ひと時の安らぎ
おかげさまで、ハイファンタジー日間ランキングにのることが出来ました!
ありがとうこざいます!
あの元勇者パーティだった女剣士に襲撃されてからおよそ二日。
まだ幼いミトの体力や体調に配慮しつつ、ゆったりとした道中だったと思う。
私たちは大したトラブルにも遭わずに旧街道を進んでいた。
次第に景色は移り変わり、今までは木立や森の近くなど鬱蒼とした場所を通り過ぎていたが、ここに来てようやく平原が見え、続くようになって来た。
心なしか、旧街道の路面が踏み固められた土ではなく、敷石が敷かれ、整備された路面へと変わっていく。
今までのように凸凹した道だと荷車の乗り心地も悪く、馬の膝にも負担が大きそうだったが、この道なら馬の脚に掛かる負担は少ないかもしれない。
何よりガタゴトと激しく揺れないのは快適だ。
そして、今日の行程も特に問題なく、順調に進むことが出来た。
日も少しずつだが傾き始め、辺りは次第に薄暗くなっていく。
そろそろ今夜の野営の場所を探さなければと前方を探っていると、遠くの方からちらりと灯りが見えた。
その灯りはポツポツといくつも見える。
まるで私たちに向けられているようにチラチラと瞬いて見える。
が、私にはある確信があった。
あの灯りは、町の明かりだ。
ーー町が見えてきたのだ。
「エリー、あれを見て!」
お嬢様が指差す先には、行き先を示すのだろう、立て札が立っていた。
長年の風雨にさらされたせいだろうか。
何と書いてあるかは、残念ながら読み取ることが出来ないほど汚れていた。
「あの立て札がどうかされましたか?」
私が首を捻りながら尋ねると、
「きっと町が近いという証拠ですよね!」
と明るい笑顔で仰った。
どうやらお嬢様には、あの灯りが見えていなかったようだ。
だが、町が近いというだけで、どこか心がフワリと軽くなったのを感じた。
お嬢様、その通りでございます。
私たち、ようやくフカフカのベッドで眠れますよ!
と心のなかではしゃいでいた私だったが……
ーー
「今夜はここに泊まろう」
ラグ殿は馬を降り、「部屋が空いているか聞いてくる」と言って、目の前にある宿屋の中へと入っていった。
私は宿屋を見上げる。
ところどころ、壁板に隙間はあるが、なかなか大きな建物だ。
旧街道が主で使われていた頃には利用客も多く、流行ったのだろう。
くすんではいるが、建物に施された飾りはどこか豪勢なものに見える。
ーーにしても、入り口に据えられた小◯小僧の噴水は、客を出迎えるにはどうだろうか?
店主の趣味とすれば、あまり頂けたものではないと私は思った。
「案外、人が多いのですね」
お嬢様は荷車の上から周りをキョロキョロと眺めておられる。
ミトもそれにならって首を左右に動かしていた。
ちっ、なぜこうもほっこりするのか……
おっと、いかんいかん!
私よ、冷静になるのだ!
お嬢様が仰る通り、町中は思っていた以上に人の行き来が多かった。
ちょうど夕食時だったのかもしれない。
町に入ってすぐの大通り(メインストリート)は、両側に露店が並び、行き交う人たちで賑わっている。
露店と露店の間に引っ張られたテントの中では、所狭しと並べられた椅子やテーブルに人が並び、酒を酌み交わしている姿もあった。
楽しそうにしている者、喧嘩腰になっている者、チビチビとひとりで気ままに飲んでいる者。
それぞれが、それぞれの形でその日の疲れを癒しているのだろうか。
だが、どことなくその喧騒に寂しさを感じるのは何故だろう。
私は宿屋に視線を戻した。
宿屋の外観からしても、造りは良さげに見える。
恐らく、どの建物も同じようにしっかりとした造りになっているのかもしれないが、町全体がなんだか寂れた空気であるのは、やはり旧街道の中にある町だからだろうか。
などと思案していると、
「部屋は二つだ。ちょうど空いていた」
ラグ殿が荷車に戻ってきた。
「ふた部屋……ですか?」
「あぁ、何か問題があるか? エリー」
「あ、いえ。部屋割りは?」
「男女別だ。当たり前だろう」
そうだよな、そうだそうだ。
ラグ殿の言う通りだ。
にしてはちょっとガッカリ感があるのは、何故だろう?
