ゆるっと高校生活
高校生活は思っていたよりもバラ色じゃなかった。
まず部活。テニス部に見学に行ったけれど、中学校の時とはまるで違った。コートは人工芝で硬球。
それはまあ、問題ない。
私がひっかかったのは活動が毎日じゃないことと、見学に行った時の人数の少なさ。所属している部員数が少ないのではなく、真面目に部活に来る人数が少ないらしい。
要するにお遊びなのだ。それがどうにも、私は嫌だった。
君も同じだったらしい。テニス部に入らずにサッカー部に入った。どうせお遊びなら、他のスポーツで楽しもう、そんなノリだと言っていた。
私はというと、入りたい部がなくて宙ぶらりんになった。ぐるぐると色んな部を回ってみたけど、ピンとくるものがなくて困ってしまった。
このまま帰宅部かな、と思っていたらすみれに家庭科部へ入らないかと誘われた。特にやりたい部活のなかった私は、結局家庭科部に入った。
そんな経緯で入った家庭科部だけど、やってみればそれなりに楽しい。
活動は火曜日と木曜日の週二回。お菓子作りがメインだ。
火曜日に次回に作るものを決め、作る手順や材料とかかる費用を調べる。木曜日までにそれぞれ手分けして材料を買ってきて代金は人数割り。木曜日に作って実食だ。
「次はチーズケーキ作りたいなー」
「だめだめ、クリームチーズ使うでしょ。予算オーバーだよ」
「時間がかかりすぎるものも駄目だよね」
お菓子のレシピ本をめくり、皆であーだこーだいいながら決めるのは楽しい。
作るのももちろん、作ったものを食べるのも。
中学校の部活のようにかーっと熱いものではないけど、ゆるゆると楽しく過ごす毎日。
私がそんな風なのに対して、君が入ったサッカー部は毎日練習があった。終わる時間も違う。だから同じ高校だけど、君と一緒に帰らなくなった。
駅まで歩いて電車に乗り、降りた駅から家まではまた徒歩。
一人の帰り道はなんだか味気なかった。
さて。うちの高校には一人、とびぬけて可愛い子がいた。
彼女の名は有栖川麗奈。
なんだか名前まで可愛い。
まず顔が小さい。色が白くて細い。すらりと手足が長くて、腰まで伸ばしたさらさらのストレートな髪がとても似合っていた。目はぱっちりと二重で、唇の形も綺麗で色もつやつやピンク色。
スタイルもよくって、モデルみたいに身長も高い。スレンダーなんだけど、出るとこは出てる。アイドルだって言われても、そうなんだと頷いてしまうほどだった。
彼女はなんとサッカー部のマネージャーだ。もちろんサッカー部員は彼女にデレデレ。君も例外じゃなかった。
彼女がサッカー部のマネージャーをするようになってから、部員の数が倍増したそうだ。
高校に入ってから君と話をする機会はめっきり少なくなったけど、彼女の名前は時々君の口から飛び出した。
テスト期間中、部活が休みの君は部屋でごろごろしながら彼女の話をする。ちなみに教科書とノートは開いただけ。君の手にはゲーム機がおさまっている。
私だって君と真面目にテスト勉強する気はさらさらなくて、夜にちゃちゃっとやってしまうつもりだ。だけどここにいるのは、お母さんやおばさんへのやってますよ、というパフォーマンスみたいなもの。
「タオルを渡してくれた時、彼女すげーいい匂いがすんだよな」
「ふーん」
「しかも胸でけー。お前とは違うな」
「悪かったわね」
胸のくだりで私は思いきり、にやにやする君の脇腹に肘鉄を食らわせてやった。
「ってーな、この暴力女」
脇腹を押さえて転がる君へ、私は思い切りさげすんだ冷たい目を向ける。
「さいってー」
テーブルに置いた皿をさっと取り上げる。
さらには食べかけのレモンケーキが2つ乗っていた。一つは私の、一つは君のだ。
レモン一個、果汁も皮も入れたケーキで、焼きあがってからもレモンシロップをしみこませてしっとりとさせてある。
この間部活で作って美味しかったから家でもやってみた。それを形ばかりの勉強会のおやつにしていたのだ。
せっかく手作りのケーキを持ってきてあげたというのに。
しょうもない話をするからだよ。
「悪かったわね、スタイル悪くて。これは要らないらしいから持って帰る」
ついでに転がったままでいる君の脇腹を、足でぐりぐりとやった。
「ぐへっ、すんませんでした! 俺が悪うございました、千尋さま」
ノリで下手に出る君。ケーキを乗せた皿を持った手を、反対の手でつかんで腕組みの姿勢の私。
うん。気分は女王さまだ。
「欲しい?」
「欲しい、欲しいです!」
「どうしよっかなぁ」
わざとらしく悩んでいるふりをして天井を見つめる。
本当に取り上げる気はないし、そろそろ許してあげようか。
などと思っていると、足の裏から君の体温が消える。
えっ?
「この。あんま調子に乗んなよ」
私の足から抜け出した君はさっと立ち上がった。
それはいいんだけど。
ちょっと、急に抜けられたらバランスがっ。
「わわわっ」
ぐらりと傾きかけた私の肩ががしっと掴まれ、手から皿の重みが消失する。
「もーらいっ」
私の手から見事皿をゲットした君が、私の肩から手を放してケーキにかじりついた。
唖然としている私の目の前であっという間にケーキが消える。
「あっ、ちょっと私の分まで!」
「へへーん。早いもん勝ちだね」
もう。一緒に食べようと思って持ってきてたのに。
っていうか、食べるのはやっ。
「うめー!」
私は怒ろうと君を睨んだけど。
「うまかった。また作ってくれよな」
嬉しそうな君を見たら、怒りがどこかへ行ってしまった。
まあ、いいか。
美味しそうに食べてくれた君の笑顔に免じて許してあげよう。
だからもう、しょうもない話はやめてよね。




