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水底の鳥 第三節

 襲い来る海竜の牙、成人の人間の身の丈はあろうかというその剛刃を、少女ほどの背丈のタナーシャは、両腕で受け止めた。その体格差から考えれば、圧倒的にタナーシャの方が不利、しかしその海竜とタナーシャの膂力は、見事に拮抗していた。

「う、ぐ、おおおおおおお!!」

 身体に神気を渡らせるように、雄たけびを上げるタナーシャ。海竜もまた体をうねらせ激しくのたうち回るが、元々陸上向きの体躯ではないためか、それは決して効率的な力の使い方ではなかった。そのため、この力比べの趨勢は、タナーシャの勝利で決しようとしていた。しかし海竜に備わる力は、決してその巨躯と、頑強な鱗だけではなかった。

 海竜の身体が、少しづつ発光する。最初は鱗の隙間から僅かに光が漏れ出る程度、しかしみるみるうちにその光は、海竜の全身を包み込むほどに強くなる。その光こそ、海竜の秘奥の前兆であった。

 光は狂暴な稲妻へと転じ、大地を焦がし、空気を破裂させる。当然その破壊の光は、接触していたタナーシャに最も激しく襲い掛かる。

「ぐがあああああ!!!!」

 痛みに叫ぶタナーシャ、しかし電撃のせいか、彼女は牙から腕を離すことはできず、ただただ、体に魔力の稲妻が走るのを受け入れざるを得なかった。

「うぉおお!!<大地の神の名(ナ・イスクィヴィルレ)において命じる( シュダハプ)大地よ(リフーム)その牙で(シャッス ハフバ)我が敵を貫け( ハシュスハ)!!>」

 痛みを耐えながら、捻りだすように神術を唱えると、海竜の顎下の大地がせり上がる。その隆起した大地は、円錐状に尖ってはいたものの、海竜の鱗の頑強さのためか、あるいは神術にしては短い詠唱だったためか、海竜の顎を貫くことはできず、ただその頭を上方へ弾き飛ばすだけであった。しかしその衝撃で、タナーシャは牙から腕を離すことができ、急いで背後へと飛びのいた。

 その岩の棘は、せいぜい海竜の牙と同じくらいの大きさしかなく、その勢いも決して強くは無かった。しかし海竜は、その一撃で大きく体勢を崩し、体格に合わない矮小な四肢では支えきれず、地面に倒れ込んでしまう。必死に起き上がろうと、体を何度ものたうち回らせる。それで海竜が再び立ち上がることはできなかったが、暴れ狂う尻尾は動きが想定できず、十分に距離を取ったタナーシャは問題なかったが、未だ蹲るヴァラムとバルーの二人は、非常に危険な状態であった。

「ヴァラム!バルー!!」

 彼女は急ぎ二人の下へと駆け付けようとするが、しかし海竜の身体がその進路を遮る。バルーは回復しつつあり、周りの状況を掴めることはできていたが、危機を自力で脱するほどの力は取り戻せてはいなかった。

「<イスクィヴィ!!>」

 更に略式の神術で、もはや掛け声程度でしかなかったが、それに応じてタナーシャの足元からまた大地がせり上がる。先ほどの大地の牙に比べれば、一回り小さく、それでいて形も円錐というより、円柱に近かった。しかしそれはタナーシャの身体を持ち上げるには適した形で、彼女は竜の身体をその勢いを使って飛び越し、二人の下へと辿り着くことができた。

「二人とも、耳は大丈夫か!?」

 彼女は、海竜の狂奔に負けないように、そして何より耳が遠いであろう二人を気遣い、精一杯声を張り上げるが、反応したのはバルーだけで、ヴァラムは未だ血が流れ出る耳を強く抑えていた。

