02話 エレナ
「い、いや! 来ないで!」
獣人の少女は紺色の髪をしていて、目は黒く、身長は165cmくらいで、豊満な胸を持った少女が、目に涙を浮かべながら訴えているが、そんなもの関係ないと言わんばかりにクマが近づいて行く。
ユウマは木と木の間を縫うように走り、クマの右側まで気づかれずに進むと、ドパンッ!、ドパンッ!、と両手のショットガンをそれぞれ顔と胴体に撃ち込む。
「クマは俺が引きつけるから早く逃げろ!」
獣人の少女は驚いた顔をしてユウマを見るが、すぐに抗議の言葉を投げかける。
「シャドウベアーには勝てません! あなたまで死んでしまいます!」
「別に勝とうなんて思ってねーよ、隙をついて俺も逃げるからお前は先に逃げろ!」
「奴隷である私が時間を稼いだ方がいいに決まってます!」
「───っ!」
獣人の少女を見ると、確かに首元に首輪が付けられている。
「奴隷とかそんなの関係ねーよ、命は皆平等だろうが! それに女は男に守られるもんなんだよ! わかったら早く行け!」
「で、でも…」
「行け!!」
「───っ!」
獣人の少女は潤んだ目でユウマを一瞥して、森の出口に走っていく。
シャドウベアーは逃がすまいと追いかけようとするが、ユウマはその道を塞ぐように立ちはだかり、ドパンッ!、とシャドウベアーの心臓にショットガンを撃ち込むが、少しよろけただけであまりダメージは入っていない様子だ。
「こんな怪物勝てるわけねーよな」
ユウマは苦笑いしながら、両手のショットガンをシャドウベアーに向けた瞬間、シャドウベアーが消えた。
いや、ユウマが視認出来ない速さで後ろに周り込まれ、鋭い爪でユウマの背中を切り裂こうする前に、なんとか後ろを向き両手のショットガンをクロスに重ねて爪の攻撃を防ぐが、威力が凄すぎて吹き飛ばされる。
「ぐっ!───」
木に激突するも木が砕け、そのまま5本の木を砕きながら吹き飛び、6本目の木に激突しその勢いが収まる。
「がはっ………」
肺から空気が血と一緒に吐き出され、ユウマの全身に激痛が走る。
今まで味わったことのない痛みに、ユウマの顔が歪むが、そんなの関係ないと言わんばかりに、シャドウベアーがユウマに近づいて来る。
「マジで強いな」
ユウマは苦笑すると、シャドウベアーがすぐ目の前まで来て、右の爪でユウマを攻撃するが、ユウマは少し前に出てシャドウベアーの懐に踏み込む。
「そう簡単にやられるかよ!」
ゼロ距離でシャドウベアーの心臓に2丁のショットガンを撃ち込む。
ドパンッ!
シャドウベアーはよろめき後ずさるが、すぐに大勢を立て直し影魔法の攻撃を仕掛けてくる。
森の中の影が一斉にユウマに向かって集まってくる。
ユウマは嫌な予感を感じその場から後ろに跳躍すると、先程までユウマがいた場所の地面から無数の針が飛び出てくる。
あと少し躱すのが遅かったら、ユウマは無数の針に貫かれただろう。
「あっぶねー!」
着地と同時にユウマは森の出口めがけて走り出す。
「こんな怪物とやってられっかよ!」
ユウマは全力で走るが、シャドウベアーも逃がすまいと走って追いかけて来る。
だんだんユウマとシャドウベアーの距離が近づいて来る。
「くっ!、このままじゃ追いつかれるのも時間の問題か。なら、───“創造”!」
ユウマは“創造魔法”である物を作り出し、シャドウベアーに投げつけると、シャドウベアーに当たる寸前でカッッ!!と、膨大な光が辺りを覆う。
そう、ユウマは“創造魔法”で閃光玉を作り出したのだ。
シャドウベアーは閃光玉をくらって、目を抑えて狼狽えている。
その隙にユウマはシャドウベアーから逃げるように、森の出口へ向かって走り出す。
本来なら10分くらいで森の出口にたどり着くのだが、ユウマは傷を負っていたので倍の20分かけて森の出口にたどり着く。
「やっと着いたか」
ユウマは木を背もたれにして座り込み、近くに魔物がいるか辺りを見渡し、安全が確認されると深く息を吐く。
「はぁ、疲れた〜。あの獣人の娘はちゃんと逃げれたかなぁ」
ユウマは青い空を見ながら呟いていると、前からこちらに走ってくる人影を見かける。
頭の上の猫耳をピクピクと嬉しそうに動かし、ユウマに笑顔で手を振りながら走ってくる。
獣人の少女だ。
「大丈夫ですか〜!」
「大丈夫だから走らなくてもいいぞ!」
ユウマも獣人の少女に手を振り返しながら叫ぶが、獣人の少女はその言葉を聞かずに走ってくる。
「はぁ…はぁ…、無事でよかったです」
獣人の少女は肩で息をしながら、ユウマに微笑みかけてくる。
「そっちも無事で何よりだ。で、何があったんだ?」
ユウマは事の真相を確かめるべく、獣人の少女に何があったのかを問いかけると、おずおずといった形で喋り始める。
「今日は森の奥でオークの住処を襲う予定でした。でも、森の真ん中くらいで異変を感じたんです」
「異変?」
「はい。森の奥から魔物が次々と逃げ出して来て、そんなことは今までなかったので、どうしたらいいかわからなくて」
「それで?」
「私は帰りましょうって言ったんですけど、ご主人様がそのまま行くと言って森の奥に行くと、シャドウベアーが現れて一瞬で皆、殺されました」
「そうだったのか」
獣人の少女は少し暗そうにしていて、話を聞いたユウマもいい気はしなかったのか、暗い顔をしていた。
「でも、あなたが助けてくれました。奴隷である私を助けてくれました」
「当たり前のことをしただけだ。俺は祐真だ、よろしく」
「私はエレナです、よろしくお願いします。それでユウマさん、あの………私をユウマさんの奴隷にしてください!」
「え⁉」
首がもげるかの勢いでエレナは頭を下げて、ユウマは驚いた声を上げる。
「ちょっ、えっ、何でそうなるんだよ!」
「私の命を助けたお礼に差し上げられるものは、もう私の体だけですので」
「いや別にお礼なんていらないんだけど」
「そういう訳にはいきません!」
ユウマは断るが、なおもエレナは引き下がらず食いついてくる。
どうしたものかと、ユウマは頭を悩ませる。
別にエレナを奴隷にするのはいいが、ユウマの一番の問題はお金である。
異世界に来て、当然お金など持っていないユウマは、今日の自分の宿代を稼ぐので精いっぱいなのだ。
それに加えてエレナの宿代や、生活費なども考えると、頭が痛くなるのをユウマは感じる。
「別に嫌って訳じゃないんだけどな〜、俺、今金ないんだよ。だからエレナを奴隷にしたとしても、金がないから生活出来なくなるんだ」
「じゃあ私も冒険者になってお金を稼ぎます!」
「え、エレナって戦えるのか?」
「はい。剣なら多少は使えます」
「そっか」
ユウマはエレナが戦えることに内心驚きながらも、エレナを奴隷にするメリットを考える。
エレナと2人で冒険者になったら1人よりもお金が貯まり、普通の生活を送ることが出来る。
それに、このまま奴隷商に返すのも可愛そうだろう。
「わかった。エレナを俺の奴隷にする」
「本当ですか! ありがとうございます!」
これまた勢いよく頭を下げたエレナにユウマは苦笑して、これからどうなることやらと、青い空を見上げて考えるのであった。