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迫る脅威 その二

連続更新です。

ちょっと急ぎ足かなぁと思いつつ、しかしこの展開に持っていきたかった。

拍子抜けされたらごめんなさい…

「アリシアお嬢様、初めまして♪ 私はマーニィ。第三軍のマーニィ。よろしくねって言っても」


 マーニィは華麗に自己紹介をすると、クスクス笑い出した。


「今日この場で今すぐ死んじゃうんだけどねぇ。だから命乞いなんてしても、無・駄! だからねぇ!!」


 とケラケラ笑っているが、私たちを見るその目は細く、目付きは鋭い。

 そのおぞましさと言ったら……

 この場が凍り付くとでも言おうか。

 身動きが取れなくなってしまうほどに身がすくむのだ。

 実際、私も体がすくんで動けなくなってしまった。

 しかし、お嬢様たちがいる。

 何がなくても私がお守りせねば……


 ラグ殿はさすがといったところ。

 物怖じせずに、私たちの前に仁王立ち。

 その背中の、なんと頼もしいことか!


「てことで! 剣士団の端くれ共、さっさと斬り捨てちゃってぇ!」


 マーニィが語尾を金切り声にしながらそう言うと、隊列の前にいた二人が剣を抜き、私たちへと向かって来た!

 ラグ殿はどうするかと言えば……

 剣を抜かず、立ったままだ。


 ラグ殿……、もしや数に圧倒されたとか悪い冗談を?


 二人の剣士は「ウォォォォォ!」と声を上げ、剣を上げて走り迫って来る。

 その距離が詰まり、振り下ろせば剣の先が届きそうになった時。

 ラグ殿は足先を鍋にかけ、それを蹴り上げた!


 鍋の中身はグラグラに煮えたスープだ。

 じっくりコトコト煮ていたのだが、彼らの襲来でそのままだったのでグラグラになっている。

 その激アツスープが空中にぶちまけられ、それを一人の剣士が頭から被った!


「あ、あちちちち!」


 一人はそこで立ち止まり、身に付いたスープを払うが、一人は突っ込んで来る。

 ラグ殿はすかさず足先で釜戸を蹴り払った。

 今度は火のついた薪が飛び上がる。

 それが空中に散乱すると、もう一人の剣士へと降り掛かっていく。


「おぉ!? あ、あつつつ!」


 その場で足を止め、迫り来る火の粉を手で払いのけようと慌てふためいている。

 その隙を狙い、ラグ殿が動いた。

 二人の間を素早く駆け抜け、止まる!

 その手にはいつ抜いたのか、剣が握られ、大きく振り払ったような位置にあった。

 足は前後に大きく開き、前傾姿勢になっている。

 先程まで慌てふためいていた二人の剣士は、既に払う手を止めていた。

 そして、ユラッと揺れたかと思うと、二人とも地面にドシャッ! と水溜りの上に寝そべったような音を立てて倒れた。

 見れば、倒れたところが赤い。

 血だ!

 それもおびただしいほどの、血!

 どこを斬られたのかよく見ると、どうやら二人とも腹を深く斬られたようだった。

 ジワジワと腹から血が流れ出ている。

 私の額を、汗がツゥっと流れた。


 見えなかった。

 ラグ殿の動きにしろ、いつ斬ったにしろ、とにかく動きが速すぎて見えなかった。


 なんて人だ……


「チッ、バカ共が油断しちゃって。はい、次! さっさと行っちゃって!」


 マーニィが苛立たし気に顎でしゃくると、今度は六人がゾロゾロと歩み出て来ていた。

 どいつもこいつも、仲間を殺されたのが気に食わないのか、ラグ殿を睨み付けている。

 ラグ殿はそんなことはお構い無しといった風に姿勢を正すと、構えを取った。


 中段の構えだ。


「ちゅ、中段?」

「ちっ! 舐められたもんだ!」


 ガチャガチャと剣士たちは構えを取り始めた、ラグ殿を取り囲んでいく。


「ラ、ラグ殿ぉぉぉ!」


 私は思わず飛び出しそうになるが、ラグ殿は構えたままピクリとも動かない。

 まるでその場に足が根ざしたように。


「ふん、これだけの数を前にしているのだ。恐れをなしたか!」


 一人が鼻で笑うと、剣を振り払い、ラグ殿に斬りかかった!


