06話 魔導具屋
「───様、─主人様、ご主人様!夜ご飯の時間ですよ、起きてください」
エレナは夜ご飯ができる7時にユウマを起こし、ユウマは重い瞼をゆっくりと開ける。
「おはよう、エレナ」
「おはようございます、ご主人様」
ユウマはベットから起き上がり、軽く伸びをしてから椅子に座る。
「もうご飯の時間か」
「はい。でもまだ1時間くらいあるので、ゆっくりでも大丈夫ですよ」
「そうだな、もうちょっとしてから食べようか」
ユウマは椅子に座って言うと、エレナは「はい」と言って、隣の椅子に座り込む。
他愛ない話しをして、10分くらいたった後、ユウマとエレナは1階に降りて、窓側の席に着く。
席に着くと、すぐにサエが料理を持ってやって来た。
「今日の夕食は唐揚げと野菜炒め、スープにデザートのヨーグルトです」
そう言って並べられた料理を、ユウマとエレナはゴクリ、と生唾を飲んで見つめる。
カリッと揚げられた唐揚げは、外はカリカリ、中はジューシーの揚げたてで、野菜炒めはキャベツ、玉ねぎ、人参、豚バラを炒めたもので、スープはどうやらコーンスープのようだ。
デザートのヨーグルトは、ブルーベリーやストロベリーではなく、プレーンのようだ。
この世界ではまだ、ヨーグルトにブルーベリーやストロベリーを入れる風習はないようだ。
「それじゃあ、いただきます」
「あの、ご主人様。いただきますとは何ですか?」
「いただきますっていうのは、食事を始める前の挨拶みたいなものだよ」
ユウマは自分が知っている知識を伝えると、エレナは「そうなんですね」と言って、いただきます、と言ってご飯を食べ始めた。
「美味いなこれ」
「はい!とても美味しいです」
ユウマは唐揚げを食べ、エレナは野菜炒めを食べて、その美味しさに舌鼓を打つ。
エレナは耳がピンッ!と立ち、尻尾は千切れんばかりに左右に振られている。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて嬉しいです」
「ああ、本当に美味しいよ。こんな料理が毎日食べられるなんて幸せだな」
「そのためにはしっかりお金を稼がないといけませんね」
「そうだな。明日から頑張るか」
「はい!」
ユウマ達はその後10分くらいでご飯を食べ終え、今は夜の町を2人で歩いている。
「夜は静かでいいな」
「そうですね〜、お昼とかは人がいっぱいですからね」
昼の商売街は人が多く、お客さんを集めようと店の者も大きな声を出すので、いつも賑わっている。
それに比べて夜は、ほとんどの店が閉店しているので、昼の活気が嘘みたいだ。
「あっ、そういえばエレナの試験の報告、まだしてなかったな」
「そういえばそうでした。シャドウベアーの一件で忘れてました」
「また明日冒険者ギルドに行かないとな」
「そうですね」
ユウマとエレナは明日の予定を立てながら歩いていると、とあるお店を見つける。
「魔導具屋?どこかで聞いたような………」
「昼間にゴブリンを探している時に話していたところです」
「確か魔法の適性がわかるとかだったよな」
「はい、そうです」
ユウマは昼間に話していたことを思い出しながら言うと、エレナは頷く。
「まだ開いてるみたいだし行ってみるか」
「そうしましょう!」
ドアを開け中に入ると、部屋の至るところに剣や魔法書などの物が置かれている、少しレトロな感じの場所だった。
「いらっしゃい。何か探し物かい?」
「いえ、ただ魔法の適性を調べてもらおうと思って」
カウンターにいたお婆さんが、ユウマ達に話しかけてきたので、ユウマは訪れた理由を伝えると、お婆さんはユウマ達を品定めするようにジロジロと見て、小さく微笑む。
「なかなか面白い客が来たもんだ。お前さん達はタダで見てやろう」
「いいんですか?」
「ああ、面白い結果になりそうだからね」
そう言ってユウマ達はお婆さんに手招きされてカウンターの側まで行くと、お婆さんは奥の部屋から水晶を持って来た。
「ここに手を置くと魔法の適性がわかる」
「それじゃあ俺から行くぞ」
「はい、頑張ってください!」
「いや、頑張るものじゃないと思うけど」
ユウマは恐る恐る水晶に手を置くが、水晶には何の変化も見られない。
「あれ?何も起きないんですが」
「ふむ、どうやらお前さんは魔法の適性がないみたいだ」
ここにきてお婆さんに衝撃の発言をされて、ユウマの頭の中は真っ白になる。
異世界には魔法があると聞いて、ユウマは魔法を使うのが楽しみになっていたが、どうやらその魔法は使えないらしい。
「え、じゃあ魔法は使えないということですか?」
「そうじゃ」
「マジか」
ユウマは肩を落とし、意気消沈してエレナに順番を変わる。
「それでは………行きます!」
エレナは勢いよく水晶に手を置くと、水晶の中が黄色に勢いよく光り輝く。
お婆さんはそれを見て、一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には表情が直りいつも通りの顔になる。
「もう手をどけていいよ」
「は、はい!」
お婆さんの言葉通りにエレナは手をどけて後ろに下がり、ユウマの横に並ぶ。
「獣人のお嬢ちゃんは雷魔法の適性があるようじゃ」
「雷………ですか?」
「うむ、そうじゃ。それもかなり強い適性のようじゃ。これは期待できる。それに腰に下げている剣を見るに、どうやら魔法剣士の才能があるようだ」
「魔法剣士って、セナさんと同じってことですか?」
ユウマはリーンが言っていた魔法剣士の言葉を思い出し、お婆さんに聞く。
「ああ、そうじゃ」
「よかったな、エレナ」
「はい!ご主人様!」
「お嬢ちゃん、ちょっとお待ち」
そう言ってお婆さんは、近くの本をガサガサとあさり、1つの本をエレナに差し出す。
「これをお嬢ちゃんにやろう。雷魔法の本じゃ、読めば雷魔法を覚えることができる」
「いいんですか?魔法の本って結構高いですよね」
「いいんじゃよ。未来への投資じゃ」
エレナは戸惑いながらも本を受け取り、大事そうに胸の前で抱きしめる。
「ありがとうございます。大切にします」
「ああ、頑張りな」
お婆さんにお礼を言った後、ユウマとエレナは宿屋への帰路につく。
「まさかエレナに、雷魔法の適性があったとはな」
「私も驚きました。自分に魔法が使えるなんて」
「その反面、俺が魔法を使えないなんて」
「はぁ〜」とため息をつきながら、ユウマは肩を落とす。
「だ、大丈夫ですよ!ご主人様は十分強いじゃないですか!」
「そうか?そんなに強くないと思うけど」
「ご主人様の分まで私が頑張りますから」
フンッ!、と鼻息を荒くして、胸の前でガッツポーズを取る。
ケモミミの少女がそんな可愛いポーズを取るのを見るのに、免疫のないユウマはその姿にドキッ!、としてしまう。
「と、とりあえず帰ろうか」
「そうですね。帰りましょう」
そうしてユウマとエレナは、静まり返る路地を楽しく話しながら宿屋へと帰るのだった。