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戦慄するマーニィ

三連休連続更新です。

さぁ、行ってみよう!

 マーニィは震えていた。

 今さらだが、彼女は自分が恐怖を感じていることを初めて実感した。

 目の前の男。

 元勇者である「ラグ」に。


「ア、アトス……」


 ラグの背中の向こうには、装甲兵たちが倒れている。

 皆、ラグに首を飛ばされてピクリとも動かない。

 それを見てマーニィは頬をピクピクと引き攣らせている。


 ーーこのままじゃ殺される……、何か、何かいい手は……


 そこでシンの言葉がマーニィの頭の中にこだました。


「勇者とて人間だ。体力の限界もある」


 そうだ、「勇者」だ。

 目の前にいるアトスは元勇者だが、それ以前に人間だ。

 それに、アトスは元々優しい男だった。

 他人のために自らを犠牲にすることもいとわない。

 人間の性格上、もっとも変わらないのはその根本と言う。

 アトスの根本は「優しさ」。

 だから、アリシアたちを先に逃がしたのだろう。

 自らがここに残り、敵を食い止めて逃亡の時間を稼ぐ、そのためだけに……


 そこまで理解が及ぶと、マーニィは再びニタリと笑みを浮かべた。


 ーーあった。アトスに勝利する方法が。


 またもマーニィの脳裏に意地悪い考えが浮かぶ。


「アトス! あんた、これ以上私に歯向かっていいと思ってんの?」


 マーニィは腰に手を当て、ラグに向かってそう言い放った。


「……」

「ふん! あんたのことだから自分がこの場で一番強いとか思ってるんだろうけど、そうじゃないからねぇ」

「何が言いたい?」

「この場を仕切ってるのは、このあたしだってこと!」


 そう言うマーニィを、ラグは訝しげな目で眺めている。


「いい? これ以上あんたが何かしてみてごらん! こいつらに命じて、この町の住民、皆殺しにしてやるんだから!」

「……」

「こいつら、ただの兵士じゃないからね! 戦争で死んだ兵士を、レイアが()()()()の魔法で蘇らせて、強化も施してあるから、ただ首をすっ飛ばしたくらいじゃ死なないよ!」


 マーニィの言葉を聞いて、ラグは背中の向こうで倒れている装甲兵たちに振り返った。

 その言葉通り、のっそりとした動きだが、皆動き出し、起き上がろうとしている。


 ーー死人帰りの魔法。

 死してなお、戦いから逃れられない哀れな兵士たち。


 ラグはそんな彼らを一瞥したあと、しばらく目を伏せた。


 そして怒りがこみ上げてくるのを感じていた。


 死者の魂を冒涜した者に対して……


「この町の建物を壊したのもこいつら。あんたも見たでしょ? 建物が吹っ飛ぶのを! アハハ! 滑稽だよねー、弱い人間が逃げ惑うのってさぁ! アハハハ……」


 そう笑い飛ばすマーニィの全身を、何かがズバッとすり抜けていった。

 途端、マーニィの全身からドバッと冷や汗が吹き出す。


「……ヒッ!?」


 マーニィは肩がすくみ上った。

 彼女の全身を貫いたのは殺気。

 それは気を抜けば、全身の力はおろか、意識まで刈り取るほどの圧力だった。

 そして、それは目の前にいる元勇者から発せられたもの。


 マーニィがそれを理解した時。

 震えから来たのだろう、歯がガチガチと鳴り出した。

 奏で出したのだ。


 恐怖と言う名の旋律を。


 だが、マーニィも負けてはいない。

 震える体に喝を入れ、歯を食いしばる。

 マーニィはまだ機会チャンスがあると思っている。


 彼女にとって絶体絶命とも言えるこの場を乗り切るための「機会チャンス」。

 それはラグの、「人間としての優しさ」を利用することだった。


「そ、そんな目で睨んだって無駄なんだから! あたしの合図一つでこいつらは動く! 町の人間を殺せと命じればすぐに皆殺しに出来る! でも、あんたは優しいでしょ? 見ず知らずの人間とは言え、そんなこと許されないでしょ? 嫌でしょ!?」