私よ、どうした?
馬と荷車は宿屋の横の厩舎に入れていいということなので、遠慮なく繋がせてもらった。
荷車は大きさの関係で厩舎外だ。
荷物が荷物だけに、こんなとこに置いとくのは心配だが……
まぁ、何かあればラグ殿が何とかしてくれるだろう。
……いや、私もしっかり見ておかなければ。
時々見にくることにしよう。
なんでも人頼みはだめだ。
中に入るとなかなかどうして。
貴族の館よりは劣るが、木の板張りの壁に廊下は、木目がしっかりと出ていてなかなかオシャレだ。
ところどころに下がっているランプが廊下を淡く照らし出し、いい雰囲気を出している。
ところで気になることがございます。
「ラグ殿、今日はこの宿で一泊ですよね? 宿代はどうされたのですか?」
「代金なら払ってある。前払いだったからな」
え? 払ってある?
「え、あ、あ、あのー、そんなお金、どこから?」
そう。気になったのは宿の代金だ。
お嬢様も私も一文無しで飛び出してきた。
お嬢様の召されていた服を売ろうにも、あれは首都近くの森小屋に置いてきたし。
金目のものなんて……
まさか……私たちには懸賞金が掛けられている……
もしやそれを……
「言っておくが、懸賞金なんて興味ないからな」
そう言って、ラグ殿はジロッと私に視線を寄せた。
うぅ……疑ってすいません……
「あの荷車は元々行商人のものだ。売り上げだと思うが、いくらか金も入っていた。それを使っただけだ」
「それを使ったって、持ち主に断りなくですか!?」
「持ち主は山賊に殺されている。断ろうにも無理な話だ」
そ、そうだった……
私としたことが、思わず声をあげてしまった……!
だが、あまり気分が良いものではないな……
見ず知らずではあるが、人様の金を使うと言うのは……
と言って、手持ちがあるわけではなし。
仕方ないと割り切るか。
「路銀にはしばらく困ることはないと思う。さぁ、着いた。ここが部屋だ」
そう言われて立ち止まった私たちの前には、「207」と数字が打たれた木製のドアがあった。
「俺はこっちの部屋にいる。丁度隣同士だ、何かあったら呼べ」
それだけ言うと、ラグ殿はサッとドアを開けてその向こうへと消えてしまった。
相変わらずぶっきらぼうな言い方だなぁと思っていると、お嬢様が、
「エリー、私たちも入りましょう。久し振りにシャワーと温かいベッドで眠れるわ」
と眩しすぎる笑顔でドアを開けて入って行かれた。
ミトもその後ろをトコトコと着いていく。
私は「フゥッ」と息を抜いた。
「それもそうですね。まだ旅は途中。休めるときに休みましょう」
と誰が聞いているわけでもなくひとりごちると、私も部屋の中へと入った。
部屋の中は案外広く、ベッドが二つ置かれて、その向こうの壁には窓が備えられてある。
お嬢様もミトもベッドに早速飛び込んでおり、フカフカの感触をキャッキャと言いながら楽しんでいた。
「よぉし、私も!」
私も二人に続いてベッドに飛び込む!
屋敷で使っていた自分のベッドよりもフカフカしており、とても気持ちいい!
しばらくその感触を楽しんでいるうちに睡魔が襲ってきて、程なくして私の意識は遠ざかっていった。
どれくらい眠っていたのだろう。
次に目覚めたとき。
窓の向こうには炎が舞い上がっていた。
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