表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/49

哀愛 前編

途中、視点が変わります。

「今度こそ顔を逸らすなよぉぉぉ!!」


 ドン! と地面を力強く蹴り付け、ラグはレイアへと迫った。

 屍人兵は先ほどの攻撃でほぼ壊滅状態となっており、レイアを守ろうと動く姿も見られたが、倒れているその場でもがいているだけで、取り巻く者はほぼ皆無だ。


 レイアは、


「……ひぃっ!」


 と怯えたような表情を見せて後ずさっていく。

 そして、胸元に手を広げ、ラグが向かってくる方向へとかざし、


「至高たる力の源よ、我が命ずる! 全てを受ける盾となり我を守れ! 絶対領域アブソリュートガード!」


 と詠唱をすると、レイアのまえに仄かなピンク色を放つ壁が現れた。

 それはラグにも見えている。

 だが、そんなものお構い無しと言わんばかりに、勢いを付けながらラグはレイア目掛けて突っ込んでいく。


「アトス! この絶対領域アブソリュートガードを破れるとでも!?」

「さぁな」


 するとラグは、聖剣クラウソラスを両手で握り左肩の方へと押し上げると、一気に振り抜いた!

 そこにレイア目掛けて突っ込んでいく速度スピードが加わり、剣速はさらに上がる!

 振り抜かれた刀身は、まるで陽炎のように揺らめきながら歪み、後に残ったのは二人を包み込むようにブワッと舞い上がる土煙だけ。

 同時に、ガキィン! と金属同士がぶつかったのような、硬く甲高い音が辺りに響いた。

 ラグは剣を振り抜いた姿勢のまま、レイアの前で動きを止めていた。

 その目はレイアを睨み付けている。


「さすがにクラウソラスでも、この高密度の魔力の壁は破れなかったな」

「……バカか、お前は」

「? 何を言ってい……」


 そう言おうとして突如、薄ピンク色の魔力の壁は粉々に飛び散り、レイアの体を衝撃が貫いた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 全身を駆け巡る衝撃。

 足先から頭の先まで、全身の骨をえぐり、砕くような衝撃は、意識を刈り取りそうな激痛を与え、レイアはその場で身悶えた。


「あ、あ……ぁ、ぁ…………」


 やがて衝撃から解放されたレイアは、力なく膝を地面についた。

 ほの表紙に、半分頭に掛かっていた帽子も地面にパサリと落ちた。


 その時だ。


 レイアの視界がガラリと変わったーー。



 □


 ……私は一体どうしたのだろう?

 なぜこんな場所にいるのだろう?


 この全身に走る痛みは何?

 あぁ、頭が痛い……

 ズキズキと割れるように痛い……


 この、私の周りにある、煙を上げて倒れている装甲は何?


 あれ?

 兜が取れて……

 中は……


 干からびた、死体……?

 な、なんでこんな?

 まさか、死体が動いていたの? そんな……


 死霊従属(ネクロマンス)は魔法界において絶対禁忌とされているのに。

 一体、誰がそんなことを?


 あ、あれ?

 もしかして、私?

 これ、私がしていたの?


 ……ボンヤリだけど、覚えてる……?


 そうだ、シンだ。

 シンが私に死んだ兵士の体を動かせって、命令してたんだ。


 シンが、そうしなければこの国が……って言って。

 国を、どうするの?

 シンは、この亡骸たちを利用してどうしようとしてたの?


 あ、頭が……い、痛……いよ……


 割れる、割れちゃう!

 助けて、誰か助けて……


 アトス……、アトス、アトスーー!










「痛いか、レイア」







 私が顔を上げたとき。

 そこには、変わり果てたアトスが立っていた。



「……アトス?」

「レイア、ようやく殺せるな」



 私を睨み付けながら、剣を構えるアトス。

 その目には、かつての優しさはなかった。

 私の愛したアトスの瞳は、黒く淀み、濁っている。


 そして記憶の奔流が私の脳裏に蘇ってきた。


 魔王城、玉座の間。

 床に倒れた魔王を尻目に、皆が歓喜に打ちひしがれている時。

 私だけが後ろめたかった。

 今から起こることを考えると、その場から逃げ出したかった。

 けど、シンがそれを許さない。


 そして始まった。

 裏切りがーー!


 シンが聖剣でアトスの胸を斬り裂き、マーニィがアトスの足を剣で刺した!

