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水底の鳥 第五節

 窓の外の景色は、浅葱から紺碧、濃紺へと移り行く。恒星は中天にあってなお、その光が届かぬほどの海底を、ヴァラムたちは飛空艇で進む。本来空にあるべき翼であるが、その船はまるで初めから潜水艇であったかのように順調に動いていた。

「水圧負荷による損傷は無し。どうやら障壁は上手く機能してるみたいだ。んまあ海底の水圧を防げないようなら、星の外に出るなんてまず不可能だろうけどさ」

 ヴァラムは操縦席で、様々な機材を操作している。もう慣れたものなのか、隣や後ろに座っているバルーやタナーシャたちと会話しながらでも、正確に飛空艇を飛ばしていた。

「魔獣の姿はまだ無いようだ。それでタナーシャ、神居周りの魔獣はどう対処するんだ?僕達も協力すべきか?」

「ああ、心配するな。それは私だけでいい。大地の術しかまだ使えないが、海底も同じく大地に属する領域だからな」

 バルーとタナーシャが会話していると、突如、飛空艇が大きく揺れる。

「海流が強くなってきた。もしかしたらもう神居が近いのかもしれない。タナーシャ、バルー、二人とも警戒を……あれ」

 再び船体が揺れる。光の届かぬ海底で、船首に取り付けられた二つの前照灯が照らしだしたのは、砂礫に埋もれる見覚えのある巨大な扉の姿であった。

「おい、あれ、神居、だよな。どうして魔獣がいないんだ。それに突然、海流が収まったぞ、どうなってる?」

 前照灯の光は強力であったが、しかし周辺の状況を正確に認識するには、その二つの光だけでは物足りなかった。

「本来は、<光明神(ペキトゥート)>の力を使うのが一番なんだろうが、彼は天空に属する神だ。だから今回はまた、大地に属する神の力を借りる。少しばかり非効率だが、仕方あるまい」

 タナーシャが、座席から立ち上がり、両目を閉じる。体の中に流れる気を整えるかのように、浅く呼吸を一回する。

「<炎の神(テゥンフト)獅子の神(フィニス・キシフ)焔のたてがみを持つ者(ランティフニ・ティッフ)炎の回廊によって(エシュス・フュ)我が道を照らしたまえ(ユスン・ヒシムゥ)>」

 タナーシャが神語を唱え終えると、突如、前照灯が作る光の道の両脇に、橙色の強い光源が無数に発生する。それは、辺りの暗闇を払いながら、少しづつ、神居へと近づいていく。その光景はまるで海底に街灯が灯ったかのようであった。

「いや、神術が物理法則を無視するものとは知っていたが、まさか水の中で炎を作るとは」

 バルーの言う通り、その光源の原因は、人間大はあろうかという炎であり、それらは海の中であることを気にも留めていないかのように、火の粉を散らしながら、ごうごうと燃え盛っていた。神居の周辺の正確な状況も確認できるようになった。海底から立方体状の建築物が突き出ており、また<フュヌター>の神居と異なり、海という環境もあってか、巨大な扉はその建築物の上部に、海面を仰ぐように供えられていた。

「タナーシャの言ってた魔獣対策ってのはこのことだったんだな。しかし、どうやらその必要もなかったみたいだが。本当に魔獣が一匹もいない。こりゃどういうことなんだ?」

 三人は、その後も注意深く魔獣を探したものの、結局見つからなかった。しかし神居を取り囲む神の火が、一部揺らめいていたことに、タナーシャが気づく。そこは彼らのいる位置からは死角になっており、それを確かめるべく、ヴァラムは飛空艇を動かした。

「これは、海流?神居から出てるのか?まさかこれが海流の原因か?」

 神居の側壁は、いずれも石のようなレンガが積み重ねられていただけの、無機質な壁だった。しかし四面のうち、一面にのみ、巨大な穴が二つ空いており、そこから強い水流が発せられていた。

