03話 銃の存在
「依頼達成の確認お願いします」
「はい、ギルドカードを確認しますね」
ユウマとエレナはあの後何事もなくアルヴァノ王国に帰還し、依頼達成の報告のために、冒険者ギルドを訪れている。
「確認が終わりました。シャドウウルフ10体の討伐お疲れ様です。これは報酬の銅貨30枚です」
小さな袋に銅貨30枚が入っていることを確認すると、ユウマはエレナを冒険者にしたいとリーンに伝えると、「それではこちらに名前と種族を書いてください」と、ユウマが書いた紙と同じものを出されエレナは書き始める。
「そちらはユウマさんの奴隷ですか?」
「はい、そうです。森の中でシャドウベアーに襲われているところを助けまして」
「え、シャドウベアー⁉」
「はい、そうですけど………何か?」
リーンは驚いたように声を荒げて、机から乗り出す勢いでユウマに迫る。
「シャドウベアーが現れたんですか⁉」
「はい、そうです。え〜と、それがどうしたんですか?」
「シャドウベアーって言ったら、Aランクに指定されている魔物ですよ。それに出会って無事に帰ってくるなんて………」
リーンは信じられないといった目でユウマを見つめるが、ユウマは何がなんだかさっぱりわからず、とりあえず気になった単語をリーンに聞いてみる。
「あの、Aランクっていうのは?」
「Aランクというのは、Aランク冒険者が3人ほど集まってやっと倒せる魔物のことです。それをDランクであるユウマさんが無事に帰ってくるなんて信じられません」
「いや、無事っていっても攻撃とか結構受けたんですけどね」
ユウマは苦笑するが、まさかあのシャドウベアーがAランクの魔物とは、内心かなりの驚きを受けていた。
閃光玉を投げたから逃げれたのか?と、ユウマは考えるがどうして逃げられたのかなど、ユウマにはわかないのだから考えることをやめる。
「それじゃあエレナの冒険者登録お願いしてもいいですか?」
「え、あ、はい。名前はエレナさんで間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
ユウマはこれ以上話していると、色々と面倒くさそうだと判断し、話題をそらす。
無事冒険者登録が完了し、あとはゴブリンを3体倒すだけだ。
「それでは、俺達はゴブリンを倒して来るので」
「え、ちょっとユウマさん⁉」
ユウマはエレナの手を取り、冒険者ギルドを出ようとすると、それを妨げるようにガタイのいい筋肉質な男三人組が現れる。
「おい、お前さっきの話は本当か?」
「さっきの話って、シャドウベアーから生きて帰れたことか?」
ユウマは先程リーンと話していた事を言うと、男達はゲラゲラと笑い出す。
「お前みたいなヒョロっちいやつが、シャドウベアーから生き延びれるわけねーだろうが!」
「つくならもっとマシな嘘をつけよ!」
「まったくだ!」
男達はまたしてもゲラゲラとユウマを笑い出す。
流石にそこまで笑われると、ユウマだってイラッとくるが、そこで突っかかったら面倒な事になるのは明白なので、なんとか抑え込む。
ユウマは何も言わずエレナと歩き出そうとするが、男達が行きてを阻む。
「本当にシャドウベアーを退けられる力があるなら、当然俺も倒せるよな」
そう言って1人の男が剣を抜き、ユウマに向けて構え出す。
面倒な事になったなとユウマは思い、リーンに助けを求める為に目配せするが、リーンはユウマの視線に気づくと、首を横に振った。
助けてはくれないということだろう。
ユウマは知らなかったが、冒険者ギルドでの冒険者同士の争いに、ギルド職員は一切の関与や責任を持たないというルールが、決められている。
それを知らないユウマは仕方ないと肩をすくめ、殺さない程度に殺るかと、ショットガンを男に向ける。
「今降参したら、痛い思いをしなくて済むぞ」
ユウマはショットガンを構えながら言うと、男は一瞬キョトンとしたが、次の瞬間には顔を歪めながら笑い出す。
「お前、俺に勝てると本当に思ってるのかよ‼ なら負けたらお前の奴隷で、気持ちよくさせてもらうぜ」
そう言って男はエレナのつま先から頭まで、じっくりまめ回すように見て、下品な笑いをこぼす。
その時、ユウマの中の何かが切れた。
「お前らいい加減にしろよ」
「あん?」
ユウマはドスの効いた声で、男を睨みつける。
それに男も睨み返し、痺れを切らした男はユウマに斬りかかる。
「調子乗ってんじゃねーよ!!」
「剣を振る速さとショットガンの弾の速さ、どっちが速いかなんて明白だろうが」
ユウマは聞こえないくらいの小さな声で呟き、男が斬りかかる前に、男の右太ももにショットガンを撃ち込む。
ドパンッ!
