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プロローグ ー裏切りの刃ー

 俺の名前はアトス。


 勇者として魔王バラドスを倒すため、戦士マーニィ、魔道士レイア、狩人シンと共に幾多の激闘を潜り抜け、遂に魔王と対峙した。


 旅を始めておよそ半年。

 これが長いのか短いのかは分からないが、やれるだけのことをやってここまで辿り着いた。


 それは魔王城。

 その玉座の間。

 俺たちの前には、傷付き倒れた魔族たちの屍で溢れ、俺たち自身も満身創痍に近い。

 それを、椅子に踏ん反り返り、真っ黒な衣服に身を包んだ、肌の青い魔族の男がニヤニヤしながら眺めている。


 魔王だ。


 奴は俺たちを一瞥すると、ゆるりと立ち上がった。


 いよいよ最後の戦いが始まる!


 戦闘に入ると同時に、レイアは俺たち全員に魔法を施してくれた。

 治癒魔法と身体強化の魔法だ。

 レイアの魔法はどれも効果が高い。

 彼女の魔法にはどれだけ世話になったことか。


 よし! ダメージは回復した! 力もみなぎってきたぞ!


 俺たちは各々をカバーするような形で戦闘に突入した。

 それにしてもさすが魔王。

 魔法にしろ打撃にしろ、どんな攻撃でも一発一発がとても重く、強い。

 食らえば確実にダメージに繋がってしまう。

 だが、俺たちは食らうこともあるが、既の所でそれを躱し、チームワークを駆使してジリジリと魔王を追い込んでいく。


 次第にそれは俺たちを優勢に導いていった。


 突然、マーニィはパッと飛び出した!

 彼女は素早く魔王の左側へと回り込んでいく。

 奴の目を引くためだ。

 思惑通り、魔王は左手に回ったマーニィに気を取られている。

 そこをついて、俺は正面から懐に入り、魔王の胸元を切り裂いた!

 苦しそうな声を上げる魔王だが、まだ余力があるように見える。

 そこへ、レイアの攻撃魔法が襲いかかった!

 それは魔王に当たる手前で爆裂し、辺りは煙にまみれてしまった。

 だが、これでいい。


 目的は、魔王の目をくらますことだったのだから。


 玉座の間に立ち込める煙が晴れたとき。

 その中から魔王が姿を現したとき、シンが魔王に向けて弓を引き絞る。


  そして、それを魔王めがけて放った!


 シュィーーーンと風を切る音と共に、放たれた矢が真っ赤に燃え始める。

 魔王は両腕を出してクロスさせ、防御の姿勢を取った。

 が、それを見てシンの口角が上向きに歪むのを、俺は見逃さなかった。


「クリムゾンスパロウ。魔王、燃えちまいな」

 

 シンがニヒルな口調で言うと、炎をまとった矢が魔王の目の前で爆散した。


「ぬおぉぉぉぉ!?」

「まだまだ……いくぞ。フェニックスストーム」


 シンがまた、弓を引いて矢を弾く!

 放たれた矢は散り、鳥の形になって魔王に降り注いだ!

 魔王のまとった衣服が燃え上がり、魔王自身も火に包まれた。

 魔王は必死に、衣服にまとわりつく炎を散らそうと躍起になっている。


 何とも言い難い光景だ……


「ぐぬぅぅ…….! おのれ、おのれぇ!!」


 火を払いながらも憎々しげに牙を剥く魔王に、マーニィが走る!

 魔王の左側から駆け寄り、一気に間合いを詰めると、剣を右から左へ薙ぎ払った!

 するとどうか。魔王の左足の太ももにスパッと線が入り、そこから血が噴き出した。

 腱まで太刀が入ったのか、魔王は左膝を床につく。

 だが、姿勢を保てず、体勢が崩れるのを防ごうとさらに両手を床についた。


 マーニィの攻撃は、魔王の動きを奪った。


 ーーー今だ!!


 俺は剣を握る手に力を込めた。

 剣は答えるかのようにーーキィィィィィィン……とか細い音を奏でる。

 柄の中心に据えられた青い宝玉から光が放たれた!


「魔王! 覚悟!」


 俺は愛刀を右肩に抱えるようにして構えると、魔王の右手から回り込み、懐へと入り込んだ。

 魔王の顔がすぐそばにある。

 こうして見ると、肌や目、髪の毛の色など、細かい部分に違いはあれど、同じ人間に見える。

 あ、身の丈はあっちが上だが。


 魔王は俺を、さも憎らしげに睨み付けてきた。


「貴様ら人間如きに、魔王である余がぁぁぁ……」


 魔王の手のひらに暗い渦が現れた!

 どうやら魔法を繰り出すつもりのようだが、そうはさせない!


「魔王! 勇者アトスが人間を代表してお前を倒す! 我が剣を受けよーーー!」


 そして俺は抱えた剣を、あらん限りの力を込めて振り下ろした!

 ヒュン! という鋭い音と共に魔王の左肩に食い込む!

