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シンという男

元勇者パーティのシン。

なかなか黒そうな男です。

 「へぇ、あのフェルディナント(お坊ちゃま)が外交ねぇ」


 剣士団の詰所の横には、フェルディナントが口にした「第三軍」の詰所がある。

 と言っても、第三軍のメンバーは、かつて勇者アトスと共に魔王を打ち倒した「三英雄」だけだ。

 その中の一人、マーニィは、艶やかなブラウンの癖っ毛を指でクルクル回しながら、壁にもたれてシンの話を聞いていた。


 外は夕暮れ。

 マーニィは辺境の紛争地帯へ、第三軍からの応援として従軍していたが、それが早くに解決したため、バルト国へ戻って来たところだった。

 解決の手段は何てことない。

 元勇者パーティとしての力を遺憾無く発揮し、敵を殲滅しただけだ。

 もちろん、()()()()()()()()

 窓から差し込む夕日が、マーニィのその白い肌を赤く染めている。


「あぁ、あいつには()()()()じゃないか」

「あんたもよく言うわ。だいたい、昨日の今日でカムリ卿のことがクロノシアに伝わるはずがないじゃない。どんなに早馬でも一週間以上は掛かるわ」


 マーニィはクスクス笑いながらそう言うと、幅広のソファに触ってるグラスを煽っているシンを見た。


「それで、あたしたちはどうするの?」

「俺たちはお嬢様の行方を追う」

「はぁ? わざわざ?」


 シンの一言に、マーニィはつい素っ頓狂な声を上げてしまった。


「そう言うな、マーニィ。これも国の大事な仕事だぞ。それに気にならないか?」


 そこでシンは目を細めた。その目に鋭さが宿る。


「その剣士の報告にあった、例の奴?」

「そうだ」

「確かにねぇ。いくらなんでも、()()()()()()()()()()()()()で相手をいなすなんて……それが本当なら、剣士団程度の技術じゃ足元にも及ばないでしょうね」

「そんな奴がこの国にいるなんて、少なくともこの三年間では聞いたことがない。どんな奴か興味がある。その上で」

第三軍(あたしたち)に引き込む、と。断ってきたら?」

「その時は殺せばいい。使えない駒は無用だ。アリシアもな」

「アリシアもって。一緒にいるって分かるの?」

「可能性で言えば、だが。あり得なくはないだろ」


 シンはまたグラスを煽った。

 注がれていた血のような色をしたワインは、滑らかな動きで口の中へと流れ込んでいく。


「ねぇ、シン。そいつさ、あたしに任せてよ」


 マーニィの申し出に、シンは口元をニヤッと歪ませた。


「そう言うと思ってた。初めからお前に頼むつもりだったさ。奴の居場所については、おおよそだが当たりを付けてある。お嬢様もな。後で伝えるよ」


 シンがそう言うと、マーニィは年の割にあどけなさが残る顔をクシャッとして見せた。


「やったね! じゃ、準備しなきゃ! それにしても、シンは悪い奴だよねぇ。お坊ちゃまに嘘の情報を流すなんて」

「嘘じゃない。こちらの動き如何ではいずれそうなる。その前に手を打っただけさ」

「そんなこと言って! あいつに外交なんて出来る訳ないじゃん。駆け引き上手な妹と違って、私利私欲にまみれた、世間知らずのボンボンだよ」


 マーニィのその例えを聞いて、シンはなるほどと思った。

 彼女の例えはフェルディナントの性格を的確に表していると感じたからだ。


「ま、そのせいで自分がどんだけ嫌われてるか分かってないのは痛すぎるけどね。あいつ、こないだも部下に自分の失敗の尻拭いさせてたんだよ。脅して、金握らせてさ。あいつを慕う奴なんているのかな?」

「金目当ての腰巾着ならたくさんいるさ。羽振りだけはいいからな。国一番の剣の使い手が、哀れだねぇ」

「それは()()()()()()()()()、でしょ」

「そうなるか。とにかく、この国の出すべき膿を出しきるにはいい機会だ。フェルディナント(あいつ)に感謝しないとな。あいつが父親を殺してくれたおかげで、だいぶ動きやすくなった」

「シン、どうしてあいつがカムリ卿を殺したって分かるの?」

()()()()()()がそんなこと出来る訳がない。それにお前も言ったじゃないか。私利私欲にまみれたボンボンだって」

「あぁ……」


 シンに言われて、マーニィは何となくだが納得出来た。


「さて、それでは()()()()()()の外交手腕を見させて頂きましょうか」

「そんなこと言って。あいつ、絶対失敗するよ。それに、シンは戦争がしたいだけじゃん?」


 マーニィのその言葉に、シンは思わずほくそ笑んでしまった。


「あぁ、思う存分暴れられるだろ」

「そうなったら、今度はあんたが魔王って言われるかもね。そしたら勇者が現れたりして」

「勇者は三年前に死んだよ。もし現れたら、そいつは成仏出来ない幽霊だ」


 マーニィの皮肉めいた一言に、シンは静かに、まるで自分に言い聞かせるかのような口調で返した。

 それを見るマーニィの目には、どことなく儚げなものが光っている。


「じゃ、あたしは行くわ」


 そう告げてからマーニィは踵を返したが、「そう言えば」と詰所の扉に立ったところで、シンに振り返った。


「その……酒場の報告をした奴はどうしたの?」







「あぁ、そいつは殺した。色々知りすぎたからな」








 マーニィの問いに、シンは冷たい口調でそう答えた。

 マーニィは眉をしかめた。


 ーーそれって……単に殺す口実を作っただけじゃないの……


 そう胸の中で呟き、マーニィは詰所を後にした。

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