「僕は……大分マシになった。けどヴァルはまだ……」

「わかった。私が二人を安全な場所まで運ぶ。バルー、君は体の調子が戻ったらでいい。助太刀に来てくれ。だがもし難しそうであれば話した通り、援軍を携帯端末で呼ぶんだ」

 バルーはそれに頷く。タナーシャは自分よりも大きい二人の男を脇に抱え、再び

「<イスクィヴィ>」

 と、神の名を唱える。するとまた大地の足場が生まれ、その反動を利用してまた高く飛び上がり、防潮林の近く、飛空艇が停泊する場所の傍に降り立った。

「ここで待て。私では海竜に致命傷を与えることは難しそうだが、少なくとも時間稼ぎはできそうだ。急がなくていい」

 そう言うと再び飛び上がり、未だ跳ねまわり続ける海竜の下へと向かう。

「バ、バルー……」

 それと同時に、傍にいるヴァラムが呻き声のように、彼の名を呼んだ。バルーは慌てて彼の方を見やるが、

「す、すまん……意識が……」

 と、すぐに倒れてしまった。検診するように、バルーは彼の額に手を当てる。

「魔力欠乏の初期症状……、鼓膜の修復で、魔力を使いすぎたんだ」

 バルーはタナーシャと海竜の方へ目を向ける。その手に、緊急時用の携帯端末を握りながら。




「はああああああ!!!」

 タナーシャは叫びながら、先程自分が作った石柱を折り、海竜へと投げつける。竜は腹部を大地に付けながらも、少しずつ体勢を取り戻しつつあったが、その飛来する岩石には何も行動が取ることができなかった。

 しかしその石はさほど大きくは無かったために、頭に直撃したものの、先程のような崩れ方はしなかった。衝撃で揺らいだ頭を、タナーシャの方へと向け、威嚇とばかりに牙を見せつける。

再び魔力が竜の体表に滾り、鱗が青く光る。しかし此度は、竜の喉奥が体表以上に強い光を放っていた。タナーシャはそれが意味することを即座に理解できた。

「<冶金の神(ユトゥン)彼は黒鉄を(ラ、ハルティアンテ)盾に鋳る( ナアルフィン)!!>」

 咄嗟の神術を唱えながら、彼女は大地に両手をつく。それに反応するように、彼女の前方に巨大な鉄壁が現れる。と同時に、海竜が口腔より強烈な青い稲妻を放つ。海竜の蒼雷はその鉄盾が見事に防ぎ切ったものの、目の前に巨大な壁を作ってしまったために、タナーシャは海竜の動向の確認に遅れをとってしまった。その隙をつくかのように鉄壁から海竜は顔を出し、そのまま鉄壁とタナーシャの周りを、体を上手く動かして、あっという間にその巨体で取り囲んだ。

 しかしその行動にタナーシャは狼狽えることはなかった。むしろその行動は彼女の想定内であった。

「<束縛せよ(フュシュウ)鎖となりて(ラ・ビュウ ギン)!」

 鉄壁に右手を置きながら神術を唱えると、分厚い鉄壁が、まるで織物を解いたかのように、みるみる鎖へと転じ、そして綺麗にタナーシャを避け、海龍の身体に巻き付いていく。海竜が身もだえすらできないほど、鎖で雁字搦めになると、鉄の塊だったものは、全ての鎖を繋ぎ、大地に深々と突き刺さる楔と化していた。

「どうだ。もがけばもがくほど、鎖はお前の身体を締め付けるぞ」

 その鎖は海竜を完全に縛り続けるには、十分な神気は籠められてはいない。しかしタナーシャの神術はこれが最後ではなかった。

「<冥府の神(メンクスパ)生者を飲み込む(タフヘ プナト )疫癘の沼地ビフームジャナフチャウ其は栄華を滅ぼす(トゥフタ フプベスス)冥府の天蓋( ナアプハムハマアト)>」

 竜が鎖で縛られているために、タナーシャは十分な神術の詠唱が可能であった。その術を唱え終えると、タナーシャの周囲の地面、つまり鎖に繋がれている竜の足元が、みるみる沼地のようにぬかるんでいく。突如液状化した大地は、身動きが取れない海竜の身体を飲み込んでいく。竜はあがくように体から電気を発するが、その雷はタナーシャに届くことは無かった。

