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聖剣クラウソラス

台風一過、澄み渡る青空と共に聖剣が!

 ーー光が二人を包み込んだ。


 レイアが放った魔法は、至近距離で放たれ、ラグに直撃した。

 ラグは直前にレイアの不意打ちに遭い、大ダメージを負っている。

 その時も至近距離だったが、レイアには傷一つ付いていない。


 それはなぜか?


 レイアの周囲には魔力で作られた結界が施されていたのだ。

 常に結界を展開することであらゆる攻撃や衝撃を防御出来る。

 至近距離で爆発系魔法を使っても、全て結界が防いでくれる。

 地面に倒れるラグ目掛けて放った光系魔法もしかり。


 全て結界が受け止めてくれるから、レイアは傷ひとつ負わない。


 故にレイアは自らのダメージを気にせずに攻撃に転ずることが出来た。


 そして、今の攻撃でほぼラグを討ち取ったと彼女は見ている。


 ーー私はマーニィとは違う。


 彼女は常々思っていた。

 マーニィのように、ただ無邪気に殺戮するのは愚者のすることだと。

 だから、貸し与えた「屍人兵」も無残に散らされてしまった。

 賢い者が扱ってこそ「屍人兵」は活かされる。


 ーー愚かなマーニィ。馬鹿なマーニィ。


 可哀想なマーニィ。


 胸の奥でそう呟きながら、目の前の土煙が晴れるのを待つ。

 手応えはあった。

 確実に動きを止めた上で、魔法を直撃させた。

 この上なく完璧な手段で、自分はアトスを討ち取った。


 シンのために。

 シンが喜ぶ顔を見るために。

 そのために、レイアはラグを討ったのだ。

 自分を必要とする者のために。


 ーー私の勝ちだ。


 フッと口元を綻ばせた。

 土煙までだいぶ晴れて来た。

 もうすぐ屍と化したラグが姿を見せるはず。

 レイアは自分の心が湧き、踊るのを感じた。

 まだラグの死を確認していないにも関わらず、この先に待つであろう結末を考えるだけで、身体中を快感エクスタシーが駆け抜ける。


 僅かながら、レイアは身体を小刻みに震わせていた。


 ーーは、早く……、早く早く早く!!


 歓喜の飛沫にレイアが打ちひしがれているとき、ようやく土煙が晴れた。


 来た! キタキタキタキタキターー!


 そしてその口を大きく開き、口角を高く吊り上げようとしたその時……


 キィィィィィィン……

 

 小さな小さな音が聞こえてきた。

 まるで金属が共鳴しているような音。


 レイアは笑うのをやめた。

 口を真一文字に硬く結び、土煙の晴れた方へ視線を向けた。


 彼女の視界に入ってきた光景ものーー


 それはにわかには信じられない光景だった。


「な、なん、だと?」


 レイアが見た光景。

 それは、剣だった。

 刀身を地面に向けながら宙に浮く一本の剣が、神々しくも禍々しい光を、その柄の中央に仕込まれた青い宝玉から放っている。

 その光はラグを包み込むようにして広がっていた。

 

 そしてレイアはその剣を知っている。


「ーーク、クラウソラス!?」


 思わずレイアは後ずさりした。

 身体の奥からほとばしる快感など、とうに消え失せている。


「よう……、来たのか……」


 ラグはゆっくりとその柄に手を伸ばした。

 そして、人差し指を出し、その刀身をそっとなぞった。


「お前が来たってことは、相当やばかったってことだな」


 そう言うと、ラグは身体を起こし、立ち上がった。


「なぜだ! なぜ立ち上がる? 受けたダメージは大きかったはずだ!」

「レイア、仮にも元勇者パーティの一人なら知ってるだろ?」


 ラグはクラウソラスを握り、刀身を天に向ける。

 そして、レイアに向かってピュンと振り下げた。

 瞬間、つむじ風が舞い上がり、レイアの頭部を通り抜ける。

 レイアの被っていた帽子が二つに割れ、亜麻色の髪の毛がフワリとなびいた。


「クラウソラスは神の祝福を受けた聖剣。その加護は持ち主のあらゆる傷を塞ぎ、痛みを癒し、治癒すること」


 割れた帽子の半分は地面に落ち、もう半分は残ったまま。

 そこから片側だけ、レイアの素顔が現れた。

 美しく、程よく整った顔立ちは、町に出れば、見かけた者は誰もが振り返るだろう。


 だがその顔は今、眉間にしわを寄せ、ラグを見据えている。

 憎々しげな目つきで。


「アトス……」

「レイア、覚悟しろよ。クラウソラスが来た今ーー」

 

