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離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
みんなと出会う
28/45

番外

今回は本編ではない番外を

リハビリ

また失敗だ


 いったい何度この言葉を呟いたか?

 数えるのが億劫になってきて、いい加減記録するのも止めたいところだが、職業上それは許されない。

 最近は決め台詞的な扱いだ。

 正確な記録を取り、原因の考察と検証・次の一手を考え報告書に纏める。

 上司に報告するためだ。

「さてと……」

 画面の壁紙に映るのは女……と、肩を抱いて微笑む俺。

 一見すると仲睦まじい恋人か、はたまた夫婦か?

 そんなことはどうでも良い。

 ショートカットから実験報告書作成画面を立ち上げ、何時ものようにカタカタと慣れた手つきで入力していく。

 もはや定型文化しているかのような起承転結、違うのは材料と機材、そして反応。

 報告書の4分の1を作るのにものの二時間費やせば良い。

 赴任当初は大学の論文ヨロシク、1つの実験結果に数日をようして作成したものだ。

 今では上司が必要としている情報を要点を簡潔に纏め、数ページにして提出すれば良い。

 何処をみているのか、何に関心があるのか?

 今まで渡り歩いてきた職場の上司たちの中でも、今の上司は判断するのに大分かかった。だがお陰で、この地位を手に入れることが出来たから良しとする。

 しかしながら、今もなお彼が何を考えているのか、どうしようとしているのか分からないままだ。


「さてと……」

 ここら辺で一旦休憩を挟む。

 保存と終了をして微笑む男女の姿が再び現れたのを確認すると、コーヒーを淹れに行く。

 研究所(ここ)は出世をすれば様々な特典が得られる、上に行けば行くほどに。

 外ではあまり口に出来ない生鮮食品、よい素材仕立てた衣服、そして今俺が口にしようとしているこのコーヒー……そう、嗜好品。

 それらが全て、何の努力なく望めば手にはいる。

 そして、実験に必要な様々な機材に実験体(モルモット)と呼ばれている動植物から……人間まで。

 本当に、研究所は一体なんなんだよ。

「あらゆる境界を越えて………。」

 ふと、俺の面接を担当した人物が言っていた言葉を思い出す。

 まさしくその通りなのだ研究所は。

 性別も年齢も人種も国家も信条も法も倫理も、全てを飲み込み越えて欲しいものを手に入れ、欲望のおもむくままに知恵と知識を振るい破壊する。

 何処ぞの国は「人種のサラダボール」などと言われているが、研究所はそんなお洒落な形容が出来る場所じゃない。

「さてと、続き続き。」

 淹れたてのコーヒーの薫りが、意識を戻してくれる。

 今はこの報告書を完成させて、上司に持っていかなくては。同僚に先を越されてしまうと、俺にとって色々問題が生じる。

 デスクに「俺専用」とプリントされたマグカップを置いて、入力を再開した。


 報告書が出来上がったのは日付が変わる少し前だった。

 すぐさま帰宅の準備を整えて、部屋を出る。

 働く者しかわからないであろう、研究所内を足早に進む。今でこそ最短距離で移動することが出来るが、迷うことなく目的地にたどり着くようになるまで、一ヶ月かかった。

 この俺が、だ。

「お疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ様。早く帰れよ。」

 すれ違う所員たちと短く挨拶を交わす。何時になっても誰かしら必ずいるものだ。

 幾つ目かの扉を抜ける。

 プシューっとエアロックが解除され、冷たい風が全身を包み込んだ。

「あー、寒くなってきたなぁ。」

 もうすぐ冬か、そんなことを考えながら外に出る。

 といっても、外も研究所内の敷地。居住地区に続く道は街頭に照らされ、闇夜に迷うことはない。

 どれも同じ外観の建物群が見えてきた。与えられた数字の住居に向かう。

 玄関扉を開けようとするが、ふいに夜空を見上げた。

 無数の星ぼしに見つめられていた。月は相変わらず、全てを明るみにすべく照らしている。

「それは……俺の役目だ。」

 呟きは夜に吸われて消えていく。背後を一瞥して外よりも暗い場所へ入っていった。


 スイッチを入れると、散乱する本と書類の中にベッドとパソコンの乗った机と椅子があった。

 荷物とコートを適当に投げ置くと、画面に向かう。

 胸元から銀に輝くソレを取り出すと、側面に差し、ほんの少し入力する。すると微笑む男女が写し出された画面が、僅かなノイズと共に切り替わった。

「あー、急かすなよ全く。」

 ポップアップされた何かの文書とおぼしきウィンドウが開かれる。

 溜め息をつきながら返信を出すと、本来の業務を俺は始めた。

「新型生物兵器の納入確認。我が国が中止の要請を出していた国を含む3国が量産型の購入契約を結ぶ。要注意人物の博士は連日外出。……ここら辺を報告するか。」

 中でも気になるのは博士のここ最近の行動だ。

熱心だった双子(タイプツイン)の研究が、誕生間近で片方の死亡により失敗。

 それ以来専用研究棟に引きこもっていた筈だった。それが今になって連日の外出、外泊。

 本国(ホーム)は新型兵器と納入先なんかに気がいっているようだが、真に注視すべきは彼なのだ。

 俺の長年の勘がそう強く告げている。

 作成した報告書が完成したのは丑三つ時を過ぎたころ。


 そろそろ休もう。

 部屋の明かりが落とされて、青白く光る画面はよりはっきりと映しだす。

 白い菊の花と黒髪の女から、微笑む男女の姿へと変わる様子を。

 そして、静寂の夜が広がるのだった。

えぇ、間が随分空いてますのでリハビリ兼ねてます。

暫くは不定期です。

申し訳ありません。

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