うさぎ
「……!しまった……!!」
やってしまった、と私は頭を抱えた。
やばい、財布を学校に置き忘れた。
何してるんだ、これじゃあ書店に行っても意味がなくなってしまうではないか。と自分を責めるがまだ学校の帰り道。
走れば余裕で間に合うし、たとえ家に遅く帰ったとしても親はいないし大丈夫だろう。
私は踵を返してまた走り出した。
忘れ物のためにまた同じ道を行かなくてはいけないということに酷く頭が痛くなるが財布を忘れるのはやばいだろうと思う。
その時。
「……?」
後ろでカランコロン、と音が鳴った。
振り返っても誰もいないし、音のない空っぽな光景が広がっている。
気の所為かな。
私は首を左右に振って、学校に向かって気を取り直してまた走り出す。
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─
「はぁっ、はぁ……っ。」
やっと学校に着いた。
殺す気か。
体力も随分落ちてしまったなぁと思ってしまう。
とりあえず教室に行こう。
はやく書店に行きたいのになんて心の中で愚痴りながら教室の扉の前についてはぁ、とため息を漏らしながら中に入った時。
私は固まった。
「……はぇ?」
「やぁアリス!ふふっ。見つけた。」
固まったのは体だけでなく頭もやられたようだ。思考が全く働かない。
白い髪に、金色の目、そして何故か兎のような耳が頭から垂れたようにはえている。
機関操縦士が使うようなゴーグルを頭につけていて満面の笑みでこちらを見ている。
私はついに鬱になったのだろうか。
それともこれは夢?
頭からうさ耳を生やした美少年らしきものが脳内の中に住んでいたのか、いや、侵されていたのか?
元々前から生きる意味とか生き方とか分からなくなっているようなつまらない人間だから、神様がついに呆れて何かの使いでも寄越したのだろうか。
「あれ?まぁ、びっくりするよね。」
「ゆめ、……?これはゆめ?それとも私は死んだの?」
「死んでないよ。あーりーす?」
こちらにぴょんっと飛ぶだけで一気に距離を詰めてきた。「ひっ」と喉元から微かな悲鳴が零れると思い切り尻もちをついてしまう。
財布を取りに来ただけなのに。
帰りたい。
精神科に行かなくては。
「ちょっとー、そんなにビックリしなくてもいいじゃない。折角アリスを見つけたのに。」
「私はっアリスじゃないっ!私はシャルカス……あなたは誰、何その耳、本物?」
思い切りその耳を引っ張ると兎は「いたっ!?」と声を上げる。
耳が動いた。
やばい、本物だ。
これはやばい。
「もー乱暴だなぁ。ほら、アリス。立って?僕と一緒に来て欲しいところがあるの。」
「は、ぁ!?ふざけないで、私は財布を取りに来ただけなのに!」
「それってこれ?」
「んなっ、……!?!?」
なんと私の財布をこのうさきが持っているのである。どういうことだ?
「ごめんね、取っちゃった。」
「いっ、っつのまに……?」
「君と二人きりで話したくてね、それでここに来てもらうためにお財布を借りたの。」
「返してっ。」
私は立ち上がってその財布を乱暴に取り上げる。
怖い。
警察呼んだ方がいい?
この人、……人?なのか分からないけど、絶対関わっちゃいけないやつだ。
「それじゃっ、アリス。行こ?」
「だからアリスじゃないって!」
「しかたないなぁ……じゃあ、シャルカスちゃん。来て欲しいな!!」
ぐいっと私の腕を掴んだ。
「ひいいっ!?はっ離してよ!」
「それじゃっいっくよー!」
いくら言ったって聞きやしない。
しかもさらに今、窓から飛び降りようとしている。私の腕を掴んで。
青ざめた。
やばい、殺される。
「はっ、はなし、っ誰っ誰か!!助けてぇぇえええ!!」
「そーれっ!」
「ぇ、やっ、ちょ、きゃあああああああ!!!」
窓から飛び降りて、体がふわっとした体感を覚えた。目の前が真っ暗になった。
私は意識を飛ばした。
最悪だ。