「こりゃ一体何のための装備だ?まるで、動くため、みたいに見えるが」

「動く神居なんて聞いたこともないが……。神居は神が安らぐ地であるはず。動く必要がないんだそもそも」

 だが目の前の光景に、タナーシャは自分の言葉に自信が持てないでいた。

「だが、これで色々謎は解けた。この場所は、魔力が淀まないんだ。この生み出された海流によって、神気から転じた魔力が、そのまま流される。だからこの辺りには魔獣がいないし、そして海の中で魔獣の増加が報告されることもなかったと。まぁ新たな謎が生まれてしまったわけだが、これは僕たちに損を生むものじゃないんだ。『旱魃の俄雨は憂うな』、というヤツだ」

 バルーのいささか恬淡とした意見に、タナーシャはあまり同意できなかった。しかしこの場で解決する問題ではないと自分に言い聞かせ、今はひとまず目下の問題について目をつぶることにした。

「そうだな。悩んでも仕方ない。神居に入ろう」

「了解。だけど、神居にはどう入るんだ?この海底の水圧に、俺たちは耐えられないだろ?」

「それについても任せてくれ。とりあえず、神居の扉の上に飛空艇を止めてくれ」

 彼女に言われた通りに、ヴァラムは操縦桿を巧みに操り、飛空艇を神居の扉の真上に停泊させた。

「では。簡単な術だが、強力だ。三人とも、私の手を取ってくれ」

 彼女はそう言いつつ、自分の両手を二人に差し出す。言われた通りヴァラムが右手を、バルーが左手を取ると、タナーシャは神術を唱えた。

「<大地の神(イスクィヴィ)我らは(マ・シュフ )地上の民(ネエンフェン)故に(テュ )我らの道も(ルトルムネ )地上なり(シュフウン)>」

 しかしそれといって特別なことは起きなかったため、神語を解せぬ二人は術が失敗したと疑っていた。対照的に、タナーシャの表情は、達成感に満ちていた。

「さ、外に出ようか、二人とも」

 彼女の表情にも言葉にも、驚きを隠せない二人を見て、不満げにタナーシャはため息をつく。

「わかった。ここで待っていろ」

 そう言うと、彼女はすたすたと、座席から離れ、飛空艇の中腹にある搭乗口のはしごへと向かう。

「お、おい」

 ヴァラムの弱気な声が聞こえていないかのように、彼女は無言ではしごを登る。かつんかつんと金属製のはしごを、一段一段軽やかに登っていくと、天井にある搭乗口の取っ手に手をかけた。

「待て!今開けたら、船の中に水が!!」

 先ほどとはうって変わり、声を張りあげ、ヴァラムは必死にタナーシャを呼び止めようとするが、やはりここでも彼女はその言葉を無視して、搭乗口を勢いよく開け放った。

「って、あれ?」

 ヴァラムの警句のように、船に水は流れてこなかった。それどころか、そもそも海底の強い水圧のなかで、いくらタナーシャであっても搭乗口の扉を軽々と開けれるはずがない。

 答えを求め、二人もタナーシャのもとへと駆け寄る。と同時に、タナーシャは搭乗口から身を乗り出し、外へと出た。二人が下から搭乗口を見上げると、そこにあるのはぼんやりと周りの光で照らされてはいるものの、暗闇だけが広がり、状況が把握できないでいた。恐る恐る、タナーシャの後を追って、はしごを登り、意を決してバルーが外に顔を出すと、そこは確かに水がなかった。それどころか息苦しくもなく、呼吸ができた。ふと見上げると、右手のひらから人の頭程度の大きさの炎の球を出しながら、甲板の上に立っているタナーシャがいた。

 バルーもまた、甲板の上に上がり、ヴァラムも彼に続いた。

「なんだ……。水が、ない……?息もできる」

「先ほどの神術のおかげだ。ヴァラム、君は炎のことを魔獣対策だと言っていたが、それは誤りだ。水の中では、水の魔獣とは戦えない。彼らの得意とする場で戦うこと自体が得策じゃない。であれば、こうして、私達の周りだけ水を無くせばいい。この空間こそが、魔獣たちにとっての障壁であり、私達の絶対安全圏。神居の第一層も、これで身を守りながら戦うつもりだ」

