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三日目

 白い空間に1人ポツンと立っている。これが所謂死期の世界と言うヤツだろうか?随分と寂しい世界だ。あの薄暗く汚い牢獄よりかは幾分ましではあるが──足りない。何かが物足りなく、寂しさが心を撫でる。

「幾つかの過程をクリアした君は、果たして新たな段階に移ることが出来るか?さぁ、私の作品を完璧なものにして見せろ。」

 背後から突然の声──

 手術着に身を包む人々、いつの間にか手術台に乗せられている。照明が眩しく彼らの顔を見ることが出来ないが、銀に光る道具が私に向かっておろされるのが分かったその瞬間、腹部に鋭い痛みが走りグチャリと湿った音が耳に届く。


 ──!!!


 気がつくと、私は絶叫していた。自らの叫び声で目覚めたのだ、過去の私が叫ぶ声に。呼吸は荒く、酷く冷えるのに汗が滴るのがわかる。

(ここ……は?ゆ……め…?私は一体どうしたと言うの?)

「ダイジョブ?」

 女の声がした、若い女の声。私にかけられた言葉のようだが、カタコトの日本語だ。

「生キテル、貴女。ズット寝テタ。何処カ痛イカ?」

(……誰?)

 起き上がり、若い女の方を見る。同時に視界に入ったのは、良く見知った裸電球と薄暗く汚い部屋。気を失う前と変わらない場所だったが、其処に居る人間は随分と入れ替わっているようだ。何時間か幾日か、どれくらい経ったのか分からない。

 私は話をしようと口を動かすが、発声の為の機能を失っていたのを直ぐに思い出し、口を閉ざし俯いた。

「voice出ナイ?」若い女が尋ねる。

 私は首を縦に振り、肯定の意を伝える。そして彼女を指差し、何者なのかを尋ねた。

「ワタシ、Isabel。アニメ見ル好キデス。ダカラ少シJapanese話ス。貴女ニッポンジン聞イテル。David聞イタ。ヨロシク、ハル。」

(デービット?)

 私は首を傾げる。

「ニッポンジン男一緒ノAmerican。今居ナイ。サッキ男タチツレテッタ。ニッポンジン男、朝死ンダ。貴女ココ、ナニカ知ッテイル?」

(私も知りたいくらいよ。)

 私は溜め息をつき、首を横に振る。覚えていることは気を失う前の手術室の光景と移動時の通路、兵士とドクターに話をした日本人の男と白人の二人だけだ。ソウデスカ……とイサベルは項垂れた。

「ハル、ココ長イ居ル、Japanese男ヨリモ。David言ウ。ワタシココデタイ。I never want to die.」

 最後の英語の時にはイサベルの声は震え、鼻をすすり涙を拭っていた。

 可哀想に、彼女はまだ連れてこられて幾日も経っていないのだろう。この異常な場所からの脱出を求めているようだ。いずれ私のように、それは春の夜の夢のごとく儚い希望であることに気付くであろう。

(─私のように?)

 私は自分の思考に違和感を覚えた。まるで彼女よりも長く此所に捕らえられているか人間の思考に似ているのだ。あの白人の男も日本人も此所も手術室から此所に連れてこられて初めて知ったのに。しかしながら、今しがた彼女は私が日本人の男よりも長く居ると言っていた。

 では、私は一体何時此所に来たと言うのだ?

(そう言えば、イサベルが私のことハルって言ってたわね。あの日本人も私をハルと呼んでいた。──あれ?私の名前はナニ?)

 私の感じた違和感は、自らの身に起きた異変へと姿を変える。相変わらずイサベルは泣いているようなので、私は自分の異変について考えることにした。

(まず、私は自分の名前を覚えていない。思い出そうとしてもここに来るとき、少なくともあの手術室から此所に来る以前の記憶が全く無い。)

 ふと、私は自分の姿を確認した。鏡がないため顔など見ることが出来ないが、顔に触れ体に触れ目視では分からない変化も確認する。

 頬にはガーゼ、額や胴体・両手足には包帯。蹴られた場所の包帯は薄紅色に染まっていなかった。衣服も身体の汚れも、他者に比べてそれほど無い。胴体と喉の部分に直線的な傷のようなモノがあるのが分かったが、それほど痛みもない。

(声が出ないのはこの喉の傷が原因……。胴体の傷については分からない。蹴られた時の血のシミが包帯に無い、と言うことは交換されている。汚れ具合で見るとつい最近ってとこかしら。記憶が全く無い原因は……わかんない。)

 確認を終えると、今一度周囲を見渡してみる。寝転んでいる者、壁にもたれている者、何かを呟き続ける者、壁に額を打ち続けている者、泣き続けている者、肉体の一部が欠落している、又は変異している者。痩せ細っている者もいれば酷く太っている者もいる。

(こんな場所に居たら、私の名前がハルだって言うのも怪しいものね。というか、こういう風に考えれる私もある意味……異常か。)

 考えていると、遠くから扉の音がする。誰か戻ってきたのか、連れてこられたようだ。そして部屋に姿を表したのは──両手を拘束され奇声を発する虚ろな瞳の白人。イサベルの言っていたアメリカ人だ。

「Daved!!!」

 イサベルは鉄格子に勢い良く近づいた。彼女は鉄格子を激しく揺らし彼の名前を何度も叫ぶ。

(いけない、このままでは──)

 そう思った矢先、乾いた発砲音が部屋に木霊した。ドサリと重たいものが倒れる。彼女が──イサベルが撃たれたのだ。デービットを連れてきた兵士の1人によって。

「五月蝿い、実験体(モルモット)の分際でわめくな。おい、オマエも早く入れこのグズ。」

 鉄格子の扉が開けられると、デービットは小銃の銃床部分で殴られ入れられる。それでも彼は奇声をあげて、まるで痛みなど感じていないように牢の中をフラフラしているのだった。

「おい、キサマ」

 別の兵士に呼ばれる。私のことを呼んでいるのかと首を傾げると、オマエの事だと兵士は言った。

「来い、オマエのメディカルチェックだ。」

 私は大人しく牢を出ると両手を後ろ手に拘束された。兵士が牢の扉を閉めると私の周囲を囲み、部屋を出る。部屋を出る瞬間、チラリと振り返りイサベルの姿を見た。彼女は撃たれた痛みに呻き、服は血に染まっている。

──彼女の命はもう長くない。

そんな事を思いながら私は兵士達と部屋を後にしたのだった。

平日の投下は厳しいのです。

休日に投下頑張ります。

早く彼女を獣君と会わせてあげたいです。

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