プロローグ
ドパンッ!、ドパンッ!と祐真は森の中を走りながら、並走して来る黒色の狼に銃を発砲する。
「はぁ………はぁ………はぁ………クソッ、どんだけいるんだよ」
祐真は悪態をつきながら、左右の狼に両手の銃をそれぞれ1発ずつ発泡しながら、こうなった経緯を思い出していた………
✼
「やばっ、このままじゃ遅刻じゃねーか」
冬のある日、神崎 祐真は寝癖の付いた髪を押さえつけながら、学校まで走っていた。
いつもなら遅刻などしないのだが、今朝は目覚し時計が壊れていて、アラームが鳴らなかったのである。
運というものは、ツイていない時はとことんツイていないものである。
学校が見え始めて、なんとか遅刻を間逃れたと頬を緩めていた祐真は、次の瞬間、前からナイフを持った通り魔に刺されて、苦虫を潰したような顔になった。
「えっ?」
一瞬何が起こったか分からなかったが、次の瞬間には、お腹が熱くなって、自分が刺されたことに気づく。
「がはっ!」
口から血反吐を吐き、力なく地面に横たわる。
痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
祐真は視界が薄れゆく中で、「ああ、俺、ほんっとツイてねーな」と心の中で思いながら18年の短い人生に幕を降ろした………と、思われたが、神様はどうやら祐真に対して優しいらしく、次の瞬間、目を開けると路地裏のような場所が広がっていた。
「は?」
祐真は呆けた声を出し、先程刺されたお腹を触るが、そこには血の1滴も付いていない。
「どういうことだ?」
辺りを見渡し、可能性を考える。
1つはもう死んで、ここは死後の世界ということ。
いや、死後の世界なんて本当に存在するのかもわからない以上、可能性としては薄いだろう。
2つはまだ死なずに、夢の中ということ。
いや、これはあり得ない、刺された時の血の量から察するに、一命を取り留めたということはあり得ない、と祐真は自分の考えを否定する。
3つめはラノベとかでよくある、異世界に来たということだ。
ここが異世界なら、自分のステータスを見ることが出来るはずだ。
それが出来なかったら、3つめの選択肢も間違いということだ。
「確か………“ステータスオープン”!」
祐真は自分の読んだことがあるラノベの中に出てくる、ステータスを確認する言葉を唱えると、目の前にホログラフィックみたいなものが表れ、「マジ?」と驚き、書かれている内容を確かめる。
───────────────
名前:神崎 祐真
年齢:18
性別:男
種族:人間
LV.1
HP:150
MP:550
STR(筋力):170
DEF(防御力):130
AGI(素早さ):160
スキル
創造魔法
────────────────────
「………マジでここ異世界なの?」
目の前の文字を見て、祐真はここが異世界だということを思い知らされる。
でも、何故俺は異世界に来たのか、と祐真は疑問に思う。
だが、考えたところで、どうやって祐真は異世界に来たかなど、誰にも分からない。
「考えても分からないし、とりあえず情報収集と寝床を探すか」
祐真は路地裏を道に沿って歩き、開けた場所に出ると、そこには、人や、エルフ、獣人に、竜人と、さまざまな種族が道を歩いている。
「すげえ、ザ・異世界って感じだ」
通り過ぎるさまざまな種族を見ながら呟き、祐真は辺りを見渡す。
建物は中世のヨーロッパみたいな感じの建物が、軒を連ねている。
「とりあえずは、金集めだな」
祐真は今日の宿代を稼ぐ為に、近くの20代くらいの女性に声をかける。
「あの、今ここに来たばっかりで、宿代を手っ取り早く稼げるところってないですか?」
「宿代ですか? そうですね〜、販売系だとお金が貰えるのは結構後になりますから、危険を伴いますけど冒険者が妥当だと思いますよ」
祐真が声をかけた女性は、嫌な顔1つせず祐真の質問に的確に答えた。
「冒険者ですか。ありがとうございます。ちなみに何処にあるかって知ってますか?」
「冒険者ギルドは21番地にありますよ」
「21番地?」
「あっ、ここアルヴァノ王国は、その大きさから街を大きく分けて3分割したんです」
どうやらここはアルヴァノ王国という国らしく、かなり大きい国のようだ。
「真ん中の王城を抜いた内側の円から、1番地〜10番地が貴族街、11番地〜20番地が市民街、21番地〜30番地が商売街になっているんです」
「ここって何番街なんですか?」
「ここは22番地です。冒険者ギルドは1つ内側の場所です」
女性は21番地がある1つ内側の道を指差し、祐真に伝える。
「何処が何番地かって、どうやってわかるんですか?」
「壁に掛けられている看板に数字が書かれていて、その数字が番地になっていますよ」
女性の言うように、所々に壁に掛かった看板があり、22という数字が書かれている。
「わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ、お気をつけて」
