六、新村
1部に部位欠損の描写が出てきます。
「ハル、どうしたの?点検?」
「そう、そんな感じ。」
「新村ってどこ?」
「最近見てないよ。」
「そうなの?」
「新村ー?」
…返事がない。
まぁいいか。勝手に見て回ろう。
確か木の実が半解凍とか言ってたな。
今は混んでるからだろうか。木の実の硬さは倉本と大差ない気がする。量はこちらの方がやや多いか。
気温も倉本の所と変わって…おや?数度高い…?
おかしい。倉本の所にいた時よりかなり日も傾いてきた。気温は低くなるはず…。
木霊の栄養分は基本土に含まれるものだ。
だが、季節外れの木の実を付ける、花を咲かせる、体を動かすなどをして栄養分が足りなくなった時、それを補うために、木霊達は周りのものから魂魄を吸い上げる。
魂は生き物のみだが、魄はあらゆるものに含まれている。熱も例外ではない。
つまり新村は何か別のものから栄養分を吸い上げている。さらに12月の下旬に木の実を付けるだけの栄養分を補えるものなんて限られてくる。
新村の周りを見てみたが、何も落ちていなかった。考えられるのは雪に埋まっているくらいか。見つけられたくないなら上か下だよなぁ。
雪下ろしついでに上から見てくるか。
普段はほとんど登らないからな。安全な枝がわからん。
葉が付いているせいでかなり雪が積もっている。
見ただけではどれかわからないか。
自分が登れる限界まで来たところでめちゃ長スコップで頂上から順々に雪を落としていく。
中腹辺りにきた頃、何やら重い感触が伝わってきた。
(ビンゴだ。)
手で丁寧に雪を払うと人の死体が出てきた。
下半身が無いから3日、長くて4日か。まぁ、元々無かったなら別だが。
この腕章、巳の者か。
ネコミヤ ナナセ。見覚えのある名前だ。
カバンに入れていた行方不明者リストをペラペラとめくっていく。
ちなみに自分がなぜ下半身の無い死体に平然としていられるかと言うと、この遺体が綺麗なのと、切断面ではなく、幽霊の足のように透き通って見えるからである。
断じて強力なグロ耐性を搭載している訳では無い。
(見っけた。)
顔写真とも一致する。おそらく本人だろう。
転生者なのか。でも意外と歳がいっている。森で寝れば食われることを知らない歳でもないだろうに。
自殺か他殺か。まぁ、最近雪降ってたから確かなことは分からないが、隠されてる風だったし、大体の予想はできるが。
あとは、残りの雪を下ろして、雪なげして、資料館で確認してもらって、死体は…遺族がいるなら見せるべきかもだけど木霊に1度やった者を奪うのは御法度だからなぁ。
「ハル〜…。」
「あ、久しぶり。」
雪を下ろし終わった頃、新村が話しかけてきた。
「あのさ、あれさ、えっと…。ぼ、ぼくは悪くないんだよ!勝手に知らないのが置いてったんだよ!」
「確認しないで手出したのは悪いと思うけどさ…。」
(他殺かな。)
「んー別にいいよ。」
「その置いてった人どんなか覚えてる?」
「うーん…わかんない…。」
「あ、でも!なんか耳飾り付けてて、なんかシャランシャラン鳴ってた!」
「シャランシャラン?」
「この前ハルと行ったカラクリの店のドアについてるのみたいな!」
木霊は基本、体のある場所から数メートル程しか移動はできない。だが、木片さえあれば意識のみをそちらへ移すことは可能である。
ちなみに自分はカバンに木霊4人分の木札を付けている。正直歩く度にカラカラうるさい。
「あぁ!」
「でも、それだとわかんないなぁ。他には?」
「…あとは忘れちゃった。」
「使えないなぁ。」
「ひどい!せっかく教えてあげたのに!」
「嘘だよ。ありがとう。」
