気づき。
『アリスとドラゴン』
私は1人で森を探索していた。
ユキとシロは2人で情報収集のために街をまわっている。
私は大人しく待ってていいよなんて言われたけど大人しくなんてできるほど大人じゃない。
私もなにか役に立ちたいのだ、と森の中になにかヒントがないかと歩き回っていた。
その時。
がさ、とどこからか音がした。
私はびく、と体をふるわせる。
誰かいる。
大丈夫だ。
私にはユキから貰った影の力を手に入れているから。
ぐ、と何かに堪えるようにその場に立ち尽くすと、上から何かががさっと顔を出した。
私はひっと声が漏れた。
「……アリスじゃねぇか。」
綺麗な赤髪をなびかせるドラゴンがそこにはいた。こいつは髪色が酷く綺麗でよく覚えている。あの中の悪いクロでさえも認めるほど体の色素が美しいのだ。
そして、前に会って戦ったことがある。
破壊しか頭にないおかしなドラゴンだ。クロならまだしもピットに会ってしまうなんて。
自分の運のなさにつくづく舌打ちする。
「こんな場所に1人で歩いてるなんてめずらしいんじゃねえの?」
「お前に逢いに来たわけじゃない。」
「俺もお前に会いにここにいるわけじゃねえよ、」
そんなこと分かっている。
ここはこいつの住処でもある。
だが森の中はひろい、出会う確率は低いと思っていたのに……。
なんてことだ。
「戦いに来たのか?アリス。」
「っ、……そうよ。」
本当は戦いたくなんてない。
だって私は能力こそ与えられたけど、ユキやシロみたいに綺麗に戦えるわけがない。
でもこのドラゴンにはあまり弱いところを見せたくない。
声が震えたが、なんとかそう言ってみせた。
するとピットは目を丸くすると、はっと息を吐いて笑った。
「おい、めちゃくちゃビビってんじゃねえの。だって声が震えてんだよ。」
当たり前だ。
まずゲームの世界とはいえ、生き返ることが出来るとはいえ、相手は人間ではなくドラゴンとかいう人外だ。
それが破壊魔のこいつであれば尚更怖いに決まっている。
「っ、そんなこと、」
「まぁいいや、別に今俺そんな気分じゃねえし。なぁ、俺腹減った。なんか飯くれよ。」
「……。」
なんだこいつは。
いきなり敵に食料をねだる阿呆がいるだろうか。
しかしこいつの目を見る限り本当にお腹が減っているらしく、その瞳には珍しく破壊魔の鈍い光は宿っていなかった。
「その辺の木の実をたべればいいじゃない。」
「だからその木の実を、りょうり?、してくれよ。人間ってやつは、りょーりってやつが出来るんだろ?りょーりすると上手くなるって聞いたからな。」
料理の意味をよくわかっていないらしいがそれなりに情報は知っているらしい。
馬鹿な頭を持っているなりに生きているのだな、とため息するが何だかその言葉を聞いてるうちにこのドラゴンが少し可愛く見えてしまったのは私が疲れて末期だからであろう。
「……仕方ないわね、分かったわよ。木の実を持ってきたら何か作ってあげる。」
「……!ふ、まじか。おう、持ってくるぜ。」
「……!……。」
その笑顔に驚きながらも私は頷いた。
彼は翼を広げてどこかへ飛んで行った。
母も父もろくな奴ではない私は1人でいつも料理をしている。
ある程度はできるはずだ。
飛んでいく前の、あの笑顔を思い出した。
今まで見たことがないくらい、子供のよくする純粋な笑顔だった。
私は、胸が何故か締めつけられて顔が熱くなるのを感じた。
「っくそ。」
あの笑顔は、可愛いと思いたくなかったのだけれど……。
どうやら無視はできないようで、私はため息をついた。
この日から、私とピットの距離が少しだけ近づいた気がしたのだ。