表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
みんなと出会う
33/45

三十一日目

「Tから秘匿回線で緊急報告が入りました。」

「ほー?」

「例の子どもがロシアナ国に行くそうです。」

「試作段階でさえ見せていないと聞いているが……。よりによって、ロシアナ国と売買を始める気か?」

「いいえ、どうやら訓練の一貫だそうですが、ロシアナ国にも知らせていないそうです。デモンストレーションでは無いらしいですが……。」

「あの研究所が秘匿し続けた新作だろうに……、警戒を最高クラスに上げろ。ロシアナ国政府内の観察も最大にだ。」

「畏まりました。」





「あらぁーん、皆集まって楽しそうねぇ?」


 甘ったるい聞き覚えのある声が私達を刺激する。ツキンと眼の奥に痛みが走ると、視界に一瞬ナニカが映る。

 両の手の内にある顔、絶望と死に塗り潰された……眼?


「あらん?いくら私が美しいからって見とれてちゃダメよぉ?」


 気がつくと、女のような男の顔が眼と鼻の先にあった。驚きのあまりキャッ!?と変な声が出てしまう(実際は音など出ていないが……)。その人物……レスター博士の瞳は先程の映像と違い、得体の知れない狂気を飼っていた。

 間近で見た彼の狂気に酷い嫌悪感に襲われて、反射的に顔を背ける。そのすぐ後にゆっくりと男は顔を離すと、眉間にシワを寄せ明らかに不快な表情をきざんでいた。


「何よこの子、失礼ね……。」


 この小さな彼の呟きは、私に投げ掛けられたもの。私はアッシュの腕にすがりついて、少し背後にまわる。アッシュはそんな私を守るかのように、私の前に少し出る。

 チラリと見たその横顔は無表情だった。そう、とても冷たい無表情。

 その姿に腹立たしく感じた彼は「さぁ行くわよ」と言い、バルドルとバーナビーを連れてガーデンを後にした。

 バルドルとバーナビーは困った顔で、繋がれた手とは逆の空いた手で別れの挨拶をこちらにしてくれた。


「ナニナニ、アリスちゃんたちレスター博士と何かあったのですか?あ!もしかして!?」

「ダメだよエリー、それ以上は。」


 恐らくL1の一件の事を言いたいのだろう。しかし、それ以上の言葉はエコーの制止より聞くことが出来なかった。

 ただの実験でこんな嫌悪感を抱くのだろうか?わからない。


「アリスさん、そんなに悩んでは行けませんよ。いつか全てすっかりスッキリするのですから。」

(すっかりスッキリ……?)

「ローザ、なんだか言葉がおかしいわ。」

「あら、そうかしら?フフフ。つまりアッシュと一緒ならきっとわかるわ。その気持ちの原因も、夢も、全て。」


ーーーー?

 彼女の言っている意味が分からないが、アッシュと一緒ならどんなことでも大丈夫と言いたいのかな?

 くしゃりと優しい手が私の頭を撫でる。アッシュの手だ。その手によって、緊張の糸がゆるゆるとほぐれていくのがわかる。魔法のような力だ。

 私だけの特権、どんなに親しい人でもこれは誰にもして欲しくない。

 アッシュの優しさを満喫していると、別の博士(ドクター)がやってくる。彼女はエコーとエリーに二言三言話をすると、彼らの手をとりガーデンをあとにした。


「それではごきげんよう、ローザねぇさまオランさんにアリスちゃん!あと、アッシュも。」

「それじゃぁまた。」


 帰り際の元気な彼らの言葉。本当にキラキラだなぁ。見送る私の視線の先にこちらに向かってくる、アクビをして面倒くさそうな態度の男がのっそりのっそりやってくる。

 羽織っている白衣は何故か赤い染みが幾つも出来ていた。

 私達をガーデン(ここ)で遊ばせている間に実験でもしていたのだろう。せめて着替えるなりして欲しかったが、そんな事を言った日にはきっと酷い罰を受けるだろう。


(本当にマーレイはだらしがないな。)

(ーー!?う、うん。)


 思考が、思考がアッシュに漏れてしまった。虚をつかれて動揺する私は、落ち着こうと深く呼吸をする。

 気を付けないと思考がアッシュと共有されてしまうことを思い出す。便利だが、ある意味不便なお互いの力に少し落ち込む。私にだってプライバシーがあってもいいはずだ。


「おっすー、お前ら楽しめたか~?おぉ?タイプSのローザじゃねぇか。それにオランもいるのか。」


 珍し~と、二人のお姉さんを頭を掻きながらまじまじと眺める。

 二人は会釈すると、暫くぶりにオランが帰還した事を話し「それじゃぁね」と帰っていった。

 ローザお姉さんもオランお姉さんも不思議な人だなぁ、と思った。


「収容の時間ですか?」

「そうだ、部屋に戻る時間だ。今日はもう訓練も実験もないから、戻ったら食事と就寝だ。おつかれ。」


 私達はマーレイ博士の後をついて帰路につく。道中は相変わらず灰色の長い長い通路だったが、行きとは違う道順のような気がした。


(ねぇアッシュ、行きと通路が違うような気がするのだけど……?)

(良く気付いたね。通常は同じ道で帰るけど、時たま行きと帰りで違う道を通る事がある。そんな時は大抵侵入者か脱走かだな。)

(マーレイの白衣の血と関係あるのかな?脱走した実験体(モルモット)を殺したとか?)

(さぁ?聞いても教えてくれないと思うよ。)


 確かに、実験や訓練の指示内容では無い以上、私達が知るべき内容ではない。

 それに私達には関係ないのだ。


 今日のご飯は何かな?寝る前にまた頭を撫でてもらおう。

 そんな事ばかり考えながら、帰り路をゆっくりと行くのだった。

やっとガーデン編終了

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