修学旅行はスキー場です
高校の修学旅行は三年生ではなく二年生の時にある。
うちの高校はスキーだから冬。三年生の冬は受験の時期だから、二年生で行くらしい。
なんだかなあ。
どこの高校も修学旅行は二年生の時らしいから仕方ないんだけどね。いまいち気分が出ないよね。
私スキーなんてやったことないけど、大丈夫かなあ。
といっても生徒の大多数が私と同じくスキー初心者でホッとした。
「これ着るの?」
配られたスキーウェアをぴらん、と広げて私は恐る恐る言った。
「みたいね」
すみれも戦々恐々と頷く。
だってこの反応も仕方ない。
学校が借りていたスキーウェアは目に痛い蛍光色だった。
はっきり言ってダサい。しかもめちゃくちゃ目立つ。
あれかな。修学旅行の高校の生徒だって一目でわかるようにこれなのかな。
それともスキー場の事情? 安いウェアはこんなのしかないとか?
しかし私たちは学校の修学旅行生。選択権はない。私は覚悟を決めて、体操服の上からウェアを着込む。部屋を見渡せば、目がちかちかする色でいっぱいだ。
うん。みんな同じだから恥ずかしくない。
「なにこれ、ウケる」
「とりあえず記念に写真とっとこうよ」
これはこれで貴重な体験だよね。
普段なら絶対に着ない蛍光色だもん。なんかテンションが上がる。
箸が転んでもおかしいお年頃の私たち。無意味にポーズをとって写真を撮りまくった。
そんな中一人だけ、この安っぽいウェアでさえ着こなす人がいた。
有栖川さんである。
何の因果か知らないけど、二年生で私は有栖川さんと同じクラス、修学旅行では同じ班になった。
もこもこのウェア越しにさえわかるすらりとした体形、豊かな胸。帽子を被ってゴーグルをつけていても、色の白さと形よく色づいた唇、フェイスラインから美人だと分かる。ダサいウェアですら、有栖川さんが着ると様になっていた。
「格差を感じるよね」
「うんうん」
すみれの言葉に私は激しく同意する。
それは同じ班の他の子たちもみたい。ちらちらと有栖川さんにうらやましそうな視線を投げている。
当の有栖川さんは、やはり似合っていないと思っているようで、他の子と同じようにダサいと嘆いていた。
着替えが終わると宿の玄関前に集合してから、スキー場へ移動した。といっても、スキー場に隣接された宿だからすぐなんだけどね。
大概が初心者な私たち。ある程度グループに分かれ、みんなでインストラクターの人に滑り方を学ぶ。
靴や板のはき方、脱ぎ方から始まって、立ち方、歩き方の後は意外なことに危なくない転び方だった。それから起き上がり方、滑り方、止まり方を教えてもらう。
「スキー板は八の字で、板が重ならないように注意してください」
一時間ほどでリフトに乗れるようになって、一日目が終わる頃にはゆっくりだけどボーゲンはなんとか出来るようになった。
ひええ、スキーって思ったよりも体力がいる。
変に力が入って体中がパンパン。しかも、暑い。
雪があるスキー場はきっと寒いに違いないと思っていたけど、スキーウェアは優秀だし動くと暑くなる。しかも今日はまれにみる晴天で汗をかいた。
インストラクターの人が言うには、珍しいくらいの晴天なんだそう。
そう言われてもいまいちピンとこない。ただ抜けるような青空の中、必死に滑っていたら暑くて仕方なかった。
日中のスキー教室を終え、夜、美味しいごはんを食べて、慌ただしいお風呂もすませると布団に寝転ぶ。もちろん和室に雑魚寝だ。
トランプなどを一通り楽しむと、各自布団に入ってからがある意味本番だよね。
布団に寝転び、枕を抱えてきゃらきゃらとおしゃべりが弾む。
「こういう時の定番といえば、怪談話と恋バナよね」
女子が5人。誰からともなく定番中の定番な会話になっていく。
「ね、好きな人っている?」
「私はいないな」
一人の質問にすみれが首を振った。そういえばすみれって、中学の頃からそういう話を聞かない。いつも私や彩菜の話を聞いてくれた、りアドバイスしてくれてるだけだった。
「男の子と話すのって苦手で、誰かが好きってとこまでいかない。みんなの話を聞いてたら羨ましい」
そう言ってすみれが肩をすくめる。
「私はね、同じ吹奏楽の先輩が好きなんだ」
恥ずかしそうに他の子も暴露していく。その度にきゃーっと沸く。どんな人? 頑張れって意味があるようなないような会話が続いて行く。
「佐藤さんは?」
「うーん、今のところいないなぁ」
その内私にも話が振られたけど、みんなが期待しているような話なんてない。
先輩に告白されたことはあるけど、面白おかしく話すようなものじゃないと思う。大事にしていたい思い出だった。
「藤河くんは? 時々一緒にいるのを見るよ」
「徹は家が近いっていうだけの、ただの幼なじみ。家庭科部で作りすぎたお菓子をたまにあげるから、見たのってその時でしょ」
またこの話かあ。
そう思いながらいつも通りの定番の答えを言う。
「ほんとにー? 言い訳くさくない?」
「ほんとだって。中途半端に余ったやつなんて家に持って帰るのも邪魔くさいし、自分で全部食べたら太っちゃうもの。だから余った時にあげてるだけ」
「なんだつまんないなー」
笑ってお腹のお肉をつまんでみせると、あっさりと興味をなくされた。
「ね、ね。有栖川さんは?」
それより皆の興味は有栖川さんに移った。なにせうちの高校の人気者。モテる彼女のことが一番気になる。
「好きな人はいないけど」
迷うように有栖川さんが黒目を揺らした。
「けど、何? 何?」
歯切れの悪い言葉にみんながぐっと身を乗り出すと、有栖川さんは困ったように目を伏せた。
わ、まつ毛長いなあ。
「ごめん、まだ分かんないの」
パン、と両手を合わせて片目をつむった。これ以上話すつもりがないって感じの有栖川さんの様子に、みんなががっかりと肩を落とす。
まあ、仕方ないよね。同じ班の子たちみんなと普段からそんなに親しいわけじゃないし。
「じゃあ恋バナはこの辺にして怖い話ね」
いきなり話の流れが苦手は方に向いて私はギクッとなった。
「冬に怪談話はねぇ?」
そうそう。だからやめよう。
「くすくすくす。ある意味乙じゃない?」
「言えてる」
まずい、これ怖い話が始まっちゃう流れだ。
恋バナも怪談もどっちも苦手だけど、怖い話の方がもっと苦手。
「それよりもさ、こないだのドラマの○○くん、良かったよねー」
私はやんわりと違う方向へもっていこうとする。
「カッコいいよね。で、誰からする?」
「はいはーい、一番手は私」
ああっ、つられてくれなかった。
私ひとりの反対など、聞いてくれるはずもなく。
結局、ちょっと霊感の強い子のエピソードが始まって。
私は同じ班の子の、実際に体験した怪談を聞く羽目になった。




