12話 トルート村(1)
アルヴァノ王国から馬車を走らせて2時間くらいしたころ、エレナのお腹がグ〜ッと小さく鳴る。
エレナは顔を真っ赤にして、すぐに俯くが、その仕草が可愛いなとユウマは思った。
だが、いつまでもこのままの空気はよくない、と思ったユウマは、すぐにフォローする。
「お腹減ってきたし、そろそろ昼ごはんにするか」
「了解〜」
エレナはバッと顔を上げ、ユウマを見るが、ユウマはエレナのお腹の音を聞いていなかったように、外の景色を見ている。
ありがとうございます、と心の中でエレナはお礼を伝える。
「この辺りでいい?」
「ああ、その辺りでいいぞ」
近くの木に馬を止めて、ユウマ達は馬車を降りる。
さっそくユウマはアイテムボックスから、さっき買った食材を取り出し、雑貨屋で買った鍋も取り出す。
「何を作るんですか?」
「今日はカレーだな」
なんとこの世界にもカレーが存在して、先代の勇者が伝えたという。
先代の勇者ありがとう、とユウマは感謝しつつ、カレーを作り始める。
「何か手伝えることはないですか?」
「そうだな………じゃあ人参とじゃがいもを切ってくれ」
「わかりました」
エレナはユウマが取り出したまな板の上で、人参とじゃがいもを切り始める。
鼻歌を歌いながら尻尾をフリフリさせて、楽しそうに切っている。
対してアインはというと、馬車の上で寝転がっている。
文句を言おうとしたユウマだったが、これから1週間ずっとアインが馬車を走らせるので、相当負担がかかるだろうと思い、何も言わなかった。
「ご主人様、次は何をすればいいですか?」
「もう出来たのか⁉ エレナって料理出来るのか?」
「はい。料理は得意なので任せてください」
エレナは両手をグッと握り、ユウマにアピールする。
これならエレナに料理を任せられるな、とユウマは考え、エレナに残り全てを任せる。
「俺はちょっと周りを見てくるよ。カレーは頼む」
「わかりました! 任せてください!」
そう言い残し、ユウマは森の中に入っていく。
一応周りに何があるのか、そしてどんな魔物がいるのかという情報は、持っていた方がいいだろう、と考えているユウマだった。
残ったエレナは、ユウマに言われた通りにカレーを作っていると、寝ていたアインが起き上がって、周りをキョロキョロしている。
「どうしたんですか、アインさん?」
「ねぇ、ユウマは?」
「ご主人様なら森に行きましたけど」
アインにユウマの場所を聞かれたエレナは場所を教えると、アインは馬車の上から降りて、森に行こうとする。
「どこに行くんですか、アインさん?」
「どこって、ユウマのとこだけど」
アインは気だるそうに言うと、エレナは何かを決心したような眼で、アインに問う。
「あの、アインさん。アインさんってご主人様のこと、好きですよね」
「うん、そうだけど」
あっさりとアインが答えたので、一瞬エレナはポカ〜ンっとなるが、すぐに切り替えて問いただす。
「好きになったきっかけは何ですか?」
「う〜ん、やっぱり村の皆を助けてくれたことかな。私そういうのに弱いみたい」
アインは恥ずかしそうに少し頬を赤らめて、あの日のことを思い出している。
だが、すぐに切り替えて、今度はアインがエレナに質問する。
「エレナもユウマのこと好きだよね」
「えっ! そ、そうですよ! 何か文句でもあるんですか!」
「いや、別に文句はないけど」
いきなりの質問にエレナは顔を赤くして、自分でも何を言っているのか、わからなくなる。
だが、ここで負ける訳にはいかない、とエレナは判断しアインに宣戦布告する。
「アインさんには絶対負けませんから!」
「いや、負けるも何も2人とも好きなら、2人とも好きになってもらったらいいんじゃないの?」
「え?」
エレナは今まで考えたこともなかったことを言われ、少し考える。
つまり、アインが言っているのはこういうことだ。
ハーレムを作ろうと。
「ハーレムを作ろうってことですか?」
「う〜ん、まぁそんなところ」
「確かにその考えはありませんでした。ハーレムならお互い協力しあってご主人様に好きになってもらえる。いい考えですね!」
