成し、ヴァラムの飛空艇へと真っ直ぐ飛来する。
「<エメン、空の神、守護の神、邪悪を退ける神聖な盾を持つ者!>」
炎の剣が、飛空艇に直撃する寸前、タナーシャの神術が起動し、突如飛空艇の前に現れた光の壁がそれを弾いた。
「防げた!!」
ヴァラムが歓喜の声を上げる一方、タナーシャの表情は苦いままだった。
「だが、一発だけだ。奴だけじゃない、聖騎士や兵器で一斉に攻撃されれば、長くはもつまい」
「しかし、なぜだ。周りの聖騎士は攻撃してこない。最初の一撃が聖騎士隊隊長直々、というのも謎だ」
バルーは、次の一手の手掛かりを探るべく、周りの聖騎士たちの様子をまじまじと観察していた。
「それより有難い。竜殺しの赤髪は、どうやらいないらしい。もし彼女までいたら……いや、そうか。そうだったか」
タナーシャはそう言いながら、二人の方を振り返る。
「バルー、ヴァラム、良い情報だ。あそこにいるのは確かに第一番隊隊長のアース!しかし周りの聖騎士は、恐らくそれ以外の部隊の聖騎士だ」
「おい、それのどこが良い情報なんだ!」
タナーシャは、ヴァラムの質問に答えないまま何故か、飛空艇の昇降口に向かう。
「状況を打破することはできんが、時間稼ぎの手段が見つかったということだ。ヴァラム、昇降口を開けてくれ!」
状況も切迫し、恐らくタナーシャも言うことを聞かないだろうと、渋々彼は昇降口を開く。
「一体何するつもりだ……?」