 改めて神術の威容に、ヴァラムとバルーは目を見張っていた。一方、タナーシャは、先ほどまでの自慢げの表情が崩れ、息苦しそうに呼吸を整えていた。彼女の異常を心配げに見つめる二人に、タナーシャが気づく。

「ああ、すまない。やはり神気がかなり減ってきているようだ。急かすようで悪いが、そろそろ神居に向かおう」

 タナーシャの言葉に、無言でうなずき、三人は甲板から、神居の扉へと降りた。

 タナーシャが降り立つと、その扉には<フュヌター>の神居のそれのように、青白く発光した。

「さて、神の許しは降りたみたいだ。準備はいいか、二人とも?」

 ヴァラムとバルーが頷くと、タナーシャはかがんで、扉に左手でゆっくりと触れる。扉が徐々に開いていくが、それは同時に彼らが今立っている床が消失していくことでもあった。飛空艇は、神居の扉よりも大きく、それで落ちることはない。三人は、扉の脇へと急いで飛びのき、そこから神居の中の様子を伺う。タナーシャの右手の炎で、微かに照らされているものの、中は暗黒に包まれ、その部屋が水で満たされていることだけが、辛うじてわかるのみであった。

「これ、飛び降りても、水は引くだろうか?」

「大丈夫だと思う。しかし神居、それも魔力の濃厚な第一階層だ。何があるかわからない。用心するんだ、ヴァラム、バルー」

 徐々に徐々に、扉が左右へと引かれていくにつれ、三人の緊張感も高まっていく。扉が完全に開き切るか否かの頃に、意を決して、三人は同時に、神居の中へと飛び降りた。

 タナーシャの神術が機能し、彼らは一切濡れること無く、床まで着地できた。しかし、随分な高さだったため、タナーシャやバルーは何とか受け身は取れたものの、ヴァラムは体制を崩してしまい、床まで真っ逆さまで落ちてしまった。だが、床に激突するすんでのところで、両手に装着する機械腕を起動し、その力で何とか、怪我もせず着地ができた。

 三人は未だ完全に開いていない天井の扉に目を見やるが、不思議なことに、三人が入ると同時に、扉はすぐさま閉じ始めた。ヴァラムへの気遣いと、その扉の様子に気を取られ、自分たちがいる場が、魔獣たちが巣食う魔境であることを、三人とも一瞬だけ失念していた。最初にそれに気づいたタナーシャが、慌てて右手の炎で辺り一帯を照らす。しかし、暗黒の水の中で、魔獣の赤い瞳が閃くことはなかった。まるで一頭の魔獣もいないかのように、その場は静寂に包まれていた。その真相を確かめるべく、タナーシャは右手の炎を左手に取り、それを一気に周囲の水の中に放つ。その炎に照らされ、神居の第一階層の全容が三人にも明らかになった。

「これは……一体……?」

 魔獣は、予測通り、一頭たりともその場に居合わせていなかった。

「魔獣がいないなんて、あり得るのか?もし、そうだとしたら、この神居には、神聖晶がもうないってことなんじゃ……」

「いや、それなら神居の扉は開いたままでもおかしくない。何より、海流さえ作ってしまうほどの、あの強力な噴出孔、あれが作動していることが、この神の家に、動力源がある強い証拠だ」

 一方バルーは、この階層の内装を、ずっと見ていた。

「魔獣がいないのはむしろ行幸だ。魔力の温存にもなる。それより、次の階層に行く扉はどこだ?」

 バルーがそう言うので、二人も共に四方の壁を見る。確かに、扉はどこにもなかった。一方、四つの側壁の中には、一つだけ少し壁の模様が違う物があった。

「こりゃ一体どういうことだ?扉が無いと次の階層に行けないじゃないか」

 三人は各々扉を探しているが、やはりそれらしいものは見つからない。すると、真上の扉の両脇に、青い光が突然灯る。そしてその二つの光は、天井を互いの真逆に走り、どちらも天井と側壁の隅へと当たると、今度は真下へと壁を伝っていき、そして床に衝突すると、次にヴァラムらのいる方に向かってきた。

