35話 迷宮へ
「みんな、準備はいいか?」
ユウマの問いに、エレナ達は頷きながら、その先にある薄暗い迷宮を見つめる。
ユウマ達は今、上級の迷宮入口にいる。
初級、中級には冒険者が沢山入っていくが、この上級にはあまり人が入らない。
それも仕方ないだろう、昨夜の冒険者達が話していた内容が、瞬く間に広がっていったからだ。
「これから先は、何が起こるかわからない。もしかしたら、死ぬかもしれない。それでも俺達は強くならなくちゃいけない。魔王を倒すために、俺達は強くなる。行くぞ!」
ユウマの合図と共に、死の迷宮に入っていく。
✼
「薄暗くて怖いです〜」
「このくらいの暗さで何ビビってるのよ、情けないわね〜」
「そう言うアインは、怖くないのかぁ〜?」
ユウマは悪戯っ子ぽく笑いながら、アインをからかう。
迷宮の1回層は、周りは岩の壁で、薄暗く、目を凝らさないと、よく見えない程だ。
シーナは怖いのか、迷宮に入ってからずっと、ディアの服の袖を掴んでいる。
ディアは特に何も言ってないが、その顔は少し不満げだ。
「私はこのくらいの暗さ、平気に決まってるでしょ」
「へぇ〜、そうなんだ。アイン、後ろに幽霊が!」
「ぎゃァァァ、幽霊怖い、幽霊怖い、幽霊怖い!!!」
悲鳴を上げながら、アインはセレアの後ろに隠れて、ひょこっと顔を出して、後ろを見るが、そこには何もない。
アインは呆然としていると、ユウマがいきなり笑い出す。
それで騙されたのがわかったアインは、顔を真っ赤にする。
「ユウマ! 騙したわね!」
「いや、悪い悪い、ついからかいたくなってな」
迷宮にそぐわない会話をしていると、不意にみんなの顔に緊張が走る。
「来るぞ!」
「敵は3体、シャドウウルフです!」
ユウマ達は戦闘態勢を摂ると、前方からシャドウウルフが走ってくる。
ユウマはショットガンを連射するが、シャドウウルフはその全弾を回避する。
「やっぱり活性化してるか」
「妾に任せるのじゃ!」
真ん中のシャドウウルフに、ディアはブレスを吐き出す。
左右のシャドウウルフが邪魔で回避出来ず、ディアのブレスが直撃する。
左右に分断されたシャドウウルフに、それぞれセナとエレナが肉迫する。
「「はぁぁぁ!!!」」
2人は容易にシャドウウルフの首を跳ねる。
ディアのブレスを受けたシャドウウルフも、跡形もなく消え去る。
「まだまだ大丈夫そうだな」
「ええ、全然余裕よ」
剣に付いた血を払って、セレアとエレナが帰ってくる。
その顔は、まだまだいけると語っている、余裕の顔だ。
「流石2人共、まだまだいけそうだな」
「ええ、まあね」
「はい、まだいけます」
2人は笑顔で先を歩いて行く。
ユウマはその頼もしい背中に、思わず頬が緩む。
「本当に頼もしいな」
「え、何か言いました?」
誰にも聞こえないような小さい声に、エレナが反応して聞き返すが、ユウマは「いや、なんでもない」と言って、誤魔化す。
「先を急ごう。まだまだ道は長いからな」
「そうですね」
ユウマ達は、入り組んだ迷宮を歩く、最深部を目指して。
✼
「───ふっ!」
輝く剣を横に一閃して、ミノタウロスの首を一撃で跳ねる。
剣に付いた血をすぐに払い、2体目のミノタウロスに肉迫する。
「はぁぁぁ!!!」
女性の甲高い叫び声と共に、ミノタウロスの体が真っ二つに割れる。
「ふー。もう大丈夫ですよ」
そう言って、後ろにいる4人パーティーの冒険者達を見る。
ここは中層の50層、そこそこの実力がないと、ここまで登ってこれない層だ。
「ありがとうございます! あの、貴方はいったい?」
