四日目
今度は上手くいくと思っていたんだ。
たくさんたくさん我慢した。一緒にいたいから、ずっと一緒にいてほしいから。
けれども、だんだん胸のあたりが痛くなる。ジュクジュク膿んで痛いんだ。
だから少しの間我慢を止めた。
そしたら、やっぱり壊れたんだ。
あぁ、みんなはどうしてこんなにも脆いのだ?
白い実験室に響くのは男が俺を罵る声、呪う声、助けを乞う声。口や目鼻から赤い血を流し、白い床に赤い模様を描き出す。
この男の体が、俺の力に耐えられなかったようだ。
彼は今までの候補者よりも長く、共に過ごすことができた。能力使用の時は、今までの奴等よりもより注意を払って使用し、その後の体調の変化を注意深く観察して能力調整を毎回していたからだ。
候補者に求められている事は2つ。1つは能力使用時に必要な分を引き出す制御の役割。もう1つは彼自身支えとなること。
今回の候補者は後者の意味では合格だったようだ。前者の意味において、ある程度までは力の安定化を成し得ていたようだ。しかし彼の力の制御は完全なものではなかったのだ。完全でないが故に風船が膨らみすぎて破裂するように、彼自身で押さえていた力が爆発してしまい、男をダメにしてしまった。
とうとう男は立っていられなくなったようで、膝をつき床に倒れ込む。ヒューヒューと男の呼吸音が部屋に木霊する。
「おい!俺の自信作をよくも壊してくれたな!あーーー、クソ!これで何体目だよ!?ちくしょう、このままじゃ他の奴等が先に出世しちまう!」
スピーカーからヒステリックな声が響く。随分と自信があったようだが、所詮この程度だった。これほど五月蝿いドクターの声を聴く羽目になるのが分かっていたら、我慢などするものか。
俺は特殊強化ガラスのはめ込まれた壁を睨む。その向こう側にはドクター達が記録をとっている。バキッと大きなヒビが入り、怯えるドクターの声が聴こえた。
「いぃ、1198!許可なく能力使うな!」
「マーレイ、何をビビってるのよ。元々1198の能力に耐えられないモノ造ったのがいけないんでしょ。彼は悪くない。」
「うるせえ。あの実験体、受精卵の段階から造ったんだぞ!ここまで成長するのに5年もかかったんだからな。それをたった一週間程度で……。」
「あれで5歳……。もう少し1198に見合う見た目に何で出来なかったのよ………?」
マーレイは項垂れ、女のドクターは呆れているようだ。マーレイの造った男は醜く、30代と言われても信じてしまいそうな容姿だった。遺伝子操作と薬物の影響だと思われる。俺は同じ造られたモノを壊したことに、罪悪感を覚えることはなかった。
先程まで俺を恨んで壊れた男は、呼吸すらしていない。俺よりもあのマーレイとか言う産みの親を憎むべきだ、憎しみの矛先が違う。
「まぁ、壊れたモノはどうでも良いわ。それに丁度良かったかもね。さぁ、1198を檻に戻して頂戴。それから片付けもして!」
「おい、勝手に指示するな。この実験の責任者は俺だぞ。というか丁度良いってどういう意味だ、シンシア。」
「どういうって、ヨアキム博士が直々に造ってた112935を最終フェーズに移すそうよ。」
「マジかよ、あれ大丈夫か?あんなヒョロヒョロ……。」
俺は彼らの会話を最後まで聴くことが出来なかった。兵士が入ってきて移動時の拘束具を俺に着け、部屋から出たからだ。
──ヨアキム博士の作品
とても興味深い
その一言を聞いただけだと言うのに、先刻まで感じていた苛立ちが晴れる。最終フェーズと言っていたところを考えると、同調テストが近いようだ。これで上手くいけば俺の半身候補となる。
一体どんなヤツだろうか?男か?女か?子どもか?大人か?
俺の思考はいつの間にか新しい候補者のことで埋め尽くされる。今までにない感情が押し寄せる。
兵士は不思議に思った、今日のこの化け物は大人しい。何時もなら拘束具の1つや2つ壊れると言うのに。何事もなく、檻に収容することが出来た。兵士は化け物の拘束具を外し、不意に彼の顔を見る。表情はあいもかわらず無表情だったが、錯覚だろうか?
口許が、笑っているように見えたのだった。
すみません、マジすみません。
コイツ(1198)がでしゃばってきて無理矢理書かされました。