「えぇやぁぁぁぁぁ!」


 ラグ殿は中段の構えのまま、斬りかかる剣士に振り返る。

 剣士は大きく振りかぶると、右上から袈裟の軌道で剣を振った。

 ラグ殿は体の前にまっすぐ構えた剣を少しだけ寝かすと、刃が交差するタイミングで僅かに剣士の攻撃を晒し、躱した。

 剣士は勢いが良かったせいでラグ殿の前を通り過ぎ、トットットッといくつかステップを踏んでようやく止まった。

 その姿が何とも……シュール……


「くっ、この流れ者風情が……!」


 剣士は顔を真っ赤にして悪態をつく。

 そして体を回れ右して構え直した。

 その顔は……恥ずかしそうなままだが。


 ラグ殿は変わらず中段の構えだ。

 それを挑発と受け取ったのか、剣士たちは一目散に四方からラグ殿へと飛び掛かる!

 前、横、背後からと、死角も含め、畳み掛けるように飛び交う刃。

 ラグ殿はどうするのか?

 回避不可能と思われる刃たちを、どう退けるのか?

 私はその瞬間を、目を凝らして凝視した。


 刃が迫り来る時。

 ラグ殿は中段で構えたまま、大きく一歩前へと踏み込んだ。

 その先には先程シュールな仕打ちを受けたあの剣士がいる。

 ラグ殿は踏み込んだ右足を軸にして左足で半円を描くようにクルリと体全体を捻り、剣士の背中へと回り込んだ。

 そして、剣士の背中から胸に掛けて剣を突き刺した。

 剣士の口からは血が溢れ、胸元から鮮血ごと突き出された刀身が見える。

 ラグ殿はそれをそのまま元いた位置へと押し出すと、四方から飛び交っていた剣は、すべて元剣士が受け止めてくれた。

 ザシュ! ブシュ! と肉を断つ音を立てながら、仲間の剣が次々と突き刺さって行く。

 剣士たちの表情が固まっていた。

 既に事切れているとはいえ、先程まで自分たちと一緒に悪態をついて剣を構えていたのだ。

 それが、たった一瞬で死んでしまった。

 そして皆動きが止まった。

 その事実が、この剣士たちに隙を生ませたのだ。

 ラグ殿がこの好機を見逃すはずがない。


 ラグ殿に言われた言葉が頭にこだました。


「いつ如何なる時も集中しろ」


 他のことに気を取られれば死を招く。

 今、目の前で起こっているこの現実がその証拠だ。

 私は思わず「ーーなるほど」と喉を鳴らしてしまった。


 ラグ殿は止まらない。

 事切れた剣士から剣を引き抜くと、再度中段構えのままで横移動をし始めた。

 剣士たちは一瞬遅れて死体から剣を抜きラグ殿を追いかけようとするが……


「グァァ!?」


 一人が背中を斬られ。


「ギャァァァァ……」


 一人が首筋から血を垂れ流し。


「おのれ……、ガハ……!?」


 一人は正面から心臓をひと突き。


 瞬く間に三人が倒れた。

 残るは二人。


「バ、バカな?」

「この人数を相手にして……、む、無傷だと?」

「お、おい! ここは一旦下がって……」

「だが、マーニィ様が……、あ、あぁ……」


 残された二人はこの場をどう切り抜けるかの算段を始めていた。

 どう考えても、ラグ殿と自分たちの実力に差があり過ぎるからだろう。

 この場から逃げる。

 それは賢明な判断だと思う。

 だが……


「悠長に話していられるほど余裕があるなんて、よほど自信があるんだねぇ?」


 いつの間に動いたのか。

 マーニィが二人の間に立っていたのだ。


「え!?」

「マ、マーニィ様!」


 だが、彼女の視界に彼らは入っていない。

 その視線の先には……ラグ殿がいる!


