02話 邂逅
そこは光の中
目の前は白
一点の曇りもなく、輪郭もなく
ただただ白い光が眩しい
遠くから俺に語りかける声に耳を傾ける
聞いてる?
――――る
気づいてると思うけど君は死ぬ
――――
その世界ではね
――――?
そう
でもボクのお願いを聞いてくれたらこの世界に呼んであげる
――――
この世界で――――
――――欲しいんだ
君の手でね
――――
気楽に考えてみなよ?
――――
ありがとう。では改めて
ようこそ
新世界 ヴァルハラへ
「……」
「……」
そうだった刺されて
えーと
たぶん死んだんだ
神様見た気がするし。
痛いとかじゃなくて熱いというか寒さで焼けるようにというか
表現できない感覚に襲われたし。
あれで生きてるって考えるのは楽観的すぎるだろ。
て事はやっぱりここは天国か地獄か
状況を考えると地獄っぽいけどな。
地獄に落とされるような人生だったか……な?
んじゃ異世界か? なんかそんな気がする。
さてここが何処なのかは置いておいて、目の前の問題を解決しないといけないな。
死んでもゆっくり出来ないのか。忙しいね。
「はぁ」
夢の不労所得生活は夢のまた夢。
しかし解決策は目の前の女の子を殺す事。
例えこの世界ではそれが普通だとしても
その選択肢は今の俺には選べない。
でも殺さないと俺が死ぬんでしょ?
どうしよう……究極すぎるだろ。
「勝負中に考え事か? もう勝った気でいるとは度胸じゃっ!!」
メチャクチャ怒ってる。
叫びながらの猛攻。
ルーノが一方的に攻撃してくるけど
俺の剣で拳やら脚やら傷だらけ
その姿が痛々しくて、可哀想で仕方が無い。
でも剣道なんて学生の頃に体育でやった以来
武道の心得なんてない俺が戦えてるってこの現象は一体。
ルーノの攻撃をすべて剣ではじき、打ち落とし、斬り流す。
もうやめてくれ。
こんなの自傷行為じゃん。自殺一歩手前じゃん。
引けないのは解るけど、たぶん俺の勝ちは揺ぎ無い。
傷ついていく相手を見て楽しむ趣味はない。
なら
もう一思いに殺す事が救いになるのかもしれないとか思えてきた。
『そうだ。やれ』
洗脳のように心に声が響く。
自分の倫理観が崩れてくる。
心が悲鳴をあげる。
(嫌だ)
理性がひび割れる。
ここから逃げ出したい。
やめたい。怖い。殺す事は。
『終わりにすればいい』
急激なストレスに苛立ち
剣を握る手に力が入る。
色々な感情が臨界に達し。
『殺していいよ』
「――――っおおおおお!!!!!」
自分の意思なのか、無意識か
振り上げた剣をルーノ向かって無我夢中に振り下ろす。
「――っ!?」
完璧なタイミングで輝神ノ剣は瀕死のルーノの体を引き裂いた。
トドメの一撃になった。
はずだった。
引き裂かれていなかった。
ルーノの体が光で包まれ
凱風のような心地のいい風がこちらまで吹き抜ける。
あれ、傷治ってね?
見た目的には完治なんじゃね?
活人剣? いや、活神剣?
体の傷が無くなり喜ぶはずのルーノは
出会ってから一番といえる程の
鋭く怒気の篭った目で俺を睨み付けた。
驚いているのは俺も一緒なんだけど。
「屈辱……こんな侮辱を受けたのは初めてじゃ!! 殺される方がマシと思える程に穴があったら入れるぞ!!」
恥ずかしいのは凄く伝わったけど、怒りにも舵を切ったから変な事になったな。
「わらわの怒髪が天を昇ったぞ!」
ゴンさんかな?
「もう油断せぬ、手加減もせぬ、殺すっ!!」」
「嫌だ!」
「殺すっ!」
「嫌だって!」
「どうすればいい!?」
「わからん!!」
「んぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」
プンスコそんな表現がピッタリの状態になり棒立ちになったルーノは
地団駄をふみ
「きぃぃーーーー!! また来る! 首を洗って待ってるのじゃ!」
頭から湯気を出して、どこかへ飛んで行った。
脳筋がいなくなり荒野と化した大地にぽつんと一人。
輝神ノ剣は役目が終わったかのようにシザーに戻る。
俺はそれを腰にあるシザーケースに戻す。
一本しかなくて寂しい。
空いた両手を見ながら物思いにふける。
俺はこの戦いに消極的だった。
当然だ。
でも覚悟は決めたはずだ。
今後もこんな事が起きる可能性は大いにある。
なんせ、ちょっとしたすれ違い、勘違いで
あんな戦いになったんだ。何者かの悪意が働いたかのように。
前は殺される事を受け入れたけど
今回は違う。だって身に覚えないんだもん。
さすがにそれで殺される方を選ぶ程達観してない。
自分の身を守るには相手を殺さないといけない世界なら
俺は相手を殺す事を選択した。
はずだったのに
「なんでだ?」
戦いの中で傷つき消耗していた。
素人の俺でも解る。最後のあれはトドメの一撃になるはずだった。
いくらこの世界がおかしくても最後のはファンタジーすぎる。
理解が及ばない。
単純に理解をする為の情報と経験が足りなすぎる。
…
…
んん?
「まさかね……?」
少なくても、持ってる情報だけで答えが出てしまった。
「――っはは」
気づいた瞬間、空笑いの後、腹の底から本当の笑いがこみ上げてきた。
涙さえ出てくる始末。
こんな事で笑うなんて精神的に追い込まれてたんだな。
しかしふざけてるなこの世界。
でも嫌いじゃない。
〝荒神〟 ルーノを殺せなかった理由
「俺が美容師だったからか」