「忘れたか、海竜。その雷はさっき、その鉄壁に防がれただろう。今、それは鎖の形を取ってはいるが、本質は同じものよ」

 そう言い終わると同時に、タナーシャは鉄の楔の底面を叩く。すると鉄の楔は、竜と同じように大地へと飲み込まれていった。

「ただの流砂や底なし沼と思うなよ。この沼は疫癘の源であり、繁栄を否定する死の門よ。その中にいるだけで、貴様の命は削られる」

 タナーシャは沈みゆく海竜と目を合わせる。鎖に縛られながら、その瞳は未だ殺意を滾らせていた。それを見た彼女は、海竜が完全に大地にのみ込まれてもなお、安堵の声を上げることはなかった。

 竜の呻き、雷の破裂音、鎖の擦れ、いずれも聞こえなくなり、辺りが夜の静寂に包まれた。少し呼吸を落ち着けてから、タナーシャはバルー達の下へと戻ろうとした。そのために後ろを振り返った瞬間、僅かな違和感を覚えた。時折身震いするような冷たい海風が吹き付けるこの岬の上で、彼女は確かに、一瞬生ぬるい空気が右頬に触れたのを感じた。

 その瞬間、大地は炸裂した。派手な爆発音と共に、砂礫が勢いよく四方にはじけ飛ぶ。それに巻き込まれたタナーシャは回避も防御もできず、大地だったものと共に天へと巻き上げられた。岬は大きく崩落し、岬の中腹辺りに寂しく立っていた灯台も、海の中へと沈んでいく。

 タナーシャは少しして重力によって大地へと叩きつけられる。突然の大爆発で重傷を負ってしまったためか、受け身を取ることさえできず、肩甲骨あたりを強く打ち付ける危険な体勢で落下してしまう。不幸中の幸いは、タナーシャが落ちた場所は、岬の崩落からは離れた場所であり、そのため手足の自由が利かない中、海底に沈むという事態だけは避けられたことである。

「タナーシャ!!」

 爆発を目にして、彼女の名を叫ぶバルー。しかし彼の声に答えはなかった。

「タナーシャ!タナー、ッ!?」

 バルーがタナーシャの名を呼び続けているうちに、爆発で生じた、視界を遮る煙が晴れる。そしてそこには、大地に伏せながら、辛うじて右腕一本だけを動かし、這いずるタナーシャの姿があった。

 バルーは慌てて、タナーシャの方へと向かう。暗がりで詳細な確認は難しかったが、不自然な方向に曲がっている右足を見て、彼は彼女の状態が決して良くないことを瞬時に理解した。

「バ、バルー……急いで、この場、から、離れろ……」

 息も絶え絶えの中、タナーシャが辛うじて紡いだ言葉は、焦燥したバルーには上手く伝わらなかった。しかし彼は本能でこの場から危険が去っていないことを理解し、タナーシャを担ぎ、死に物狂いで飛空艇の下へと駆けこんだ。タナーシャを未だ失神しているヴァラムの隣に寝かせると同時に、彼は背後からとてつもない殺意を感じ取り、振り向く。