 三人が左右からくる炎に身構えると、その炎は、彼らの手前でどちらも止まった。青の炎に誘導されるように、視点を自分たちの床に移すと、そこには先ほどと同じ形をした、それでいて一回りほど小さい第二階層への扉が位置していた。

「おいおい、床に扉があるぞ。もしかして神居って結構、場所によって様式が変わるのか?って、うわっ!」

 またも扉は独りでに開き、床が突然消失したことで、三人はその穴へと落ちる。その穴は決して深くはなかったが、落ちた先は下り階段になっており、不意の出来事で三人とも受け身が上手く取れず、階段を数段転がり落ちてしまう。

 幸い、階段は一段一段が幅広であり、数段程度落ちた後に、何とか止まることができた。

「いたた、この神居は下に降りていく、ってことか?それにしても罠みたいな扉の開き方するな」

「すまない。本来は水に満たされた神居だから、あの扉の開き方をしても、本来は落ちないのかもしれない。ちょっと失策だったかもな」

「いや、この術が無いなら、そもそも呼吸ができないんだ。次の層から気を付けよう」

 三人はお互い打ち付けた体の部位をさすりながら、ゆっくりと立ち上がり慎重に残りの階段を降りて行った。

 第二階層へと到着すると、妙な景色があった。階段の先には床は無く、大きな穴が開いていた。その穴は暗く、先は全く見えなかった。

 タナーシャが再び神の火を作り、それを穴の下方へと飛ばす。炎が穴を照らすと、穴の先にあった空間は第一階層と全く同じ部屋だった。やはりその先の階層へと繋がる扉も、先程通り床にあった。

「高さは、六十か七十ラットってところか。流石に高いな。どうする?」

 バルーが二人に問いかけると、おもむろに、タナーシャは二人をそれぞれ両脇に抱えた。彼女の身体は二人の一回りも小さいのに、二人を軽々と持ち上げていた。その動作自体はゆっくりとしていたものの、不意の出来事にどうにも、抱えられたヴァラムとバルーは事態の整理がついていなかった。

「舌、噛まないようにな」

 そう言うと、彼女はその穴へとためらいもなく飛び降りる。

「うぎゃあああああああ!!!?」

 ヴァラムの動転した叫びと共に、三人は無事、第二階層へと飛び降りた。

「タナーシャ!こういうことするなら、きちんと先に言ってくれ!」

 珍しく動揺するバルーと、死の景色が不意に過って、過呼吸気味のヴァラムを見て、タナーシャは思わず悪戯心が芽生えたようにほころぶ。

「この、野郎……!意外と嗜虐的なところがあるんだなお前は!」

「いや、すまない。これしかパッと思いつかなかったんだが、ちょっとばかり珍しいことをしてみたくなってな。今後は控えるよ」

 ころころと笑う珍しいタナーシャの姿を見て、すっかり二人は毒気を抜かれる。

「まぁ、良いよ。どうせこうするしかなかったんだ。それより、一つ疑問なんだが、この部屋、水が無いな」

 バルーの言葉を聞いて、ヴァラムが辺りを見渡す。確かに、この場には水が全く入り込んでいなかった。更に不思議なことに第一階層に繋がる階段からすら、水が流れてくることもなかった。

「それどころか、ここ、水があった形跡すらない。苔の類もないし、床も壁も湿ってない。まるで水が入り込むことが拒否されてるみたいだ」

「第一階層の水は、私の神術のせいで入ってこなかった、とも取れるが、しかし水がここにあった形跡すらないのは、少し不思議でならんな」

 三人とも、第二階層の床や、壁を指で擦って、水の痕跡が無いことを確かめはじめる。だがやはり、何度確かめてもここに海水が流れ込んでいた形跡を発見することはできなかった。