 段々とマーニィの声に熱がこもり、語尾が強められていく。


「あんたは勇者だから! 他人のためなら自らを犠牲にすることも躊躇わない! だって、だってあんたはーー!!!」

「……だからどうした?」

「……え?」

「だからどうしたと聞いている」


 ラグの切り返しに、マーニィは思わず言葉を失ってしまった。


「俺がお前らを殺そうとすればこの町の住民を皆殺しにするだと?」


 と、ラグは半身だけをマーニィに向けると、後ろに向かって剣を薙ぎ払った。

 瞬間、起き上がって来た装甲兵たちの上半身がバシュバシュと音を立てて斬り裂かれていく。

 装甲兵たちは今度こそ物言わぬ骸と化してその場に倒れていった。

 それを目の当たりにしたマーニィの顔が絶望に歪む。

 彼女が望む「機会チャンス」は、この時点で消え去ったのだ。

 それでも彼女は牙を剥き、足掻こうとした。


「お、お前! 無視したな? こ、こ、このあたしの、ちゅ、忠告を! い、いいんだな? この町の人間はお前のせいで殺されるんだぞ!」

「そんなこと、知るか」

「ーーえ?」


 ラグは剣を払い、刃にこびりついた血や汚れを払いとった。


「この町の人間がどうなろうと、俺の知ったことじゃない」

「な、なに!?」

「俺の仕事はアリシアとミト、そしてエリーの護衛だ。他の奴が死のうが傷付こうが関係ない」

「う、うぅ……」


 ラグの答えは、マーニィにとって意外なものだった。

 かつてのアトスならば、仮に敵にそう条件を持ち出されたら恐らく飲んでいるだろう。

 実際、そうなる場面もあったし、もちろん乗り越えて来た。

 だが、今のラグはどうか。

 勇者だったころの甘っちょろい考えは一切見られない。

 むしろ、目的のためならば、切り捨てられるものは全て簡単に切り捨てるだろう。


 それはある意味「強さ」とも言える。

 アトスにとっては「弱み」でも、ラグにとっては「どうでもいいもの」、もしくは「切り捨てるもの」とも受け取れる。

 アトスになくてラグにあるもの。


 それは目的を達成するための「()()()()()()()()()()」ことではないだろうか。


 そして目の前の男はかつての勇者(アトスであってアトス)ではない(ではない)


 マーニィはラグを見てそう確信した。


「そういうことだ。町の住民のことなど、俺は知らん。お前らの勝手にすればいい。もっともーー」


 ラグは視線をマーニィに向け、彼女を睨み付けた

 マーニィがすくむ。


「お前らが死んでいなければな」

「くっ! お前たち、奴を殺せ! 殺せぇぇぇぇぇ!!」


 マーニィが声を荒げると、残った装甲兵たちは武器を抱えて走り出した。

 同時にラグも装甲兵目指して走り出す。


 彼らは死人だ。

 普通に首を跳ねても動きを止めないことは先ほどの様子で理解した。

 そして死人を動かす仕組みについても、ラグは理解していた。


 死人を動かすためには制御するためのコアが必要だ。

 だが、ただコアを埋め込むだけでは命令も聞かずら統率もできない。

 そのため、あらかじめコアに必要な命令系統を書きこんだ上で死人の頭か心臓の位置に埋め込むのだ。

 そうすることで死人は生前のように動くことが出来る。


 この装甲兵たちは、首を跳ねただけでは動きを止めなかった。

 ならば、別に核があるのだろうと予測してラグは上半身を斬ったのだ。

 すべての軌道が胸元を通るように。


 今のところ、倒れた死人が動き出す様子はないので、恐らくラグの読みは当たっていると言える。

 それをチラリと確認すると、ラグは眼前に迫る装甲兵へと足を速めた。

 生身の人間と違って、彼らの動きは()()()

 動きも単調だ。

 そのため、パターンは掴みやすい。


 一体の装甲兵が剣を高らかと掲げた。

 最初の装甲兵動揺、力任せに剣を叩きつけるのだろう。

 ラグは素早く剣を一閃。

 剣を持つ手を斬り飛ばすと素早く胸元を中心に胴体を袈裟斬り。

 背中まで斬り裂かれた装甲兵は、割れる上半身に構うことなく体を動かそうとしてそのまま倒れた。

 無論、上半身は二つに割れて、ピクリとも動かない。

 ここに来てラグは自分の読みは正しかったと確信した。


 続けざまにラグは装甲兵の背中に回り込みつつ、袈裟斬りを続けていく。


 次々と装甲兵は上半身を斬り裂かれ、斬り口からズレ落ち、地面に倒れる。


 あっという間だ。

 あっという間にまた、装甲兵は地面に倒れてしまった。


 たった一人、マーニィを残して。


「あ、あぁ……」

「さぁ、邪魔は消えた」


 そう言うとラグは持ち上げ、構えをとった。


「始めようぜ、マーニィ」

「う、うぉぉぉぉぉぉ!」


 ラグに凄まれると、マーニィも条件反射のように剣を持ち斬り掛かった!