「そうでしょ」
アインは豊満な胸を得意げに張り、エレナはそれを尊敬の眼差しで見ていた。
✼
一方その頃、ユウマは森の中で魔物と遭遇していた。
魔物の正体は鋭い歯を持ち、毒を吐く巨大な蛇だ。
「あの毒に当たったら一瞬で死ぬな」
ユウマは冷や汗をかきながら、巨大な毒蛇の動きを観察する。
少しでも油断したら死んでしまうが、ユウマはあまり恐怖を感じていなかった。
オークウィザードを倒して、余裕が出てきたということだろう。
毒蛇が毒を吐く動作をするが、それより早くショットガンを眉間にぶち込む。
グラッと体が揺れ、その一瞬後に巨大な毒蛇は倒れる。
「一応アイテムボックスに収納するか」
巨大な毒蛇に触れた瞬間、その姿は消えてアイテムボックスに収納される。
ふぅ〜、とため息をついて、ユウマは来た道を帰る。
「そろそろカレーも出来上がってる頃だろ」
ユウマは頬を緩ませ、エレナの作ったカレーに期待するのだった。
✼
「「「いただきます!」」」
ユウマ達は同時に手を合わせて、カレーを食べ始める。
人参なども綺麗に切られていて、本当に料理が出来るんだな、とユウマは感心する。
「食べ終わったらどうする?」
「10分くらい休んでから出発しよう」
「了解」
ユウマ達はゆっくりとカレーを食べ、10分間の休憩後にトルート村に向けて出発する。
「休みたかったら言ってくれよ。アインが倒れたら馬を走らせられないからな」
「は〜い。きつくなったらすぐに言うわ」
「私は料理でアインさんを元気にします!」
「おう、頑張ってくれよ」
そう言ってユウマはエレナの頭を撫でてやると、頬を染めて嬉しそうにしている。
その顔を見ているだけで、自然にユウマの頬も緩む。
「あっ! ずるい、私も撫でて」
「はいはい」
ユウマはそう言うと、アインの頭も撫でてやる。
アインは嬉しそうに頬を緩ませ、猫のように喉をゴロゴロ言わせている。
「そんなに嬉しいのか?」
「うん、嬉しいわよ」
「私もご主人様に撫でられると嬉しいです!」
右手にエレナの頭を、左手にアインの頭を撫でながら、代わり映えしない外を見ていると、後からシャドウウルフが全速力で馬車を追い越していく。
「なんだ?」
「ご主人様! 後ろです!」
エレナは鋭い声でユウマを呼び、後ろを向いたユウマは一瞬思考が停止する。
それもそのはず、後から雷を体に纏わせて、背中はギザギザに尖っている虎が、馬車に向かって走って来ているのだ。
その虎を見た瞬間、ユウマは強大なプレッシャーに襲われる。
こいつはやばいと。
「アイン! 全速力で逃げろ!」
「全速力っていっても、馬はそんなに速くは走れないんだけど!」
「ちっ!、どうする?」
まだ馬車との距離はかなりあるが、数秒で追いつかれるだろう。
ユウマはその数秒で、どうやったら全員生き残れるかを考える。
「なんでここに雷帝が」
「知ってるのか、エレナ」
「はい。SSランクの魔物です。Sランク冒険者が5人いて、倒せるかどうかわからない魔物です」
SSランクという単語を初めて聞いたユウマだが、それよりもSランク冒険者が5人いても倒せない相手というのに驚きを隠せない。
「エレナ、これを持っていてくれ」
「なんですか、これは?」
「これに魔力を込めると、相手の元まで光が導いてくれる指輪だ」
以前ユウマは、なにかしらのアクシデントでエレナと離れた場合でも、ちゃんと合流できるように作った指輪だ。
「なぜ今これを?」
「俺が雷帝の注意を引きつける。その間にお前らは逃げろ」
「な、なにを言っているんですか⁉ そんなの嫌です!」
「命令だ! それを持ってアインと逃げろ!」
「そんな」
エレナは絶望した顔でユウマを見る。
それもそうだろう、雷帝と出会って生きていたものなど存在しないのだから。
「アインは幸い聞こえてないみたいだから後は頼むぞ」
「ご主人様!」
ユウマは馬車を飛び降りて、こちらに向かってくる雷帝を睨みつける。
「さあ雷帝、俺と遊ぼうぜ!」
こうしてユウマと雷帝の勝負が始まる。