 ラグは今度はその刀身をレイアに向けた。


「お前に勝ち目はない」

「ふざけるな! 私が、私が負けるはずがない!」


 レイアは金切り声を上げながら両手を肩ほどに持ち上げ、その手のひらを空に向けた。

 レイアの頭上を取り囲むように黒い渦が現れると、そこから()()()()()()()()()()が次々と現れた。


「私はマーニィとは違う。屍人兵よ、アトスをーー」


 屍人兵と呼ばれた装甲兵たちは、レイアの声を合図にそれぞれが剣を取り、構えていく。


「アトスを殺せぇぇぇぇぇ!」


 レイアの叫びと共に屍人兵が走り出した!

 ドドドド! と地響きを立てながらラグに群がっていく!

 それはまるで飢えた獣が獲物に群がるような光景だ。

 一度牙を向けば、獲物を食いちぎるまで離さない。

 そんな垣間見える凶暴さが迫る中、ラグは平然と佇んでいる。


 そしてゆったりとした動作で、クラウソラスを二度三度と軽く振り回した。


 振り回しただけなのにーーー






 屍人兵は走りながら、その全てがバラバラに斬り刻まれていった。



 最後の一体は、あと僅かでラグに届くというところまで近付いたにも関わらず、足が離れ、手が離れ、胴と腰が分断され、首が離れ、倒れた。


 その光景に、レイアは瞼を瞬くしかなかった。

 まさか、召喚した屍人兵全てが一瞬で倒されるとは、考えてもみなかったからだ。


「バ、バカなーー」


 ラグは驚きその場に立ち尽くすレイア目指して歩み始めている。


「ーーヒッ!」

「レイア……!」


 恐怖におののくレイアは、再び屍人兵たちを召喚した。

 空からまた、魂を失った蠢く兵士が降りてくると、レイアを守るように取り囲んでいく。

 それはさながら、人の形をした壁のようにも見て取れた。


「バカのひとつ覚えか。マーニィと何一つ変わらないな」


 ラグはそう呟くと、剣を一閃!

 横一文字に薙ぎ払うと、召喚されたばかりの屍人兵が次々と爆散していった!


「……そ、そんな……」

「レイア。お前、俺を愛したことを罪だと言ったな?」

「あ、あぁぁぁ……」

「俺もお前を見習って懺悔するぜ……」


 ラグはレイアを睨み付けた。


「俺の罪は……、お前らと共に旅をして、友情という甘ったるいぬるま湯に浸かっていたことだ!」


 ズンと重苦しい空気がその場を包み込む。

 ラグから放たれた殺気が、レイアを飲み込んでいく。

 気付けば、レイアの息遣いは荒くなり、身動きすら出来ぬほど体が重く感じた。


「ア、アトス……」


 やっと絞り出した声の、なんとか細いこと。

 だが、ラグから放たれる殺気は増していくばかり。

 彼の目は、獲物をなぶり殺しにする猛獣のそれと同じようにギラギラと光っている。


「……レイア、今度は顔を」


 そして一歩前へと歩み出し、


「逸らすなよ!!」


 クラウソラスを手に、レイアに向かって斬り掛かっていった!













ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

皆様からの評価、感想はとても励みになっております。

これからもよろしくお願い致します!

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― 新着の感想 ―
[一言] レイアの言動のどこがアトスを愛してたのか全くわからない。過去から現在までのレイアの言動に、アトスへの愛を感じさせるものは無かったので、ただアトスの動揺を誘う為のハッタリにも思えるし。
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