ゲームとバグ
目が覚めて、ついに私は死んだのかなぁだなんて思ってしまった。
瞼を開けたら、モノクロだったから。
そう。
モノクロ。
上半身を起こすと、どうやらどこかの路地裏らしいのだが空の色も建物の色も何も無い。
黒と白しかない空虚でおかしな光景だ。
「なに、……どこ、ここ。」
「ゲエムの世界さ。」
「……は?」
「君たちで言う僕たちの世界は、ゲームの中だよ。」
私は頭が混乱してしまいしばらく黙る。
どうしてかモノクロの世界なのに、このうさぎの色は健全で金色の瞳がこちらを見つめてる。
「あのね、僕実はこの世界の住人……つまり君たちで言うゲームの人なんだ。」
「……。」
「自己紹介がまだだったね。僕はユキ。ゲーム紹介版だと白うさぎって呼ばれてるよ。」
ふふっとユキと呼ぶらしいそいつは笑う。
「このゲームの世界観はスチームパンク。君は知ってるかな?この世界は蒸気機関で全て廻っていて、蒸気機関車で世界は動いているのさ。」
「へぇ……本で読んだことはあるけど、そんな世界ホントにあったんだね。」
「君たちで言う、もしもの未来の世界だね。」
くふくすとユキは頬を緩ませっぱなしだ。
何がそんなに楽しいのだろう。
自分も自己紹介をしようと思っていたけど、そう言えば何故か知っているんだと思い出してその口を閉ざした。
「見ての通り、色がないんだよ。」
「……そうだね。」
「実はこれは、バグなんだ。」
「…………。バグ?」
よくリアルで聞く、バグった、等と聞く言葉だ。あまりいい意味で聞いたことがない。
その通りなのかユキの顔は歪んでいた。
「何故かこの世界の0と1が歪んでしまってね、バグが非常に酷くて周りの人間や物の配置すらバグりはじめてしまったんだよ。」
腕を引かれて立たされると、路地裏を出て外に出る。そこは確かに本で読んだその世界が広がっていてモノクロながらも目を丸くした。
そんな光景をじっと見る余裕もなく、ユキは通りすがりの人間に声をかけた。
「あの、もし。」
そこから見ていてとでも言うように私を見つめた。私は話しかけられた人間を見つめる。そして驚愕した。
人間は男性で、話しかけられると何かボソッと話したあと、目をぐるぐると気持ち悪いほど回しながらゲラゲラ笑って大きい声で訳の分からない言葉を発した。
「縺翫d?溘Θ繧ュ蜷帙§繧?↑縺?°縲√%繧薙↑謇?縺ァ菴輔@縺ヲ繧九??」
「……ひっ、」
私はびくっと青ざめる。
男性は私たちを襲うことも無くその場を離れていった。
「…………。」
「分かったかな?あれもバグの1種。」
「…怖い。」
「そうだね。」
ユキは顔を横に向けると目を見開かせて舌打ちした。
何?と思うと、なんとその方向には形であったはずのものが原型を定めていない何かの「もの」としか言いようのないグロテスクな生き物がいた。
「バグモンスターだ……!」
「へっ?」
ユキはなんとどこからかゲームの仕様なのか弓を取り出すと大きく矢を引いてそいつに放つ。
中心に命中すると、あっけなくそのモンスターはその場から消失した。
「最弱でよかった、こんな街中にまであいつらは来てるというの……?」
独り言のように言うユキに私は混乱しながら聞く。あれは何、するとユキは答えた。
「バグモンスター、……あいつがある日突如現れて世界はこんなバグだらけになったんだ。アイツらを僕らは倒してるけど…ダメなんだ。アリスがいないと。」
「あのさ、そのさっきっから言ってるアリスアリスってなんなの?」
「アリスはアリス。……ゲーム進行には主人公が必要でしょ?けれどこのゲームには主人公がいつになっても出てこない。だから僕たちが痺れを切らしてアリスにそっくりな子を探してたの。」
「私が……そっくり!?」
「だから連れてきたんじゃないか!コマンド入力でわざわざ裏技まで使ってこの世界から抜け出したんだから!」
私は唖然とした。
主人公に似てるから、との理由でこんな訳の分からない場所に連れてこられて、挙句の果てにこの世界を救ってくれとの役目を負わされた。
書店に行くためのお財布のせいでこれだ。
「お願い。君の力が必要なんだ。」
……いいよね?
なんて、圧のある笑顔で見つめられればビビリな私はなんとも言えなくて。
ここからも出たいし、仕方がない。
「……わかったよ。」
「わぁっ……!ほんと?やったあ!君ならそう言ってくれると信じてたよ!大丈夫!死んでも残機があれば平気だから!!」
……死ぬんだ。
一瞬震えたが落ち着いて一息つく。
「じゃあ、全くストーリーとは別になっちゃうけどバグモンスターを倒そう!」
そのまえにシロに会いに行こうね!なんて言われてまだ誰かがいるんだ、と聞いてみた。
すると蒸気機関の広場にいるよ!といわれる。
「ちなみに、このゲームは元々どんな話なの?」
「スチームパンクとふしぎの国が混じったほんわかファンタジーだよ!みんなでのほほんと暮らして、恋をしたり仕事をしたり……。まだ試作品だからかなぁ、バグモンスターがいるの。」
恋をしたり仕事をしたり……。
リアルの私には到底無理だし、なによりこんな世界がもともとほんわかファンタジーゲームということに驚く。
私は少し軽く笑いながらも、歩き出した。