3人での思い出話。
どうも、ファウストです。
先日、同じ主人公でバレンタインの話を投稿しましたが、それとは一切関係ありません。
舞台となる高校も違います。
全く違う世界線と考えて下さい。
それでは、どうぞ。
カッカッと黒板にチョークで文字を書く音が、静粛な教室に響く。
その音を出している張本人は教科書片手に、黒板の方を向いているため、クラス内で好き勝手している人がいるのも公立校の醍醐味というものだろうか。
そんな事を思っている俺も、黒板を写すことを諦めて、机の中から文庫本を取り出し、栞を挟んであるページを開ける。
今読んでいるのはホラー小説で、今は物語の起承転結で言う転の部分であるため、続きが気になっていた。俺は読み進めたところを見つけ、そこから続きを黙々と読んでいく。
しかし、教壇がズレるような音がしたため、即座に本を閉じる。
「おっと、踏み外したみたいだ。驚かせて悪かったな。」
本当に心臓に悪い。
そう思っている人の数は先程まで好き勝手していた人の数と等しいだろう。
言わずもがな俺もそのうちの1人である。
読書を諦めて、俺は机に突っ伏す。
とくに眠気もないが、他にすることもないし、何より、授業を受けるやる気が今日に限ってでない。
普段ははこのようなことはないのだが、今日は妙に体がだるい。
空模様が灰一色に染まり、重い空気を作り出しているからだろうか。それとも、お昼の弁当を忘れたからだろうか。いや、後者はないと思う。が、かと言って、前者というわけでもない気がするのもまた事実。
思考の海に溺れていると、海底から光が差し始める。
俺は抵抗せず素直にその光を受け止めた。
意識が戻るとそこに、先程まで授業をしていた教科担任の姿はなかった。
しかし、彼からの土産物だろうか、頭に妙な痛みが残っていた。
「おい、詠!お前スゲーな!」
休み時間。
俺の名を呼び、男子が何がすごいのか全くわからないまま肩に手を乗せてくる。
「何がすごいんだよ。陸。」
そのまま思ったことを俺も彼の名前を呼びながら尋ねる。
影原陸斗、それが彼の名だ。
彼とは中学の時からの友人で、名前から一文字とった「陸」が愛称である。
「いやだって、先生が出席簿で頭叩いたのに全く起きねーんだもん。クラス中苦笑いしてたぜ。普段あんなことないのに、疲れてるのか?」
やはりあの教師の土産物だったのか。と今でも少しする痛みの理由を納得する。
が、そこまで深く寝入ったつもりも無かった。
やはり彼の言った通り疲れているのだろうか。
「はぁ、そうかもな。おっと、もうチャイムがなるな。これ乗り越えたら昼飯だから頑張ろうぜ。」
「だな!でもお前はやっぱすげーよな。」
「?何が?」
「いやだって、お前今日弁当ないだろ?それなのに昼飯のために頑張るって。どうせお前のことだから財布があっても中空っぽだろ?」
「あっ。」
忘れていた。
そうだ、今日は弁当を忘れたんだった。
それに彼の言う通り、財布はあるが中は空だ。
昨日か一昨日に本を買ってそれ以来、財布に金を入れていない。
体が疲れているのに、昼飯もない。
これはなんという拷問だろうか。
「ファイト」
彼が放ったその一言は今まで言われた同じセリフで一番体に染みた。
全校生徒を一時的に解放する昼の鐘がなる。
が、俺は解放されない。
むしろ、空腹度が上がっていくため、要らないとまで思ってしまう。
陸達から哀れみの視線を感じる。
忘れてしまったものは仕方がない。
そうキリをつけて、立ち上がる。
そこで
「詠」
と、凛と澄んだ透き通る声が俺の名を呼んだ。
この声の主を俺は知っている。
クラスの男子の一部は俺の方を睨んでいた。
「あー!怜!やっぱ来たか!」
そこで何故か、陸が声を上げる。
怜、と呼ばれた少女は影の方を向き、
「あ、陸斗。いたんだ。」
と言い放った。
クラスはしんと静まり返っているのが不思議ではあるが、そのお陰で彼女のお世辞にも大きいとはいえない声がはっきりと聞こえた。
そして、先程またな俺を睨んでいた陸のところにいた男子たちは今度、陸に視線をぶつける。
「そうですか。やっぱり詠以外はどうでもいいんですか。」