「それとも、()()()()()()相談でもしてたかな? ま、どちらにしてもーー」


 マーニィのその手には、細身の長剣が握られていた。

 ギラギラと鈍く光る刀身は、何もかもを斬り裂いて、なお相手を求めているようだ。

 そんな色を放っているように私には見えた。

 そして、その二人は彼女の剣の餌食になった。

 なぜなら……


「マ、マーニィ様! こ、こんな奴すぐに!」

「えぇ、片付けて見せますとも! バルト国剣士団の名にかけらてらへら……」


 剣士のひとり。

 彼の口の中心に線が走り、喋ろうとすればするほどそこからズレていく。

 その内、ズリュッと音を立て、口半分から上の部分が地面に落ちた。


「あぁ! あぁぁぁ、お、お、おぉぉぉ……」


 それを見たもう一人が恐怖のあまり声を上げたが、今度は鼻の中心から右斜めに線が走り……

 もう一人と同様、顔のほぼ半分が袈裟に斬られたところからズレて落ちた……


 余りにも残虐な光景に、お嬢様はその手でミトの目を隠し、ご自身も目をつぶられた。

 そうですね、子供に見せるものではありません。


「役立たずだし。もうちょっとマシな玩具、なかったのかなぁ?」


 そう言って、血が滴る刃を舌舐めずり……

 私は思わず身の毛がよだってしまった……


「あんたはすこし楽しませてくれそう。死んじゃったらゴメンね、。あたし、手加減できないんーー」


 マーニィはそう言いながら姿勢を低くし、剣を突き立てるようにして構え、


「ーーだ!!」


 前へと跳躍した。


「キャハハハハハハ!!」


 まっすぐラグ殿目指してる直進するマーニィ。

 ラグ殿は中段の構えを解き、いつもの手提げスタイルへと構えを変えた。

 そして、マーニィの剣が間近に迫ると、ラグ殿は剣を上向きに払い上げ、彼女の剣を弾いて見せた。

 その勢いに飲まれ、弾かれた拍子に後方へと舞ったマーニィは、クルクルと回転しながら鮮やかに着地して見せた。


「へぇ、やぁるぅ」


 そう言って唇を伸ばしてニヤリと笑うと彼女は今度は剣を肩に担ぎ、またラグ殿に向かって走り出した。

 それも、先ほどよりも速く!


「おぉりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 可愛らしい声を上げながら、歪な笑みを浮かべてラグ殿に斬りかかるマーニィ。

 一気に間合いを詰めてきたところを、ラグ殿は横一文字に一閃!

 マーニィはジャンプしてそれを躱し、ラグ殿よりも高く飛び上がると、その頭上から愛刀を振り下ろした!


「これで死ねーーー!!」


 ラグ殿はすぐに片手持ちから両手持ちに変え、額の上に刃を出すと横に向けた。

 そこへ、マーニィの一撃が叩き込まれる!


 ガキィィィィィン!


 金属と金属が重なる硬質な音が辺りに響いた。


「へぇ、横一文字(払い)からすぐに返し手向けるなんて、やるじゃん!」


 そう言って重なる剣に力を込める。

 ギシギシと刃が擦れ合う音が聞こえてくる。

 双方共に力で押し合っているのだ。


「このまま殺すなんて惜しいなぁ。ねぇ、あんた! 私たちと一緒に……ん?」


 そこでマーニィは、初めてラグ殿の顔をマジマジと見ることになった。

 そして目を大きく開き、眉間が寄る。

 まるで、目の前の光景を「信じられない」と言わんばかりに。


「そ、そんな……、バカな……!」


 マーニィの、剣を握る手がワナワナと震えている。


「あ、あり得ない! 死んだはずなのに!?」


 マーニィは重なった剣の向こうでラグ殿の顔を見て、驚きを隠すことが出来なかった。

いや、驚きというよりも動揺ではないか。

激しく取り乱しているようだ。




「ア、ア、ア……」




 そしてこう呟いたのが聞こえた。







「ア……アト、ス?」

 

 ーー世界に平和をもたらした、勇者の名前を。


ここまでお読み下さり、ありがとうございます!


なんかテンプレ的じゃね?


なんて思いを抱かれたと存じますが…

皆さまの評価、感想は大変励みになっております。

今後もよろしくお願い致します。

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