「……どうにもこの神居、色々おかしい。あの噴出孔、魔獣のいない第一階層、そして水が無い第二階層。もしかしたら本当に何か重要なことなのかもしれない。とりあえず、第二階層の扉、開けてみるか」

 第二階層の扉は、第一階層からの階段先の穴のちょうど真下にあり、そして、第一階層で見た、一つだけ模様の違う壁に、沿うように位置していた。三人はちょうど、穴を見上げる位置にいたため、扉もまた、やはり彼らの足元にあった。しかし咄嗟に、先程の出来事を思い出し、門の脇までそれぞれ下がる。

「確かこの扉は、主人の神の名前を唱えるんだよな?順当にいけば、海の神だけど」

 そう二人に問いかけるヴァラムは、門の右端で這いつくばり、扉を注意深く見つめていた。

「<ウサップ>、だったか。<セタク>神族の海の神は。他に候補がいたりはするのか?」

 バルーは門の左脇から、門の上部に立っているタナーシャに疑問を投げる。

「<ウサップ>以外だと<セタク>神族なら、<ジュヴェカヌー>くらいか。しかしこの神は<ウサップ>の娘として、神性が海に属するだけだからな。まず<ウサップ>で間違いないだろうが……」

 そう言いながら心配そうに扉に左手をあてがう。

「<神居の主(ナスィ・エプ)その名は(エ・フィニスウ )海の神(ウサップ)>」

 神の名を唱えるが、扉は反応しない。

「違う、みたいだな」

 一方のタナーシャは、その無反応に対して、特に驚きを見せていなかった。

「やはり、どうにもこの神居は正攻法でいかないようだ。とりあえず、一通り試してみるか」

 すると、タナーシャは腰に巻いていた小さな鞄から、手のひらに収まる程度の手帳を取り出す。

「試していった神の名前を、それぞれ記しておこう。もしかしたら、かなりの長丁場になるかもしれない」

 再び、手を扉に添えて、タナーシャは神術を唱える。

「<神居の主(ナスィ・エプ)その名は(エ・フィニスウ )海の子(ジュヴェカヌー)>」

 しかしやはり、それでも扉は開かない。

 



 それから、三十分が経った。

 タナーシャの手帳には、すでに三十を超える神の名が列挙されていた。<セタク>神族だけでなく、その源流の神族である<ピューナ>神族にまで渡り、また海の神だけでなく、魚の神や、水の神、川の神など、あらゆる関係のありそうな神の名が載っていた。

「なんだか全くわからん。そもそも第二階層は本当に神の名を唱える試練だったか?」

 目でも回しているように、タナーシャは手帳の頁と、扉を交互に何度も視線を行き来させる。

 一方のバルーも不思議な動きを見せていた。部屋の角から角まで不思議な歩調でゆっくりと歩いたかと思えば、角に行き当たると、その反対方向に同じ歩き方をした。また角に到着すると、今度は直角に曲がって、また同じように角から角へと歩くことを繰り返す。

 それを全ての辺で行った後、彼は門の近くに戻ってきた。

「バルー、何してたんだ?」

 何か手掛かりは無いかと、母の残した手帳をパラパラとめくり続けていたヴァラムは、バルーに問いかける。

「縦、四〇ラット、横、六〇ラット」

 バルーがぽつりと呟くと、それを聞いたタナーシャが何かに気づいたように、頭を上げる。

「待て、真下の扉、下に降りる階段、噴出孔、魔獣のいない第一階層……、そういう、ことか」

 再びタナーシャが扉に手を触れる。今度はどこか強い自信を伴って。

「<神居の主(ナスィ・エプ)その名は(エ・フィニスウ )嵐の神(ヴァニト)>」

 そう言うと、青い炎が灯り、扉が開いた。

「凄い。今、何の神の名前を唱えたんだ?」

「<ヴァニト>、嵐の神だ。この神居は、本来海神の物ではない。空の神の家だったんだ」


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