「私は愛莉です。勇者として、この世界に召喚されました」
「勇者様だったんですか! ありがとうございます、勇者様」
冒険者達は、頭を垂れてお辞儀する。
愛莉は苦笑しながら、冒険者達に引き返すように、指示を飛ばす。
「それでは勇者様、お気をつけて」
「本当にありがとうございました」
冒険者達がぞろぞろと来た道を引き返して行くのを見ながら、愛莉は顔を曇らせる。
「本当に魔物が活性化してる。この先にはもっと強い魔物がいるのかな。あ〜、怖いな」
震えながら、愛莉は迷宮の奥に進む。
勇者の役目を果たすために。
✼
「もう20階層か〜、やっぱり迷宮内を馬車で走ったら早いな〜」
「全く、こんなこと考えるのユウマ君だけよ。っていうか、普通迷宮内に馬車を持ってくることさえ、出来ないんだから」
そう、ユウマ達は迷宮内を、ユウマが創造魔法で作った馬車に乗って走るという、普通ではありえないことをやって、1日で20階層まで来たのである。
「今日はこの辺りで休もうか」
「それじゃあ馬車停めるわね」
広間みたいな所に出たユウマ達は、眠気の限界で、ここで休むことを決める。
馬車を停めたユウマ達は、見張りの順番を素早く決めて、見張りの人以外は眠りにつく。
最初の見張りはエレナとディアだ。
「ディアさん、私達、何回層まで行けると思いますか?」
「む? 最下層までに決まってるのじゃ。妾達なら楽勝じゃ!」
ディアは自信満々に言うが、それでもエレナの表情は晴れないままだ。
「何が心配なのじゃ?」
「魔物が活性化して、私達のレベルじゃ、ついていけないんじゃないかって………」
エレナは俯きながら、ディアに不安の要因を伝えると、ディアは「なんじゃ、そんなことか」と言って、満面の笑みを浮かべる。
「妾達に倒せない魔物など、いるわけないのじゃ」
「ディアさん………」
安心したように、エレナはディアを見ると、何やら前方の道から多数の足音が聞こえる。
「何でしょう、この足音? かなり沢山の足音がしますが……」
「む? もしかして………」
ディアは苦虫を潰したような顔で、前方の道を見つめると、そこから3人の冒険者と、その後ろに10体程の魔物を引き連れて、こちらにやってくる。
「嘘、何あれ!」
セレアが目を覚ましたようで、10体の魔物を見て、驚愕する。
急いでセレアはユウマ達を起こし、その間に、ディアとセレアが魔物に肉迫する。
イノシシ型の魔物が、エレナに向かって突進してくるのを、目が覚めたユウマが、ショットガンで眉間を撃ち抜く。
エレナはもう1体のイノシシ型の魔物を、“雷走”で魔物の背後に一瞬で回り込み、その首を跳ねる。
ディアはブレスで2体の魔物を消し去り、バックアップで入って来たセレアが、もう2体の魔物を倒す。
これで残り4体。
「───“風刃”」
風の刃が容赦なく魔物の首を跳ねる。
「───“氷針”」
地面から氷の針が出現し、残りの3体全てをセナが倒す。
全員馬車から出てきて、魔物を引き連れて来た冒険者の元に集まる。
「あ、ありがとう。助かったよ」
「困った時はお互い様だ。なにかあったのか? あんな数の魔物が出てくるなんて」
そう、迷宮内で魔物に出会っても、10体同士などありえないのだ。
「俺達もよくわからないんだ。宝箱を開けて、お宝を取った瞬間、いきなり魔物が現れて来たんだよ」
「罠ってことか。容易に宝箱には触れない方がいいな」
冒険者達は再度ユウマ達にお礼を言って、出口への道を歩いて行く。
ユウマは新たな危険を聞き、迷宮内の警戒を高めるのだった。




