スペシャルエピソード 雪の森で
クリスマス特別企画!
スペシャルエピソードを投稿致しましたー!
白く雪が降り積もった木々の間を、ラグは静かに進んでいく。
彼の後ろには、雪の中に歩いた跡が残り、吐くたびに息は白い。
毛皮をなめした、丈が膝まである分厚いコートを身にまとい、ラグはひたすら、ただひたすら、この白い世界を突き進んでいく。
空を見上げれば、まだシンシンと牡丹雪が降り、空は濃い灰色の雲で覆われている。
不思議だが、遠くの山を見れば、山と雲の境目のコントラストが良く分かり、逆に美しさを感じる。
足を止め、その情景をラグはしばしの間見やっていた。
が、すぐにハッとなり、視線を進行方向へ向けなおすと、再び足を進めて行った。
木々の間をすり抜けながら、雪に埋もれた道無き道を進んでいく。
その道をしばらく進むと、ふと視線の先に小さな屋根の先が目に入ってきた。
程なくして、それが小さな丸太小屋だと分かる。
飾りっ気のない、ありきたりな小屋だ。
その屋根からは黒く煤けた煙突がニョキっと突き出ており、先から白い煙が立ち上っている。
ラグはまた、小屋の前で「ふうっ」と白い息を大きく吐き出すと、小屋の扉を開けた。
ギイッと蝶番がやや軋んだ音を立てて開く。
中に入れば、暖かい空気がラグの顔の横を駆け抜けていった。
ラグはそっと扉を閉めると、厚ぼったいコートを脱ぎ、扉の傍にぶら下がっていたハンガーに掛けた。
小屋の中は、外観同様に狭い造りになっていた。
ラグが入った部屋は玄関を兼ねたリビングだ。
その奥にはもう一部屋ある。
ラグはリビングを突っ切ってその奥の部屋へと向かった。
奥の部屋とリビングとの仕切りはなく、扉の形に開いた壁があるだけ。
そこを潜ると、リビングよりも一回り狭い部屋にベッドが置かれていた。
その中には……
「具合はどうだ、エリー?」
ラグはベッドの横に腰掛け、静かに話し掛けた。
すると布団の向こうから、頬を赤らめたエリーがひょっこりと顔を出す。
「あ、ラグ殿……」
因みに鼻声だ。
「申し訳ありません、体調を崩してしまうなんて……」
付け加えると、声が枯れていて、熱もある。
「気にするな。疲れが出ただけだ」
ラグの柔らかい声掛けに、エリーは「でも……」と呟いて布団の襟を掴んで鼻っ面を隠してしまった。
それを見て、ラグの口元が綻ぶ。
「そう自分を責めるな。どうしようもないことだってある」
ラグにしてみれば言葉を選んだつもりなのだろうが、相変わらずぶっきらぼうな言い草である。
エリーにしてみれば、先を急ぐ旅ではないものの、自分が体調を崩したせいでラグの足止めをしてしまったことが気に掛かっているのだ。
お互い言葉が多い方ではないが故に、気持ちのやり取りも上手くいかないもの。
まさに今の二人がそうだった。
ただ共通していることといえば、お互いに気を使いあっているという程度。
態度だけでは、ちょっと分かりにくい。
「あぁ、そうだ。麓の村で肉を分けてもらった。何か温かいものでも作ろう」
「し、しかし、ラグ殿……」
とエリーが起き上がろうとしたとき。
ラグの大きな手がエリーの頭に置かれ、髪の毛をクシャクシャとした。
「いいから寝てろ。休息も必要だぞ?」
「……」
ラグに優しい口調で言われ、エリーは捲り上げた布団の裾で口元を隠したまま、ユックリと体を横にした。
この森に入った時。
ちょうど雪が降り始める季節に入っていたこともあり、気温がグッと下がっていた。
早めに森を抜けなければ雪が降り始めるのではと懸念したラグは、急ぎこの森を抜けるためにペースを早めようとした矢先。
エリーが道ばたで倒れたのだ。
ラグが抱き抱えると、ひどい熱だった。
ゼェゼェと肩で息をしており、苦しそうに見えた。
ラグはひとまず、森の入り口にある村に戻るか考えたが、森に入ってから時間も経っていた。
入り口に戻る頃には真っ暗闇を歩く羽目になっているだろう。
それに、エリーの体調も気掛かりだ。
それならいっそ、どこか洞穴でも見つけてそこで暖を取った方がいいと判断したラグは、エリーを背中に抱えて道を進むことに決めた。
道中、エリーがうわ言のように「すいません、すいません……」と謝っているのが、なんだかラグの心をキュッと握り締めた。
程なくして、森が少し開けたところに出た。
そこにあったのは、今二人が失敬しているこの丸太小屋だった。