 その動きは早く、あっという間にラグとの間合いを詰めるとその剣を払い、振り抜き、突き上げてくる。


「死ねぇ! 死ね死ね死ね死ね!」


 可愛らしかった表情は醜く歪み、ひたすらラグを斬ろうと剣を振る。

 だがそれを、ラグは涼しい顔で全て捌いていった。


「てやぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そして互いの顔を見合わせるように正面で剣を重ねる。

 ギリギリと重なった刃が悲鳴のような音を立てた。


「く、ぬ、ぬぅぅぅぅ……」

「……その程度か、マーニィ」


 そう言ってラグは力任せにマーニィを剣ごと押し返した。

 その反動で後ろに仰け反り、ヨタヨタと後退するマーニィ。

 しかし、すぐに体勢を整えると、剣を担ぎ、ラグ目掛けて高々と跳躍した。

 滑空し、体重の全てを刃に乗せて斬るつもりなのだろう。

 高く舞い上がれば、そこからの落下速度も加味される。

 男性に比べ身のこなしが軽い女性ならではの一撃だといえる。


「おりゃぁぁぁぁ!」


 だが……


「バカの一つ覚えか? 飛び跳ねるしか能がないアバズレが」


 ラグは足元にあった、()()()()()()()()()()()()マーニィに向かって蹴り上げた。

 それを見てマーニィが目を剥いた。

 派手に跳躍した今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「気を付けな。触れたら爆発するんだろ?」


 迫る剣を睨み付けるマーニィ。

 だが、今更足掻いたところでそれを避けられる筈もない。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 マーニィの叫び声をかき消すように、夜空に轟音が轟いた。


 ドサリと地面に力なく落下したマーニィ。

 その側へ、ラグはゆっくりと歩み寄った。


「つ、うぅ……」


 マーニィの全身からはブスブスと煙が上がっている。

 ところどころ火傷となり、肉の焦げる、鼻をつく匂いが辺りに漂っている

 起き上がろうにも痛むのだろう。

 動こうとしているが、その顔は痛みで苦しそうだ。


「うぅ……ア、アトス?」


 ラグの姿を見て力無く口を開くマーニィ。

 ラグは彼女を一瞥すると、右の太ももに慈悲なく剣を突き刺した。


「ギャァァァァァァァァ…………!!」


 突然襲って来た激痛に、マーニィは喉の奥底から絞り出すように叫び声をあげた。


「痛いか? 痛いだろうなぁ。俺も痛かったよ」


 そしてラグは、マーニィの太ももに刺した剣をグリグリと動かした。

 刃が中で動き、周囲の肉や組織をえぐる。

 それがまた激痛となってマーニィを襲った。


「あぁぁぁぁぁ! ギャァァァァァァァァ! や、や、やめてぇぇぇぇぇ!! もうやめてぇぇぇぇぇ!!」


 しかしラグは手を止めない。

 マーニィの悲痛に苦しむ姿を、感情の消えた表情でただ眺めていた。


「いや! もういや! や、めて、助けてぇぇぇぇぇ!!」


 マーニィの目からボロボロと涙が溢れ始めた。

 マーニィは初めて懇願した。心から懇願した。


 まだ死にたくないと。

 殺されたくないと。


 だがラグは……


「あぁ、そうだな。助けてやらないとな。俺たち、元勇者パーティだったからな。悪かった、マーニィ」


 ラグがそう言うと、途端マーニィの目に光が戻った。


 やっぱりこの男は「元勇者」だった。

 優しい男だった。

 こうして懇願すれば聞いてくれる。

 私は生きてシンの元に戻れる。

 そうしたら、シンにお願いしよう。

 こいつを殺してくれ、と。


 マーニィは痛みを堪えながら、心の中でほくそ笑んだ。


「なんて言われたら勘違いするよな」


 と言って、ラグは足に刺した剣を横に倒した。

 ザクリと音を立てて、マーニィの太ももから下が斬り離される。


「え、あ、ひ、ひひ、あぁぁぁ! 足足足! あたしの足ぃぃぃぃぃぃ!」


 マーニィはショックだったのか、火傷で痛むはずの体を持ち上げ、斬り離された自分の足を凝視し叫んだ。


「こ、このクソ野郎! お、お前なんか、お前なんかーー!」

「言いたいことはそれだけか? そろそろ死ね。俺にはお前なんかに構ってる時間はない」


 そしてラグはピュンと剣を横に払う。

 マーニィの首は、自慢のブロンドの癖っ毛をなびかせながら宙を舞い、ポトリと大地に落下した。

 恐怖に歪んだ表情を残しながら。


 ラグはその彼女の首を眺め、大きく「ふぅ」とため息をついた。


 そして、剣を鞘に納め、宿屋の厩舎に繋いでいた馬に跨ると、火の手が上がる町を後にした。





















マーニィ、最後までゲスい!


ここまで読んで下さりありがとうございます!

やっとマーニィが召されました。


皆さまからの応援はとても励みになっています。

これからもよろしくお願い致します!



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[一言] 今まで引っ張って、散々にヘイトを稼いだのにアッサリで少し物足り無いです。もっとグリグリするなり両手足削ぐなりして欲しかった。
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