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01話 記憶

美容室激戦区であり、各種メディアで毎日のように話題にされる表参道もいいけど


自由が丘もいい街だ。


緑があり落ち着いていて、洗練された高級感もあって俺は好き。


俺、美作みまさか 大叶たいがは専門学校を出て、運良く有名店に入社。

35歳になって念願の店長を任されて毎日が充実していた。


昔はカリスマ美容師なんて流行ったけど

今は大分落ち着いて、TVに出たりする事もない。


表参道ではまだ話題になるみたいけど俺には関係ない。


負け惜しみじゃないけど

俺だって予約は一ヶ月先までは埋まってるし。


カリスマと呼べなくもないと……思う。


カリスマとちやほやされなくても職業柄

女性と触れ合う機会が多くモテる。


そもそも美容師なんてモテたいと思って目指したところが大きいし

でもやはり人間関係は難しいね。


後腐れなくってのがなかなか難しい

割り切った関係でって言ったのに!

なんて事が多々ある。


「大叶さん、絶対いつか刺されますよ?」


アシスタントの瑠美ちゃんは良くそういう事を言ってくる。


たぶん嫉妬だね。


さすがに店の子に手を出す訳には行かないから距離を取ってるのに

困った子だわ。


誰でも手を出すと思われると心外だね。

そんな風に思いながら常連さんと雑談をしながらカットを進める。


「麗香さん、駅前に出来たお店行きました? 凄く雰囲気が良くて麗香さん絶対気に入りますよ」


「大叶君……誰と行ったの? 私とは行ってくれるのかしら」


ふふふと笑いながら常連の麗香さんは鏡越しに妖艶な笑みで誘ってくる。


「本当に刺されればいいのに」


瑠美ちゃん以外にも数人がこっちを見ていた。


し、心外だね!



最後のお客様を見送り閉店。


中は風当たりが強く、外は雨が強かった為早く帰る事にする。


「先に帰るけど、戸締りはしっかりね。じゃーまた明日、お疲れ様!」


「「お疲れ様でしたー」」


雨は髪型もくずれるし、服も濡れたり汚れたりする

そのせいで気分が沈み


夕飯作るのめんどいから、食べて帰ろうかな


なんて思っていると後ろから声をかけられた。


「大叶!!」


聞いた事がある声。頭の片隅に残ってる声。


「大叶、いつ私の元に戻ってくるの? あの女がまだ別れてくれないの?」


目の前に元々カノがいた。


なんの話だ?


俺の理解力がないのか、彼女が勘違いしているのか。


「麻美? 久しぶりだな……も、戻ってくるって?」


可愛い顔が雨に打たれた髪でほとんどに隠れている

怖い、なんだろう普通の恐怖とは違う感じがする。


危機感みたいな。


「言ったよね? あの女が妊娠したとかで話し合うから一旦別れようって」


一旦じゃないんだけど……そういう伝え方した俺が悪いのかな

しょうがない、ここはハッキリと伝えないとまた期待させて、誤解させてしまう。


「ごめん。伝わってなかったかもしれないけど、麻美とは終わったんだ」


「一旦とかじゃなく、ちゃんと別れたつもりだったんだ本当にごめん!!」


多少女癖が悪いかもしれないけど、全員に真摯に向き合ってるつもりだ

ここは誠心誠意、心を込めて頭を下げる。


十秒か二十秒か。


顔をあげるといつのまにか目の前に笑顔の麻美がいた。


ドスッ


ドスッドスッドスッドスッ!


「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」


どこかで聞いた事がある。


複数の刺し傷がある場合は加害者は被害者に対して大きな恨みがある人物

顔を刺す場合はとてつもない恨みがある人物が犯人の場合が多いそうだ。


これは、だいぶ恨んでたんだな。


本当に悪い事をした。


今更後悔しても遅いし、今更謝ってももう声は届かないか。


「ごめんな。お前にこんな事させちゃって」


麻美の笑顔が崩れへたり込み天を仰ぐ。


「アンタが本当に嫌な奴だったらこんなに苦しくなかったのよおおおお!!!!」


試合に負けて勝負に勝った気分で俺はこの世に別れを告げる。


一つ不満を言うなら。


笑顔の胸の中で息を引き取りたかった。

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