「ぐぁぁぁぁ!」
男は右太ももを押さえながらうずくまる。
その様子に皆、驚きを隠さないが、一番驚いているのは、ユウマが持っている武器だ。
この世界には銃やショットガンというものが存在しないのだ。
故に皆、ユウマが得体の知れない武器で、目に止まらぬ速さで男の右太ももを撃ち抜いた事に驚いている。
男の後ろにいる2人も例外ではなく、何が起きたかわからないといった感じだが、すぐに冷静になりユウマに向かって行く。
「てめえ!!」
「死ねや!!」
ドパンッ!、ドパンッ!
2つの弾丸が男達の右肩と、左太ももを撃ち抜いた。
「がぁぁぁぁ!」
「ぐっ、何なんだ今の攻撃は⁉」
男達は床に膝をつきながら、ユウマのショットガンを睨みつける。
「何ってショットガンで撃っただけだけど」
「ショットガン?………何だそれは?」
「新しい魔法か!?」
「は?」
ユウマは男達の言っている意味が分からず呆然とするが、すぐにある可能性が頭をよぎる。
「もしかしてこの世界って、銃やショットガンがないのか?」
「そんなもん聞いたこともねーよ」
「お前いったい何者だ!」
男達は怯えたような不思議な顔でユウマを見るが、対したユウマはある可能性に行きつく。
あれ、ショットガンって最強じゃね?と。
単純に相手が剣なら接近する前に殺せる以上、この世界でショットガンは最強の武器になり得るという訳だ。
その瞬間ユウマの顔がにやけて、それが男達から見ると悪魔の微笑みに見え、逃げるように冒険者ギルドから姿を消した。
冒険者ギルドに静寂が訪れたが、皆の視線はユウマに注がれる。
見たこともない武器で、3人の男を蹂躙する様子を見せられたら、誰だって何者か気になる。
その様子を感じ取ったユウマは、すぐ後ろにいるエレナの手を取り、さっそうと冒険者ギルドから抜け出す。
「面倒くさい事になったな〜」
「そうですね」
ユウマはぼやきながら、次入る時にどういった対応を取ろうか考えながら、北門に向かう。
エレナが試験で、ゴブリンを3体倒さなければならないからだ。
「ゴブリンは倒せそうか?」
「はい、大丈夫だと思います」
ユウマとエレナは喋りながら北門へと向かっていると、その道中に美味しそうな匂いが漂うお店を見つける。
「美味しそうな匂いだな」
「そうですね〜。あっ、あそこからいい匂いがします!」
エレナが指さした場所は、ゴブリン焼きと書かれた屋台だった。
ユウマとエレナがいるこの場所は商売街になっていて、食べ物や洋服など、いろいろなものが売られている。
エレナが見つけたのは、その一角にあるゴブリン焼きのお店だ。
ゴブリン焼きとは、ゴブリンの肉を焼いてそれを串に通しただけなのだが、それが美味しいと評判なのだ。
「せっかくだし食べてみるか」
「いいんですか!?」
エレナは尻尾をブンブンと振り、凄く嬉しそうにしている。
ユウマはそれに優しく微笑んで、屋台の人に声をかける。
「すいません、ゴブリン焼き2つください」
「まいど!ゴブリン焼き2つで銅貨4枚ね」
どうやらゴブリン焼き1つで銅貨2枚のようだ。
日本円で直すと銅貨は大体100円くらいで、今の手持ちは3000円といったところだろうか。
ユウマはゴブリン焼きを2つ受け取り、1つをエレナに手渡す。
「ありがとうございます」と、ゴブリン焼きを受け取ったエレナは、パクリとゴブリン焼きをかじる。
「ご、ご主人様!これ、すっごく美味しいです!」
エレナは興奮したように鼻息を荒くし、尻尾をブンブンと振って、ユウマに訴えかける。
ユウマは半信半疑の様子で、ゴブリン焼きを口の中に入れ噛みしめる。
「うまっ!何だこれ!外はパリパリ、中はジューシー!噛むたびに口の中に広がる肉汁!美味すぎる!」
「ですよね!ですよね!」
ユウマは興奮したようにゴブリン焼きの感想を言い、それにエレナが同調する。
しばらく感想を言ったり食べたりしてゴブリン焼きを食べ終わると、ユウマとエレナは北門に向けて歩き始めた。