原因とシャルカスの変化
『原因』
どうしてバグモンスターなんか生まれてしまったの?
シャルカスは首を傾げる。
だってここはゲームの世界なんでしょう?
ってことは……、単純なバグが生まれたのならばプログラマーにでも頼めばいいのに。
バグを直してくれる技術のある人は探せばいるものなのよ?
と、ユキとシロの2人に言った。
すると彼らは肩を落とした。
ユキが口を開く。
「実はこの世界はゲームだけど、まだ世に知れてない試作品なんだ。」
「そうなの?」
次にシロが口を開いた。
「そそそ、実はこのゲームって、本当にキャラクター達は感情……つまり心があるようにプログラムされたんだ。0と1の世界じゃない、本当の世界があるようにって。」
心をプログラム?
今現代では、医学者ですら心を作ることは不可能だと言っているのに?
「このゲームの制作者がどうやってオレ達に心を入れたのはわからない。現実じゃあそれは不可能だって分かるさ。でも何故か、本当に心がオレ達には作られた時にはあったんだ。」
シロは俯く。
ゲームのキャラクターは、一定のことしか喋らないし、ほかのことを喋ると言ってもゲームにプログラムされた条件を変え終わらせないとイベントは発生しないことが多い。
確かに、この2人は条件を揃わずとも自分の思いを喋っているのだ。
シャルカスは目眩がした。
今まで普通に話してきたのに、それを意識するとなんだか普通じゃないとおもったから。
ユキは口をゆっくり開いてかすれた声を出す。
「それでね、みんな、心があるでしょ?……このゲームの主人公になるはずだったアリスは、プレイヤーの心になるから、心を与えられなかったんだ。」
「……。」
「そんなアリスは、不覚にも通常のゲームバグが発生した時に、誰かの心が移行したらしくて…自分だけ心を与えられないのは何故か、と怒っちゃってさ。その通常のゲームに出てくるバグはアリスのせいで、心とバグが混じっちゃって。こんな取り返しのつかない事になったの。」
そんな話が。
シャルカスは固まった。
心のないものに心をあげるなんて、悪魔のなせる技に違いない。
きっと制作者は禁忌を犯したのだろう。
それが、こんなことに、きっと代償として…。
「世界の色は無くなるし、バグモンスターは増える一方。アリスは、赤の女王を踏みつけてまで女王になったんだ。制作者はどこかに消えてしまった。なら、僕達でなんとかしなきゃって。」
「それで、アリスに似た私を……?」
そういうこと、とユキは苦笑した。
そしてその後ユキは、ごめんね、と呟いた。
なんて事だ。
まさか、本当にゲームバグを治すだけかと、バグモンスターはゲームの仕様かと思っていたのに。
あれは本物なのだ。
確実な、何かを持つ悪魔なのだ。
「……頑張ろう。」
「えっ?」
「頑張ろう!!」
ここに来てからシャルカスは確実に変わってきていた。
根暗で自分に対するひがみが多く、何に対しても無表情でいるようなシャルカス。
それが今や、こうして2人に励ましの声をかけている。
もしかしたら、私はかわれるのかも知れない。
「はやく、バグモンスター倒して、赤の女王の目を覚まさせてあげよう!」
「……!……うん、うん!」
嬉しそうなユキの隣でシロは微笑ましく笑っていた。
シャルカスちゃん、変わったね、と。
シャルカスは大きく笑ってみせた。
「じゃないと、赤の女王は倒せないよ!」
変わりつつある。
早く。
早くこの世界に安心を取り戻さなくちゃ─。