 彼の目に映ったのは、長い体を這いずらせながら近寄ってくる海竜の姿だった。先ほどまでの不器用さが嘘かのように、四肢を巧みに操り、大地を駆けていた。

「バルー、逃げろ……」

「ああ、言われなくても。くそ、こんなことだったら、飛空艇の操縦を学んでおけば……」

 バルーはヴァラムとタナーシャを、先程自分がされたように脇に抱えて運ぼうとしたが、

「ダメだ、私は置いていけ」

 と、タナーシャが言い放った言葉は、彼にはあまりに衝撃的で、そのため思考も肉体も一瞬完全に止まってしまう。

「何を言って、二人ぐらいなら僕も抱えて逃げられる。だから」

「ち、がう。あの海竜が起こした爆発、あれは岬の半分を、海に落とした。地中にいた竜は、海の中にそのまま落ちた、はず。なのに、なのに奴は、わざわざ岬を登ってきた」

「何が言いたいんだ。それじゃまるで、竜がタナーシャを追ってきているみたいじゃ……っ!?」

 バルーは、タナーシャが言わんとしていることを察した。

「どうやら、怒らせてしまったらしい。だから、置いていけ。ヴァラムのためにも、君のためにも」

 バルーに悩む時間は殆ど無かった。海竜の歩行速度は、バルーが可能な全力疾走よりもわずかに遅い程度。防潮林を活かせば、逃げきることはできるだろう。しかしそれは、自分一人での話だ。

 バルーは決断を下した。彼はヴァラムだけを背中に抱え、その場を立ち去る。彼は後ろを振り返ることは無かった。ただただ全力で走りながら、そして叫んだ。

「タナーシャ!!端末ですぐに助けを呼ぶ!!今から、今すぐ呼ぶ!だから絶対に、絶対にあきらめないでくれ!!」

 タナーシャは、彼が走りながら自身にかける激励をを確かに聞き届けた。暗闇の中であったにもかかわらず彼が走りながらも携帯端末を耳元に当てている様子さえも確認できた。

「はは、器用な男だ」

 そんな様子に、彼女は少し笑みを見せる。体中激痛が走っているのに、その表情は極めて穏やかだった。

 首だけを動かすと、そこには牙と目を怪しく光らせている海竜の姿があった。

「何をそんなに躊躇っている。品定めでもしているのか?それとも恐怖を与えているつもりか?」

 タナーシャは、比較的怪我の少ない右腕と左足で、ゆっくりと立ち上がり、竜と対峙する。

「さぁ、続きだ。私は何も、命を諦めたわけではないからな」

 しかし明らかにタナーシャの身体は、継戦が可能な状態ではなかった。度重なる神術の行使で神気は減少し、身体の損傷が上手く修復されないままで、まともに歩くことさえできない。海竜もそのことを理解していたのか、さっきまでの激走とは対照的に、タナーシャとの距離を慎重に詰めていた。今にも牙が届きそうな距離にまで十分に近づく。すると海竜は上半身をそらし、大地に顔を向け、口を大きく開く。口からは非常に強い青い光が漏れ出していた。明らかにその魔力量は、これまでの比ではなく、タナーシャも確実に竜が自身を仕留めようとしていることを理解した。

 しかし雷が口から放たれようとしたとき、突如、海竜の顔が炎で包まれる。突然の炎によって雷の放出が妨げられた海竜は体勢を立て直そうとするが、その後も数発、竜の頭を狙って巨大な火炎球が飛んできて、とうとうまた大地に倒れ込んでしまう。

 タナーシャは林の方から飛んでくる火球を見て、近くにあった岩陰に身を隠す。

「バルーが呼んだ防衛隊か?いくらなんでも早すぎるが……。それにこれほどの大人数で……」

 タナーシャは夜ということや、咄嗟に岩陰に姿を隠したことから、炎の魔術を使った者の正体はわからなかった。そして彼女は先程の無数の火球と、背後から感じる強い魔力から、駆け付けた者たちが複数人であると推測した。

 だが、改めて様子を伺うと、そこにいたのはたった一人、夜闇の中、赤く光る長髪を潮風になびかせる女が、樹木の頂上に立っていただけだった。

「まさか、たった一人、それにこの魔力量……まさか、」

 赤い髪の女の魔力が一層昂る。すると彼女の右腕にはどこからともなく現れた、黒く、それでいて刃にはまるで葉脈のように赤い光を無数に走らせた剣が握られていた。

 タナーシャの疑念は確信に変わる。その女の面差しや、衣服などの詳細は確認できないものの、その手に握る大剣は間違いなく魔剣であった。この星において現在魔剣の所有が許可されている者は一部を除いて聖騎士隊のみ。そして何より、竜さえも凌駕しかねない強大な魔力量が、彼女の正体を物語っていた。