しかし、そんな視線も何処吹く風、呆れたような表情を見せる。
オマケに、やれやれとジェスチャーも付けて。
「それより、怜。どうした?」
俺は陸を無視して、この教室を静かにしたであろう犯人の名を呼ぶ。
「詠がお昼忘れていったって、叔母さんが言ってたから持ってきた。」
そう言って、弁当を持つ左手を自身の胸のあたりまで持ち上げる。
「お、マジか!ありがとう!マジで腹減ってたんだよ。そうだ、陸と俺と怜の3人で昼食わね?」
「私は別に構わないけど、陸斗は?」
「もちろん俺もいいぜ!でも、懐かしいなぁ〜。」
3人とも了承してくれた。
俺はお昼が食べれるということに嬉しさを感じる。
ここまでお昼ご飯というものに感謝した覚えは無いと思う。
陸はいつも食べていたメンバーに断りを入れて、怜は自分の弁当を取りに行った。
「そういや陸、お前さ、怜が来た時やっぱりって言ったけど来ることわかってたのか?」
弁当を半分くらいまで平らげた辺りで、俺は先程思った疑問を陸にぶつける。
「あ?そういやお前、早退したもんなー。中学の時にも怜が俺らのクラスに来てみんなの注目の的になってたんだぜ!」
と、箸をおき、理由を述べた。
確かに、と、俺は納得する。
怜は美人だ。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、それに加えクールビューティー。
もはや欠点を探す方が難しいくらいである。
だが、頭脳明晰と言っても、国語は俺の方が上であるし、運動も一部なら彼女よりも上手い自信がある。それに、そもそもその一部というのは俺が教えたものだ。それが彼女より上手くなくてどうしようと言うのか。
と、無駄な対抗心を彼女に抱く。
「にしてもさ、あの時のお前阿呆だろ、弁当がないから早退しますってお前。」
そう言って腹を抱え、笑い始めた。
全くもって彼の言う通りであるが、何か癪に障る。
「いやだって、まさか怜が持ってきてくれるとは思ってなくてさ。今更だけど悪かったな。」
「いいよ。もう過ぎたことだし。詠が体調崩したわけでもなかったしね」
そう言って怜は微笑む。
ちょっとカッコよすぎやしませんかね。
男はおろか、女まで惚れそうなものであった。
「さて、さっさと食って、めいっぱい話そうぜ!久しぶりのこの3人なんだ。」
「そうだな!」
そう言って陸は弁当をかき込む。
俺も彼を倣い、弁当箱を口へと持っていき、かけ込む。
怜はいつの間にか食べ終わっていた。
俺と陸がアホ話に花を咲かせていた時に、食べたのだろうか。
しかし、こんなことをいちいち詮索していては疲れてしまうので、放っておく。
俺と陸が食べ終わった後、俺達は3人で思い出話をしていた。
俺の知らないものや、陸が知らなかったもの、当然のごとく、怜が知らなかったものなど洗いざらいすべて話した。
思い返してみると、当時は真剣だったものが、今になると、バカバカしいの一言である。
そう思っていると、怜がクスクスと笑いながら言った。
「バカバカしいね」
「「ああ、全くだ。」」
その言葉に俺達は同時に返す。
そして、互いを見て笑い合う。
「でも」
と、俺が言い、二人の顔を見る。
2人は先ほどの笑顔のまま、頷く。
「「「楽しかった!」」」
そう言って、今度は3人で顔を合わせ、笑う。
「高校でもよろしくな、2人とも。」
俺は、改めて、2人に言う。
「何を今更。」
「本当。」
そう言って2人は呆れたような表情を見せる。
陸のこの顔は何故かむかつく。
「「もちろん!」」
今度は俺以外の、2人が声を合わせる。
本当に仲がいい証だ。
「さて、教室戻るか。怜、また放課後な。陸、行こうぜ。」
「あぁ、んじゃな怜、また後で。」
「えぇ、またね。」
俺達は自身の教室に向け、歩き出した。
怜とは校舎が真逆なので、ここでお別れとなる。
先程までのだるみや頭にかすかに残っていた痛みも、今は毛ほどもしなかった。
稚拙ですがお楽しみいただけたでしょうか。
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