 アトスの絶叫が響き、私の鼓膜が悲鳴を上げる!

 必死で聞こえないフリをしているが、何をどうしてもアトスの声が聞こえてくる。


 身体中から血を流し、アトスは私に助けを求めてきた!

  手を伸ばし、目を向け、懇願してきた!


「レ、レイ……ア……!」


 今にも泣き出しそうな瞳でアトスは私を捉えていた。

 私もすぐに手を差し伸べて抱きしめたかった!

 アトスを守ってあげたかった!


 だけど、だけど私は……





 ーーアトスから目を逸らした……




 そこからどう帰国したのか、覚えていない。

 気が付けば、バルト国城の玉座で国王様や王妃様。

 国を代表する面々が、シンの報告を聞いて喜んでいた。

 そして、勇者の死を嘆いていた。


 違う。

 本当は違う。


 何もかも、シンが作り上げたシナリオだ。

 アトスより、自分が評価されるためのシナリオ。

 アトスよりも自分が優秀だと誇示するための……


 シンはアトスが勇者として選ばれたことに納得していなかった。

 幼い頃からの付き合いで、親友だったけど、それは表向きなだけ。


 その実、いつもアトスを妬んでいた。

 アトスばかり褒められるのが気に入らなかった。

 面白くなかった。

 自分がアトスよりも上だといつも考えていた。


 やがてそれは憎しみに変わり、いつかアトスを亡き者にしようと企み始めていた。

 そして、魔王城で実行した。


 魔王城に入る前。

 私はシンから呼び出された。


「俺の計画に従え」


 と。


 計画を聞かされて、私は反対した。


 するとシンは、


「アトスを庇うなら、お前はこうしてやる」


 シンは私に迫り、心臓にある細工をした。


 それは「禁呪の鎖」。


 少量の魔力を流し込むだけで心臓に無数の魔力の針が突き刺さるという、古来からの拷問法。

 これを施された者は、施した者の指示に従わなければならなくなる。

 歯向かえば殺されてしまうから。


「死にたくなければ俺の言うことを聞け」


 シンは私の想いを利用した。


 愛など脆いものだ。


 愛する者を失うくらいなら死を選ぶなんて、はっきり言って綺麗事なんだということ。


 自分の命と天秤に掛けられたら、当然生きる方を選択したくなる。

 私もそうだった。


 だけど、それは間違いだった。


 そのことに気付いた時にはもう、アトスはいなかった。

 私は……あの時、魔王城でアトスと一緒に死ぬべきだったんだ。


 何度もそう思った。

 後悔した。


 ーー思い出した。


 シンは私をさらに利用しようと、今度は私の心を縛り付けたんだ。


 アトスに斬られたあの帽子。

 あの帽子は古代魔法である「従属の旋律」が刻み込まれていたもの。


 私はそれをシンに被らされた。


「お前にはこれが似合うと思う。さぁ、被っておけ」


 贈り物だと言われ、シンに被らされた瞬間。

 私の思考は奪われた。

 シンの傀儡となり、シンのために働くための道具として。


 ーー残酷だ。

 傀儡となったこともしっかり覚えているなんて。


 いや、おぼろげだった記憶が鮮明になってきたんだ。


 私はーー

 私は取り返しのつかないことを……


 あぁ、アトス……


 私の罪があなたを愛したこと?


 違う、私の罪は……





 ーーあなたを裏切ったこと。






 今のアトス(あなた)は、あの頃の優しいアトスじゃないね。

 きっと、私たちへの憎しみで生きてきたのでしょう。


 生きてた……

 生きてたのか。どうして生きてるのか分からないけれど、あなたの生きる力が私たちへの憎しみだとするならば。





 私はあなたに憎まれたまま、あなたに殺されるべきーー






 私は立ち上がった。


「アトス、もう一度涅槃(ねはん)へ戻してやろう」


 ようやく、私の死に場所が見つかったーー









ここまでお読み下さり、ありがとうこざいます。

正直、今回は自信がない仕上がりになりました(今までも、自信ないですが……)


よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[一言] 最初に気が進まないながらも主人公を裏切り、それを切っ掛けに共犯関係に墜ちて罪を重ねて、今さら被害者ムーブをされても全く同情出来ない。レイアの愛とやらは、所詮は脅されたら裏切る程度のものでしか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