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修羅の如く、そして涙

今回は視点を変えてみました。

エリー視点だと描写が難しそうだったので。

という割には、拙い描写になってしまいましたが…

「エリーーー!!」


 駆け出したエリーを見て、アリシアは叫んだ!


「チッ!」


 ラグは舌打ちすると、自分の腰元に手を這わせた。

 そして、そこに武器があることを確認すると、


「アリシア。ここを絶対に動くな」


 そう言うと姿勢を低くしたまま立ち上がり、エリーを追い駆けるべく走り出した。

 まるで風を切るような速さで駆け出したラグは、あっという間にエリーとの距離を詰める。

 そんなラグに、エリーは全く気が付いていない。

 目の前の出来事に意識を奪われ、周りが見えていないのだ。

 そしてラグはエリーの背後に迫ると手を伸ばし、そのままエリーを担いでしまった。

 突然襲った浮遊感に驚き、エリーはそこで初めて周りを見ることが出来た。

 担がれた方向へ振り向くと、そこにはエリーを抱えるラグの姿があった。


「ラ、ラグ殿!?」

「エリー、無謀な真似は命取りになるぞ」


 そう言うと足を止め、そっとエリーをその場に下ろす。


「あ、あの……」

「アリシアのところへ戻れ、いいな?」


 とだけ言い残すと、ラグはまた駆け出してしまった。


 人さらいは少女を小脇に抱え、その場を去ろうと馬の踵を返したところだった。

 そのまま立ち去ろうとするところを見ると、エリーの接近には気付いていなかったようだ。

 ラグは馬の後方へ駆け寄ると、帯刀していた剣を抜き、ジャンプした。

 男の背丈よりやや低い位置まで飛び上がったラグは、そのまま剣を横一文字に走らせる。

 地面に降りる際、ラグはすばやい動作で剣を鞘に収めると、人さらいが脇に抱えていた少女を抜き取るように奪い、抱えた。

 同時に、人さらいの首がズルリと胴体から離れ、鮮血が吹き溢れ出す。

 ラグはそれには一瞥もくれず、地面に降り立つと再び姿勢を低くし、アリシアの元へと駆け出した。

 途中、エリーがまだ戻り切っていなかったので、空いている方の腕でエリーを抱えると、丘を駆け上がり、アリシアの元へと戻って来た。


「エリー!!」


 ラグに連れ戻されたエリーを見て、アリシアはややヒステリックな声色で彼女の名前を口にした。

 これは相当怒っているのだろう。

 むしろ心配していたのだろうか。

 いや、起こったことに対して気が動転しているのかもしれない。

 とにかく、エリーはそれほどのことをしたということだ。

 そんなアリシアを見て、


 この場でなにも仰らないということは、あとで大目玉か?

 お嬢様……分かっていますが、そんな眉間にしわを寄せて睨まないで下さい……


 と心の中で呟くエリーであった。


 ラグはアリシアとエリーの間に先ほどの少女を座らせた。

 その容姿はまだ幼い。

  十歳にも満たっていないだろう。


 少女はまだグスグスと鼻をすすってはいる。

 が、見たところ怪我はしていないようだった。


「ラグ殿、今すぐこの場を離れましょう!」


 エリーはラグにそう進言するが、当の本人は彼女には一切目もくれず、ただ集落の方を見つめるだけだった。


「ラグ殿! 早く離れないと……」

「ダメだ……!」

「え?」

「……連中、こっちに気付いたか?」


 ラグがそう口にすると、エリーも集落の方へ目を向けた。

 人さらいの先頭集団は集落を離れつつあるが、その後ろ。

 十人ほどだろうか。

 異変を察知したのか、黒い人影が集落の外側へと進んでくる。


「ラ、ラグ殿!」

「ラグ様!」


「お前たちはここを離れるな」


 ラグはそう言うと、荷車の方へと下がり、そこから素早く弓矢を持ち出すと、彼女たちの元へと戻って来た。


「ラグ殿! 何をするつもりですか? に、逃げなければ……」

「今から逃げてもムダだ」

「ではどうするつもりなのですか!? そんな、弓なんて持ち出して!」

「奴らを殲滅する」

「……殲滅?」


 エリーが戸惑いながら聞き返すと、ラグは二人を交互に見やった。


「いいか。この場を絶対に離れるなよ」


 それだけ言い残すと、ラグは茂みの中へと消えて行った。


 ラグは茂みの中を姿勢を低くして進んでいく。

 先程首をはねた人さらいの近くまで行くと、そこにはすでに馬を降りた二人の人影があった。

 二人は首の無い死体の側に立ち、それぞれが武器を手にあれこれと喋っているのが聞こえてくる。


「なんだ? なんで首を斬られてんだ?」

「こいつ、ガキを連れてくるんじゃなかったのか?」


 ラグは弓を構えて矢を引き絞り、狙いを付けて矢を放つ!