(聖騎士隊……やはり、この街にいたか……)

 タナーシャは体の神気を抑える。目の前で、海竜は再び四肢を用いて立ち上がりつつあったが、もうすでにその竜はタナーシャを追ってはいなかった。

 突如として現れたその女こそ、真っ先に対処すべき問題であると本能で察したのだ。

「----------!!!!!」

 竜が再び咆哮する。身体の神気を最小限に抑えているため、今度ばかりはタナーシャも耳を塞がなければならなかった。しかしその轟音の中でも、赤髪の女は一切動じない。それどころか髪色と全く同じ赤い瞳を少し光らせると、竜は咆哮を辞め、身体を硬直させた。彼女は驚くことに竜に威嚇し返したのだ。

 竜は乱暴に、赤髪の女に雷を吐きつける。だがその雷を、彼女は魔剣さえ使わず、左手で弾き飛ばした。お返しとばかりに、今度はその女が剣を軽く逆袈裟に切り上げる。その剣先に合わせて、赤い光の閃光が放たれる。驚くほど軽やかな動作からは想像できぬほどに濃密な魔力が込められたその斬撃は、頑強な鱗に包まれた竜の喉元を大きく切り裂いた。

「浅いか……」

 しかし一方でその剣士は納得でもいかなかったように、ぼそりと呟く。確かに竜は深手を負ったが、未だに活動は停止していなかった。

 本来痛みを感じぬはずの魔獣だが、突然振るわれた致命的な一撃に動揺したのか、首を大きく振り乱し、尻尾で辺り一帯を薙ぎ払っていた。しかし決して混乱したわけではなく、竜は同時に目の前の強敵を仕留めんと、一層魔力を発している。タナーシャには、鱗から漏れ出ていた程度の光しか見せていなかったが、今や腕先や瞳、背びれや尾端が青白い光と化しており、身体に充満する魔力の高さを物語っていた。

 しかし海竜が体より発生させたのは、雷ではなかった。竜は体から大量の液体を発生させ、その赤髪の女へ放った。女は、剣でそれを防ごうとするが、液体は彼女の身体の周りを取り囲み、空中に巨大な球体の檻を作るだけであった。女はその液体の檻を剣で斬るが、飛沫が少し飛び散った後、すぐさまその傷口は水で覆われた。液体の檻はかなりの速度で流れているようで、無理やり檻を抜けようとすれば、激流に飲まれかねない。彼女が状況を打破するために思案をしていると、竜は体から、今日一番の巨大な雷を、檻に向けて放った。その雷は水の檻を電熱によって一瞬で気化させ、辺り一帯を吹き飛ばすほどの巨大な爆発を起こした。その破壊力は、タナーシャが隠れていた岩石を吹き飛ばすほどであり、タナーシャもそれに巻き込まれ、林の方へと飛ばされる。

 しかしその衝撃の中心にいた赤髪の女は、傷一つ負っていなかった。それどころか、足場にしていた木を失ってなお、彼女はその場から全く動いていなかった。ただ、魔剣が、思わず目をそらしたくなるほど禍々しく、それでいて狂おしいほどに美しい、赫々たる真紅の光を発していた。

 その光を目にして、海竜は理解した。目の前の女と戦うべきではないと。急いで体を捩り、海へと逃げようとする。

 だが、もう遅かった。赤髪の女は、いつの間にか竜の頭上におり、魔剣を深々と竜の脳天に突き刺した。しかしそこは魔獣の心臓ではなかったためか、竜はまだ活動を停止させず、女を払い落とそうと頭を振り乱す。だがしばらくして竜は動きを止めた。そして突如、口から炎を吹き始めた。魔剣から放たれる劫火が、竜を内から焼き尽くし、十数秒後に、竜の身体は灰に変わっていた。


 タナーシャが、薄れゆく意識の中で最後に目にしたものは、暗闇で炎のように輝く髪と、真紅の瞳であった。




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