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三十四日目

 あれから何度目の昼と夜が過ぎただろうか。

 ガーデンルームで過ごした時間が懐かしく感じるほどだ。

 楽しいひとときを過ごした後、待っていたのは酷く彼女にとって苦しい実験と訓練だった。

 銃やナイフの使い方から始まった訓練は、彼女が怪我をしようとお構いなしに続けられ、両手を包帯だらけにしながら恐ろしい速度で彼女は武器の扱いを体得した。

 それからは多くの時間を俺と繋がりながら兵士や犯罪者を相手に実戦形式の戦闘訓練に割いた。

 能力の使用はある程度制限されていたものの、相手を壊すには十分すぎる程度だった。弱められた力といえどもアリスの負担はそれなりあり、自室に戻れば泥のように眠り前よりも少し多く食事をとっていたが、1・2ヵ月は体重減少が続くということが続いた。繋がりを検知する機械で24時間監視され、ほんの一瞬途絶えただけで罰が与えられる姿は俺にたいしても与えられる博士(あいつら)の罰。いつの間にか俺も、アリスと共に体重減少等身体的変化が現れていた。


 そして気が付く。

 夢の中でも謝り続けるアリスに。

 無数の怨嗟の声と瞳へ。


 そのときから俺は彼女を守るべく少し前に、彼女を隠すように立った。瞳の奥に俺の半身を傷つけ汚す全てに向けた怒りを忍ばせて。


(やった!やった!上手に出来たよアッシュ!)

(凄いよアリス。こんなに綺麗に出来るようになったんだね。)


 キラキラと頬を染めて喜ぶ彼女があまりにも可愛らしくて、思わず頬の筋肉が緩む。それに気をよくしたのか、アリスはもっと嬉しそうだった。

 一級犯罪者と言われる大柄の男を、彼女は兵士が使うナイフで鮮やかに一撃で仕留めたのだ。

 それが嬉しかったのか、俺の頬が緩んだことに喜んだのか、抱きつこうとしてきたので気恥ずかしくて「頬に血が着いている」と服の袖で拭ってやった。


(有り難う……アッシュ)

(アリスのせいじゃない。返り血で君を汚したアレが悪い。)


 気にするなと囁いて抱き締めてやる。そして仕上げに頬を舐めて綺麗にした。

 そうしてやると、少し困った顔で抵抗することなく彼女は受け入れてくれる。困った顔も愛らしいが、訓練の最中でもあるので此処等で止めておくことにした。


(ねぇアッシュ、今日はもう実験も訓練もおしまい?)

(確かそのはずだよ。)


 真偽を確かめるべく清掃中の所員に混じって記録をしていた助手(スタッフ)に視線をやった。

 こちらに気づいた助手(スタッフ)の一人が、怪訝そうな面持ちでこちらに近付いてきた。


「なんだ、AA(ダブルエー)。アレか、反抗か?」

「しません。この後も実験ですか?」


 助手は身に付けていたインカムで確認を取る。すると部屋一杯に女の声が響き渡った。


「アッシュ、アリス、これで実戦形式の訓練と実験は終了よ。人間相手に問題ないことを確認できたから、次の段階に移ります。」

 次の段階という気になる言葉に俺たちは顔を見合せる。

 俺たちは対生物兵器も対人間も経験している。それ以外の内容と言うと、思い当たる事はあるが不確かであるため視線で問いかけてきたアリスに分からないと答えた。

 いまだ何処かとやり取りをしている助手や何処に居るとも分からないシンシアたちの言葉を待った。


(まだかかるのかな?)

(そうだな。)


 あれから10分かそこら経った頃、やっと彼らのやり取りが終わりを迎えたようだった。


「はい……はい……わかりました、失礼します。」


助手(スタッフ)はゆっくりとこちらを向く。


「アッシュ、アリス……マーレイ博士がお呼びだ。ついて来い。」


 何事か?

 俺たちはお互いの顔を見合せ、疑問符を頭上に浮かべた。




「良い顔をするようになってきたな……。そうだ、守らなければ、お前の全ては彼女なのだから。傷つけられるのは体だけではない……、心も……、そして見えぬ穢れ……意識・無意識に関係なく投げつけられる悪意(・・)。」


 薄暗い通路を一人の男が進む。灰色の髪をかきあげて、人間味の欠片もない優しい濃藍(こいあい)の瞳を眼鏡の向こう側に覗かせる。

 誰もすれ違うことのない道の奥、彼は厳重なその扉をその瞳と愛する番号を使ってくぐり抜けた。

 彼は吐き出した息が白く色付くことも構わず部屋の奥へと進む。白い光が天上の光のようにソレを照らし出した。

 アクリルのような透明な板の中に密閉された黒髪の美しい女性は、さながら囚われの女神か聖女の如く其処にいた。


「ただいま、愛しいおまえ。久しぶりにあの子たちの姿を見たよ。あの娘は幼い頃の君によく似て綺麗になっていた。」


 いとおしげに触れながら、誰も見たことのない表情を湛えて語りかける。答えなどかえってこないことなど分かっていながら。


「それにな……アレも近頃、あの娘が変わって自覚を持つようになったみたいだ。」


 足先から触れていったその指は、顔の輪郭を撫で薄紅色の柔らかであろう唇を撫でた。


「あぁ……もう少ししたらずっと一緒にいられる。もう少し、もう少しの辛抱だ。」


 彼は眼を閉じて冷たい口づけを彼女に贈る。彼を見つめる彼女の金の眼は、くすんで光が宿っていなかったのだった。

ヤバイですよね、研究所のひとたち。

マトモな人っているんですかね?


(業務連絡)

ふぅー、師走ってほんとに忙しいですねぇ。

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