 ピュンと風を切るような音を立てて放たれた矢は、そのまま右側に立っている人さらいの側頭部を貫き、首をもぎ取った。

 あり得ない事ではあるが、首がすっ飛んだのだ。

 眼前で首をもがれ、血を吹き出しながら倒れる片割れをもう一人は呆然とした表情で眺めていた。

 が、すぐに手にした剣を構えて周囲をキョロキョロと首を回したり、体の向きを絶えず変え始めた。

 どうやら警戒しているようだ。


「ど、どこだ? どこにいやがる!?」


 そう叫ぶ人さらいに向かって、ラグは素早い動作で狙いを定めると、もう一発、矢を放つ。

 それは人さらいの腕を貫いた。

 それも、武器を持つ両腕が重なる部分を貫いたのだ。

 そして先の首同様、勢いのままに肘から下をもぎ取ってしまった。

 それを確認したラグは、弓を肩に掛けると剣を抜き、人さらいに向かって走り出した!


「あ! あぁぁぁぁ!」


 肘から下がなくなった腕を見て打ちひしがれている人さらいの前を、ラグがかすめるようにして走り抜けると、人さらいの首から鮮血が溢れ出る。

 そして、そのまま地面に倒れた。


 ラグは周囲を確認した。

 近くにいるのは七人ほど。

 ラグを見ると、皆一目散に彼目掛けて駆け出していた。

 その誰もが斧や剣、槍といった武器を手にしており、仲間を殺された怒りからか、「ウォォォォォ!」と怒号を上げている。

 ラグは剣を片手に姿勢を低くして構えると、躊躇することなく、迫ってくる人さらいたちに向かって駆け出した。

 先頭の一人が斧を大きく振りかぶり、ラグに迫る。

 ラグは振り下ろされた斧を避けると、まずその腕を斬り落とし、次に腹を斬り裂いた。

 相手が倒れるのを横目にしながら、その後ろへと斬りかかる。

 槍が突き出されてきたが、それをかわすと足で槍を押さえつける。

 そのまま剣を相手の喉元に押し付け、喉笛を裂いた。

 ヒュウ! と空気が流れ出る音と共に鮮血がバッと飛び出す。

 返り血をやや浴びつつも、また次へと走る。

 そうしてあっという間に三人を倒した。


 ようやく彼らもラグを脅威とみなしたのか、一人ひとりでは敵わないと見たのか。


 ラグを取り囲むように周囲を固めると、息を合わせ、タイミングを見計らって一斉に飛び掛かってきた。

 ラグは膝を突き、剣を頭上に持ち上げると、一文字にして構えた。

 四方から飛び交う刃は、それぞれが放物線を描くようにラグの剣へと降り注ぐ。


 これだけの手数。

 受け止めきれるわけがない!


 恐らく人さらい共はそう踏んでいたに違いない。

 だが、ラグが全ての攻撃をその剣で受け止めたかといえば、違った。

 人さらい共がそれぞれの得物を振り下ろした時。

 ザクザク! と、肉を断つそれとは違った感触が手に伝わってきた。

 なんと、そこにラグの姿はなく、皆が皆、地面にそれぞれの武器を突き立てていたのだ!

 その光景は、まるで勝利を誓った者たちが士気を上げるための円陣を組んでいるように見える。


「な、なにぃ!?」

「どこに消えた!!」


 人さらい共は地面に食い込んだ武器はそのままに、ラグの姿を探した。

 各々が首を回したり体を捻ってラグの姿を探すが見当たらない。

 そのうち一人が焦りからだろうか、ギッと歯軋りをした。


 ーー早く見つけなければ!

 殺される!