「あ、あとその人何日前に置いてったの?」
「えー…一昨日かその前とかかなぁ…。」
(大体予想通りか。)
「ありがとう。」
…一通り終わったな。栄養剤は…いらないか。倉本に全部さしてやればよかったかな。
「じゃ、もう行くね。」
「この腕章持ってくけどいい?」
「うん、それくらいならいいよー。」
「じゃあねー。」
大体5時半か。もう真っ暗だ。資料館寄ったら帰るのは6時過ぎかなぁ。
自分はそこまで走って移動することにした。
5時50分。問題ないな。
扉を開け中に入っていく。夕方な事もあってかかなり人も少ない。すんなりと順番がきた。
カウンターまで行くと木霊の木でできた木札を見せる。
「ツバノ地区担当のコウジロです。」
木霊の木札は管理人の証明書代わりにもなるのだ。
「新村の様子を見に行ったところ、ネコミヤ ナナセさんと思われる遺体を発見しました。」
「こちらが遺体に付いていた腕章です。この方は以前行方不明者リストで見かけました。本人確認をして頂ければ艮のハルカゼにはこちらから話をつけますので。」
「わかりました。こちらに名前を。結果が出次第お呼びしますので、待合席でお待ちください。」
めんどくさい。疲れる。帰りたい。
なんで成人してないのに家業を継がねばいかんのだ。嫌じゃないからいいけどさ。
あの人は当たりだったな。各職業の要人把握できてない人とか、新人さんのところに行ったら明らかに未成年だから管理人って信じてもらえないし、遺体って聞いて大慌てだしでめっちゃ時間かかるんだよなぁ。
「コウジロ ハル様、鑑定結果が出ました。3番のカウンターまでお越しください。」
今回は結構早いな。ラッキーだ。
「結果ですが、材質、製造番号、名前共に一致しました。本人の物で間違いありません。」
「こちら鑑定書になります。」
「ありがとうございます。」
ランに話をつけとくと言ったが今日遅いんだよなぁ。
今日の夜に祭りに行けば会えるかな。会えなくても適当な人に呼び出してもらえばいいか。
用も無くなり、そそくさと退館する。
ここからシュウの家までどう行ったら近いかな。
南側の上の道は坂登るの面倒だな。じゃあ下から…だめだ。下の道は祭りの区域に入ってる。2日目は夜の部から混み始めるからなぁ。あと1時間もしたら始まるしもう混んでそうだなぁ。
上から行こう。
「ただいまー。」
「ん?お邪魔します…?」
「おかえりー。」
「ごめんね、お腹空かなかった?なんか食べたの?」
「え?ヒナタの分も謎のパン作って置いてったはずだけど?」
「え?そんなのなかったよ??」
「え???」
「え、あ…それオレ食っちゃった…。名前書いてなかったから…。」
「…。」
いや、まぁ、これはシュウが帰ってくる時間帯にヒナタのって書かずに放置した自分が悪い。
そういえばラン探しに行かねば。
「そうだ。これからお祭り行くからシュウついてきてよ。」
「えー…いいけど…。」
シュウはチラッとヒナタの方を見る。
「ん、あぁ、私なら大丈夫だよ。」
「そうか…?なら行ってくる。」
「いってきます。」
「はーい。暗いから気をつけてねー。」
十二支:
子〜亥に当てはめた機関の総称。証明証代わりにそれぞれ色の違う腕章を付けています。
丑,寅:
警備やあの世とこの世を繋ぐ門の整備など。上位機関に艮が存在する。どちらも十二支の中で最も行方不明者が多い機関です。青の腕章。
木霊:
この世で唯一食肉を許された生物です。人や動物は遺体を差し出す代わりに食べ物を分け与えてもらっています。
亜人には、1年意識が戻らなければ、生きたまま葬式を執り行う決まりがあるので、木霊は食べていい者と悪い者の区別が付けられません。