長く使われていなかったのか、人の気配もなく、静かに佇む小屋を見て、二人は安堵した。
ところどころ傷んではいたが、いっときを凌ぐ程度には十分だった。
ラグは鍵に細工して(正確にはぶっ壊したが……)中に入ると、中は二間続きの空間がガランと広がり、奥にはベッドが置かれていた。
ベッドも小屋同様、長く使われていない様子でホコリが積もっていたので、ラグはエリーを近くにあったロッキングチェアーに横にすると、ベッドのシーツやら何やらを外に持ち出して、バァン! バァン! と叩きはじめた。
しばらく叩くとホコリが出なくなったので、それをベッドに戻し、エリーを寝かせたというわけだ。
更に、小屋には暖炉もあり、小屋の裏には、もう使われていない、程よく乾燥した薪が積まれていた。
これで暖を取れるな。
ラグは暖炉に薪をくべ、火を付けた。
火は勢いよく燃え上がり、少しずつ、小屋の中も暖かくなっていった。
この小屋でエリーの体調が回復するのを待つことにしたラグは、夜が明けるとすぐに森の入り口にある村へと向かった。
小屋の持ち主がいたら一言声を掛けて置くべきだと思ったからだ。
だが、あいにく持ち主は見つからず、村の住人も、そんな小屋があったかと皆が皆、首を傾げていた。
ともかく、エリーの体調が戻るまでだと村人に言うと、この森は冬になると雪が深くなるため、身動きが取れなくなるらしい。
更に言えば、時期的にはもう大雪の頃合いになるため、小屋にいるなら雪解けまで待った方がいいとまで言われてしまった。
食糧なら、村の備蓄には余裕があるのでラグたちにも分けられるという。
それを聞いて、それならば仕方ないと、ラグは村人の恩恵にあやかることにした。
そうして三日が過ぎて迎えた今日。エリーの熱も次第に落ち着き始めていた。
「これなら体が温まるだろうな」
ラグは暖炉に掛けた鍋をかき混ぜながら一人微笑んでいた。
「さて、もういい頃だろう」
ラグは鍋に匙を差し込んでひとかきすると、器にそれを盛り付けた。
「エリー、出来たぞ。寒いからな、シチューにした。体が温まるぞ」
ラグは笑みを浮かべながらエリーに声を掛けつつ、ベッドの袖に腰を下ろした。
「ラグ殿、本当にすいません。本来なら私が作るべきなのに……」
エリーは体を起こしながら、ラグに謝罪した。
その表情と言うと、とにかく申し訳なさそうな、辛そうな表情をしているのだ。
ラグはシチューの入った器を手渡しながら、
「気にするなと言っただろう? それに俺が作る料理も美味いぞ」
「ふふふ……そうでしたね」
二人でそう言い、笑い合った。
ラグ殿がそんなことを言うなんて……
普段耳にするようなことのない言葉を聞いて、エリーの口元が綻んだ。
「ほら、いいから食べろ。冷めてしまうぞ」
ラグに促され、エリーはスプーンで湯気の立つシチューを掬った。
トロっとしたシチューをそっと口に運ぶ。
「……美味しい……」
その味に、エリーは思わず微笑んだ。
「村から色々分けてもらってきた。肉やジャガイモ、ミルクなんかがあったからシチューを作ってみた」
「胡椒もよく効いてます。お上手」
「これでも、一応料理は作っていたからな」
「ガサツな男の料理を。ですね」
そう言って笑うエリーを見ていると、ラグの心の中が不思議と暖かさで満ちてくる。
仲間といる頃に感じた、何とも言えない暖かさを、だ。
エリーはと言うと、ラグのシチューが気に入ったのか、あっという間に平らげてしまった。
「食欲が出てきたな。おかわりならまだあるぞ?」
「では、頂きます」
「よし!」
ラグは器を受け取ると、すぐに二杯目を注ぎに暖炉へと向かった。
その様子を眺めていて、エリーは彼と共に旅に出たことを今更ながら「良かった」と思っていた。
何より、ラグの優しさを独り占めできることが、とんでもなく幸せなことのように感じているのだ。
「エリー、さぁ持ってきたぞ!」
ラグを見て、エリーが微笑む。
ラグもまた、エリーを見て微笑み返した。
そんな二人を包み込むように流れる穏やかな時間は、この森から雪が消え、旅を再開する春が訪れる頃まで続いた。
雪の森は、その時まで二人のことをそっと見守ると決めたと言わんばかりに雪に埋もれていく。
ただ、静かに、シンシンと雪は降るばかり……
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