 そんな空気が人さらいたちに流れ始めた時、一人の首がパッと宙を舞った。


「ーーなっ!?」


 次の言葉を発することは許されなかった。

 彼らは、ドスドスドス! と、何かが体に突き刺さるような太い音を聞いた。

 彼らは円陣を組んだまま、腕、首、足、胴体と、体のあらゆる部分を斬り刻まれ、斬られた部位は宙を舞い、彼らの周りに飛び立っていく。


 人間の形を留めきれなくなった肉塊は、ドタドタと地面に崩れ落ち、一人が残った。

 両腕を肩から削がれ、腱を断たれた両足は力を失い、膝を地面についている。


「ーーヒッ、ヒッ、ヒッ……」


 喘ぐような息遣いで彼が見た光景。

 それは彼目掛けて、人間としては考えられない速度で迫るラグの姿だった。


「ヒッ、ヒッ、ヒ、ヒィィぃ!! ば、ば、化け物ぉぉぉぉぉ…………!」


 それが彼の最期の言葉だった。

 言い終わるや否や、首は宙を舞い、ゴトリと地面に転がっていた。


 人さらいたちが立っていたところには、彼らだった肉塊があり、歪だが円を象っている。

 その中央には墓標のように剣や槍、斧といった武器が地面に突き刺さっていた。


 一頻りその光景を眺めていたアリシアは絶句していた。

 ラグの余りの強さに。

 そして、エリーは胸元を掴み、一人沸き起こる衝動を抑えていた。


「ーーす」


 その目はまっすぐラグに注がれている。


「ーー凄い!」


 ふとエリーが視線を変えると、集落の中から弓を構えている者がいた。

 恐らくラグが倒した者たちの仲間だろう。

 彼は弓を引き絞ると、ラグ目掛けて矢を放った。


 シュパン!


 と勢いよく弓から弾き出された矢は、グングンとラグに迫ってくる。

 エリーは思わず声を上げた。


「危ない! ラグ殿ーー!」


 だが、ラグは肩から弓を取り、迫る矢をいとも簡単に手で捕まえると、それを自らの弓で引いて撃ち返した。

 放たれた矢は地を這うように飛び、そのまま持ち主の元へと帰ると、その首を跳ね飛ばした。


 ラグは一通り周囲に視線を走らせる。

 脅威がなくなったことを確認しているのだ。

 不思議と、ラグの息は上がっていなかった。

 あれ程の動きを見せて息が乱れぬと言うのは、人単純に並外れたスタミナや持ち主か、それとも人知の及ばぬ何かだろう。

 一頻り確認が終わると、ラグはアリシア達の元へと戻り始めた。

 人さらいの本隊が追撃してくるかと思ったのだろうが、すでに本隊は集落を離れた後だった。

 恐らくだが、ラグが倒した者たちは取りこぼしがないか確認に来たのだろう。

 その中でラグの行動を目にしてしまったからキバを剥いたのだ。

 それはいとも簡単にへし折られてしまったが。


 ラグが戻ると、アリシアは少女をギュッと抱きし締めた。

 それを見たラグが視線を寄せるが、アリシアは思わずそらしてしまう。

 目線を合わすことが出来なかったのは、少なからずラグに対して恐怖を感じてしまったから。

 そしてエリーは、ラグの姿を間近にして、自らの胸の高鳴りを感じた。

 だが、その前に伝えなければいけないことがあった。

 自分が取った、先の行動について、だ。


「ラグ殿……あ、あの、先程は……も、申しわーー」


 エリーがどもりながら声を掛ける。

 ラグは手を持ち上げると、エリーは咄嗟にビクッと体を震わせ

 瞼をギュッと閉じた。


 ーーな、殴られる!?


 だが、ラグは何も言わずにエリーの頭にポンと手を乗せると、クシャクシャと撫で始めた。

 エリーは驚いた。

 殴られると思ったから。

 そして安堵した。殴られなかったことに対して、ではない。

 決して褒められた行動ではなかったが、エリーの想いが理解されたような気がしたのだ。


 途端、エリーの目から涙が溢れ始めた。

 エリーは下唇を噛み、嗚咽を堪えやうとしたがどうにもならず、その場にへたり込み声を上げて泣き始めてしまった。


「エリー!?」


 それを見て慌てふためいたアリシアは、少女の手を引きつつ彼女の元へ駆けよると、肩にそっと手を乗せた。

 エリーはそれでも泣くのをやめなかった。

 やめられなかった。


 何故ならば、涙がとめどなく溢れてくるのだから。


 ラグはただ静かに荷車の前に腰を下ろし、その様子を見守っていた。













ここまでお読み下さり、ありがとうございます!

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