 剣は鎧を砕き、肉を斬った。

 斬ったところから、ブシャッ! とおびただしい量の青い、魔族の血が溢れ出す。

 俺の剣が心臓を貫いたんだろう。

 魔王の体から力がみるみる抜けていく。


 魔王は力無きまなこで俺を見た。


「ゆ、勇者よ……。余を倒せて……満足か……?」


 魔王は虫の息ながら、俺にそう問いかけてきた。

 俺はそれに頷くと、魔王は口元をニヤリと釣り上げた。


「お、愚か者め……。己の末路も知らぬとは……」

「末路?」

「ゆ、勇者よ、全てが自分の、み、味方であるとは、思うな、よ。

 こ、これは、余からの、置きみや、げ、だ……」


 魔王はそう言うと、真っ黒な灰となって崩れ落ちた。


 俺は魔王の最後の言葉が耳から離れなかった。


「全てが自分の味方であるとは思うな」


 これは一体どういう意味なのか……

 一人思案していると、ポンと肩に手が乗せられた。

 振り向くと、そこにはシンがいた。

 彼だけじゃない。

 レイアとマーニィも駆け寄ってきた。

 皆、笑顔で。


「アトス!」

「やったわね!」

「さすがだ、アトス。さすが勇者だ!」


 方々から声を掛けられ、俺は思わず目を伏せてしまった。

 照れたこともあるが、グッと堪え切れないものが込み上げてきたせいもある。

 そして、肩からスーッと力が抜けた気がした。


 終わったんだ、これで全てが終わった……


 そう、心のなかで呟いた。


「そうだ、アトス。お前の剣、見せてくれないか?」

「え?」

「魔王を倒した剣だ。王様に返すんだろ? 見れなくなる前に、よく拝んどこうと思ってな」


 シンはそう言ってはにかんだ。


「あぁ、いいぜ。ほら」


 俺は腰に下げた鞘から剣を抜いた。

 眩く煌めく刀身に、俺の顔がチラッと映る。

 曇りもなく、刃こぼれ一つない。

 最高の剣だ。

 それを、俺はシンへと手渡した。

 受け取った剣を、シンはマジマジと覗き込んだ。

 そして軽く振ったりいなしたり……と、まるで剣を鑑定でもするかのように、動かしてみたり、柄の頭から剣先を見たりしている。


「どうかしたか? シン?」

「本当にいい剣だ。()()()()()()()()()()くらいに、な」


「ーーえ?」


「聞こえなかったのか、アトス。お前には()()()()()()とーー」


 シンは不敵な笑みを浮かべてそう言うと、剣をダラリと下げ……


「ーー言ったんだ!」


 斜め上の方向へと素早く、一気に振り上げた!

 瞬きする間もないとはこのことか。

 俺は何が起こったのか分からず、その場に立ちすくんでいた。

 そして、気が付くと、床に膝を付いていたんだ。


「ーーえ?」


 床に視線を落とすと、そこには血が……

 魔王の血じゃない、()()()が広がっていた。

 俺は混乱した。

 どうして体から力が抜けて、床に膝を付いて、目の前には血の海が出来上がっているのか。

 ふと胸元を見ると……

 血だらけだった……

 ますます混乱した。

 どうして自分の胸元から血が溢れているのか?

 そして思い返してみた。

 何があったのかを。

 一つ、浮かんできた光景がある。

 シンが俺の剣を下から斜め上に、()()()()()()()()()()光景をーー


「あ、あ、シ、シン……」

「目障りだったんだよ、お前」

「え……え?」

「調子こきやがって。勇者だなんだ祭り上げられりゃ、地味な奴でも浮き足立つもんなんだな」

「シ、シン?」


 俺は耳を疑った。

 仲間が……

 苦楽を共にした仲間がそんなことを口走るなんて……


 何かの間違いだと思った。


 ーーこれは夢だ、俺はは夢を見ているんだ。


 そう思いたかった……

 でも、これは現実で、今俺の身に起こっていることは夢なんかじゃなかった……


「ホント嫌になるのよ。あんたといると」


 マーニィがそう言いながら俺に近付いてきた。

 剣を抜いて……


「自分ばっか目立ってたくせに、仲間がいるからなんとか言ってカッコつけちゃって……さぁ!!」


 マーニィは剣の先を俺の太ももにまっすぐ落としてきた!

 ズン! と刺さり、激痛とまた、血が溢れ出した。


「ギャァァァァァァ!!」


「情けない声出してんじゃねぇよ、勇者様は我慢強いんじゃなかったのか?」


「う、うぅ、レ、レイア……」


 俺は激痛と戦いながらも、レイアに視線を向けた。

 だが、レイアは俺と目が合うと、サッと視線を逸らしてしまった。

 まるで、何も見ていなかったかのように……

 その場に俺がいないかのように……


「あぁ、レイア……」


 俺は彼女に向けて届かない手を伸ばすが、彼女はなおも目を逸らしたままだった。

 それまで何とか自分らしさを保とうとしていたが、彼女のその態度を見て、俺の心の中は一気に真っ黒に染まった。


 その瞬間ーー


 俺の中から光が消えた……


「じゃあな、アトス。お前は魔王と戦って華々しく散ったって伝えといてやるよ。この剣は冥土の土産だ。くれてやる」


 シンはそう言うともう一度剣を構えて、俺の胸にそれを突き刺した……


 胸元から背中へ。

 俺の体の中を衝撃が走った。

 硬く、鋭利な金属が貫く衝撃が……

 その衝撃が消えた時。

 俺の体からは力が抜け、膝が折れ曲がり、背中から床に倒れ込み、転がった。

 ゴトンと頭を打つ音がして、目の前には暗い天井が広がる。

 その横を、笑みを浮かべるシンとマーニィ、そしてレイアの三人が通り抜けていく。




 魔王を倒した記念すべき日。





 俺は仲間に裏切られ、殺された……












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