頭を下げて、祐真は1つ内側の21番地に歩いて行く。
✼
祐真は今、冒険者ギルドの前に立っていて、なかなか中に入れないでいた。
理由はと言うと、少し怖いからである。
「どうしよう、殺し屋みたいな顔のやつしかいなかったら、殺されるぞ」
額に汗を滲ませまがら、扉に手をかける。
「よし、行くぞ!」
祐真は覚悟を決めて、冒険者ギルドの扉を開けると───
「酒もう一杯!」
「肉お代わり!」
「この依頼を頼む!」
ガヤガヤとまるで祭りのように騒がしいが、その顔は皆楽しそうな笑顔を浮かべている。
しかも男以外にも女性もかなりいるようだ。
予想外の光景に放心状態の祐真だったが、すぐに理性を取り戻し、受付に向かう。
冒険者ギルドは2階建てになっており、1階が受付や依頼が貼られている掲示板があり、ちらほらテーブルや椅子がある。
2階は1階からも見える開放的な場所になっており、テーブルや椅子があり、酒場状態になっている。
祐真は5つある内の真ん中にある受付に歩いて行くと、祐真に気付いた受付嬢が声をかけてくる。
「ようこそ、冒険者ギルドへ。受付をやっておりますリーンです。今日はどのようなご要件でしょうか?」
リーンと名乗った女性は茶髪のロングヘアで、優しげな黒い瞳をしており、胸は大き過ぎず、小さ過ぎずといった、ちょうどいいサイズになっている。
10人中10人が可愛いと言うだろう。
「えっと、冒険者登録したいんですけど」
「冒険者登録ですね、わかりました。この用紙に名前と種族を書いてください」
「わかりました」
祐真は用紙を受け取り、名前の欄でペンが止まる。
「これってフルネームで書いた方がいいのか? リーンさんも名前だけだし、俺も名前だけでいいか」
リーンに聞き取れない程の小さな声で呟き、名前の欄にユウマとカタカナで書いて、種族の欄に人間と書きリーンに手渡す。
「えーと、ユウマさんと言うんですね。ではまず、試験を受けて貰います」
「試験ですか?」
「はい、でも心配しなくて大丈夫ですよ。ゴブリンを3体倒して来て貰うだけですから」
ユウマの不安そうな顔を読み取ったのか、リーンは安心させるようにユウマに言う。
「それが出来たら冒険者になれるってことですか?」
「はい、そうです。ここから一番近いのは北門ですから、これを門番の人に見せたら通れるようになっています」
そう言ってユウマが貰ったのは、名前と種族、そしてギルドカード(仮)と書かれた木の板だった。
「あの、北門っていうのはなんですか?」
「北門というのは、この国にある東西南北の門の1つのことです。冒険者ギルドは21番地の北の方にあるので、北門が一番近いということです」
「そういうことですか、わかりました。では行ってきます」
「はい、お気をつけて」
リーンはどうか無事で帰って来ますように、と笑顔でユウマを送り出した。
✼
「さて、どうするかな」
ユウマは今、1つの問題に直面していた。
それは、どうやってゴブリンを倒すのか、ということである。
「武器を買うお金もないしな………あっ!そういえば」
ユウマは何か思いついたように、自分の“ステータス”を開き、その文字を見つける。
「………創造魔法」
そう、ユウマの“ステータス”のスキルの欄に、唯一書かれていた魔法だ。
「創造魔法ってどうやって使うんだ?」
疑問に思い、ユウマは創造魔法の字をじっと見ると、説明文が浮かび上がってくる。
「なんだこれ? えーと、なになに、頭の中で考えたものに魔力を込めると、具現化する。ものによってMP量が変化する………か」
説明文を読み、さっそく試してみることにしたユウマは、頭の中に流れ込んで来た詠唱を唱える。
「───“創造”」
ユウマは目を閉じ、日本の兵器である銃を思い浮かべる。
それもただの拳銃ではなく、ショットガンを思い浮かべ、中の構造から外の外観までしっかりと思い浮かべる。
すると体の中から何かが抜けるような感じがして、目を開けるとユウマの手にはショットガンが握られていた。
「マジで、出来た」
ユウマは頬を緩ませるが、その直後に体がふらつき始める。
「やべ、MP使い過ぎたか」
“ステータス”を開くと、MPが550から50になっていた。
そう、ショットガン1つ作るのに、MPを500も消費するのだ。
そして、ユウマは平然と作っているが、この世界でMPが500以上あるのは、魔法使いでもLV50以上からなので、創造魔法は外れスキルと言われている。
だが、LV1でMP550もあるイレギュラーであるユウマは、平然とやってのけることが出来るのだ。
そして、そのイレギュラーを簡単に見逃すほど、この世界は甘くはないのである。
「創造魔法の使い手を発見しました」
物陰からユウマの魔法を見ていた男は、“念話”を使い上の者に報告する。
『よくやった、引き続き監視を続けろ』
「はっ!」
この国の裏で暗躍している組織の1つが、ユウマに目をつけたことなど、当の本人がわかっているはずもなく、ユウマはおぼつかない足取りで北門へと目指す。