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君への切ない片想いはこれで終わりなのでしょうか

 君とはずっと幼馴染という立場で、友達以上でもそれ以下でもなかった。

 息をするみたいに隣にいるのが当たり前の存在。それだけだったのに。


 卒業式が終わっての帰り道。私はとぼとぼと通い慣れた道を歩く。

 もう、この道を歩くのも最後。ううん、歩くかもしれないけれど、制服で高校生という私が歩くのはこれで最後。


 そして、君とこの道を歩くことはもうない。


 私の横を制服の男子が追い抜いて行った。少し先には三人、塊になった女子がじゃれあいながら歩いてる。楽しそうだったり、別れを惜しんでいたりしながら、みんな私を追い越していく。


 私だけが、取り残されているみたい。

 違うね。取り残されていたいんだ。


 君との高校生活という夢の中で、まだまどろんでいたい。浸っていたかった。


 けれど夢は泡みたいにぱちんと弾けた。

 卒業式の後、告白されていた君の姿を見た時に。


 夢が弾けて、初めて気が付いた。私、君のことが好きだったんだ。


 家族へ向ける好きと、違う。

 友達のことを好きなのとは、違う。


 私はずっと同じものだと思ってた。私の君への好きは、恋する女の子みたいにほほを染めて語るようなものじゃないって。

 もっと軽く、ああ好き好きって笑いながら言えるようなものだって思ってたんだよ。本当に。


 馬鹿だね、今より前の私。


 こんなに私の中の大事な部分を、ぎゅっと掴まれてしまうなんて。

 思ってもみなかったから、少し笑ってしまうね。



 私と君が出会った時は、正直覚えていない。だって仕方ない。赤ん坊の時のことなんて覚えてないのが普通だと思う。

 だから私が一番古い記憶を引っ張り出せば、どれもこれも君がいて、一緒に何かをしていた。


 幼稚園で始めての遠足。断片的だけど、わくわく楽しかった雰囲気だけ覚えてる。


 ふれあい動物園だったのかな?

 私は怖くて近寄れなくって、でも餌をあげたくてうろうろしてた。そしたら手がぐいっと引っ張られて、気がついたらしゃがんでウサギに人参をあげてた。

 モグモグと人参がウサギの口に消えていく様と、ぐっと唇を結んで、真面目くさった君の横顔だけが印象に残ってる。


 可笑しいね。今の私は君が、本当のところ動物苦手なのを知っている。近所の犬に噛まれそうになったことと、うちの猫を撫でようとして引っ掛かれたことが原因だ。その猫も三年前に天寿を全うしたけれど。

 だから君は動物が嫌いじゃないのに、苦手。


 あと、あれはいつだったんだろ?


 私は紙皿に入れたウインナーと焼いたカボチャをパクパク食べてて、隣には大嫌いな椎茸としかめっ面でにらめっこしてた君がいた。


 そうそう。うちの家族と君の家族でよくバーベキューしてたから、その時だね。

 バーベキューの網に乗っているお肉や野菜が、ちょっと背伸びしなくちゃ見えなかったから、結構小さい時だと思う。


 君があんまり長いこと椎茸を睨んでいるものだから、お母さんたちの目を盗んで私がパクっと自分の口に入れちゃった。

 その時の君の顔ったら。パアッとすっごい明るくなっちゃって。

 私はお姉さんな気分で、もう、仕方ないなあって上から目線してた。うん、私も子供だったんだよ。しょうがないよね。

 君だって椎茸食べられなかったくらいお子さまだったんだからお互い様だ。


 ええと、次の記憶は小学校の運動会だったかな?


 リレーの時、私は君から渡されるバトンをドキドキしながら待ってた。

 真ん中くらいの順位だったら良かったのに、君が二人抜いてトップで走ってきたものだから。

 めちゃくちゃ必死で走ったのを覚えてる。


 もうとにかく目一杯手足を動かして、ちょっとでも速く、なんとか抜かされないようにって頑張った。

 なのに、やっぱり抜かれてしまって。

 情けないやら、同じクラスの子に申し訳ないやらで、心がぐちゃぐちゃになった。


 君からのバトンなんて、もうこりごりだって怒ったんだった。ふふ、今から思えば八つ当たりってやつだね。

 君も「知るか、バーカ」って私に向かってあっかんべーしてさ。言い合いになって、お互いにもう口きかないって喧嘩別れした。

 なのに気が付くと話しかけてて。いつの間にか仲直りしてしまう。


 そういうことって何回もあって。

 仲良く遊んだり、喧嘩したり、嫌いなものをこっそり食べ合いっこしたり。妙に戦友みたいな絆があったり、大人に内緒の二人だけの秘密を持っていたり。


 君との時間は気がつけばそこにあるものだった。


 なければ窒息死してしまうほど、私にはなくてはならないものだったの。


 でも今より前の私は、そんなに切羽詰まったものだなんて思わなかった。

 あるのが当たり前で、有り難みもくそもない。そこかしこにある空気と同じ。

 息を吸って、吐く。無意識にやってること。それくらい、普通のことで。日常の一部だったんだよ。君との時間は。


 苦しいね。空気がないと苦しい。

 君がいないと、息が出来ないよ。

 苦しくて、苦しくて、涙があふれてしまいそう。


 一体いつから、そんな風になってしまったんだろうね。私にも分からないよ。


 だから自分の心の中を探してみよう。

 これから少し、記憶を掘り起こしてみようと思う。

次話の更新は本日の正午頃です。

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