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離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
みんなと出会う
25/45

二十五日目

強く願えばきっと叶う

誰がそんな事を言い出したのか

どれだけ強く願っても

私の願いは叶わない



(うわぁー、綺麗!!)

 マーレイ博士に案内された部屋は、ガラス張りの青い空と植物に囲まれた、広い広い箱庭。

 研究所内で一体誰がこんなに美しい場所があると想像できよう?

 この空間に不釣り合いな監視役の兵士が居ること以外を除いては……だが、うっとりと周囲の美しさに見とれてしまう。

 昔感じた風の匂いや感触さえ感じられ、木々の葉擦れと鳥の(さえず)りが穏やかな雰囲気を作り出している。

遠くの方では子ども達の声が賑やかに響いていていた。無機質な世界で過ごす苦痛を癒すことが出来そうだ。

「迎えに来るまで自由に過ごして良いぞ。」

 そうマーレイ博士は言い残し、ガーデンから出ていった。

しかし私は、この広い空間で自由に過ごせと言われてもどうしたら良いか分からなかった。

 どう過ごそうかとアッシュを見やると、彼は見てごらん、とある場所を指差す。大きな木の側に、木製の長椅子と本の詰まった背の低い本棚があった。

 素敵な場所で読書をするのも良いかもしれない。


(彼処で読書するの、気持ちが良いかも。)

「あぁ、とても気持ちが良いよ。彼処で過ごそう。」

 彼のお気に入りの場所なのかもしれない。共に過ごすことが出来る時間と、新たな彼の好みを知ることが出来てとても嬉しい。

 軽やかな足取りでソコに行く。口角が自然と上がるのが自分でも分かった。

 本棚を改めて見ると、背表紙には小難しい表題が多く並んでいる。その中でも数少ない文学の本を選び読むことのした。

 隣で読書する彼の本を盗み見ると、脳科学とナンチャラと専門用語で書かれていた。賢いアッシュに相応しい読み物だと思う。

アッシュに話しかけることなく、私は本を読み出す。

 迷子の小さな子猫が母猫と再会する物語。とても面白く、共感できる内容が多くていつの間にかのめり込むように読んでいた。

「あー!みてみてバル!この前の眠り姫だぁ。」


 誰かが駆け寄る音がする。

 しかし私は気にすること無く本を読む。いや、眠り姫と言う単語は気になるが、物語の続きが気になるので無視をする。

「おー、確かにこの前の可愛娘ちゃんだな。てかバーナビーそれ以上近付くなよ、アッシュの目が怖い。」

「俺の目が何だって?」

 私の腰にアッシュの手が添えられ、引き寄せられる。彼の吐息が顔の近くで感じられ、恥ずかしい。

 アッシュの視線の先には、良く似た顔の青年が二人立っていた。

 バーナビーと呼ばれた大人しそうな青年はおろおろしている。バルと呼ばれたわんぱくそうな青年は、ひきつった笑顔を張り付けていた。

(アッシュ、知り合い?)

(生意気な方がバルドル、自信なさげの方がバーナビー。俺たちと同じタイプTで、親はフェイ博士だ。)

(へー、違う博士も作ってたんだね。何だか仲間に会えたみたいで嬉しい。)

 今のところ、量産型の機械とよく分からない実験体と接するばかりの毎日だ。自分たちと同じ様な存在と出会うこと自体、今のアリスにとって実に稀なことだった。


 コミュニケーションをとろうと試みる。

 筆談に必要な道具が無いので、手話で会話をするか?いや、相手が理解できるかわからない。

 では、接触して思考を伝えてみるか?それではアッシュが怒って彼らを傷つけてしまうだろう。

 諦めてアッシュに通訳を頼むことにした。

(アッシュ、彼らとお話ししてみたい。)

「しなくていい。」

「あ?何が"しなくていい"だって?」

 アッシュが珍しく感情的になっているように思う。脳内会話を忘れて口に出してしまい、バルドルの目がとても怖い。売り言葉に買い言葉、二人は睨み合い交わされる言葉は段々キツくなっていく。

「二人とも、落ち着いてよ(汗)なんで何時もこうなるの?」

(アッシュ、喧嘩はダメだよ!)

「アイツが変なこと言ってるからだ!」

「俺はアリスに仲良くする必要は無い、と言っただけだ。」

 今にも取っ組み合いが起こりそうな状況だ。いや、実際そんな事が起こったら普通の人の喧嘩レベルの問題でなくなる。

 その前にアッシュのその考えはどうかと思う。

(アッシュの方が今回は悪いと思う……。)

「…………わかったよ。」

 珍しくアッシュはシュンとした。私が味方しなかったことに悲しんでいるように思える。

 少しの罪悪感を感じたが、この研究所内で色々言い合えそうな存在は貴重だ。大切にする必要がある。


「バルドル、バーナビー、彼女が俺の半身アリスだ。能力は接触感応(サイコメトリー)と能力安定化。」

「俺はバルドル、能力は肉体強化系だ。体術ならアッシュに負けねぇよ。」

「ぼっぼくはバーナビー、初めましてアリスちゃん。僕の能力は超感覚(センサリティ)だよ。」

 私たちは和やかに紹介し合う。

 彼らに出会うことで少し分かったことがあった。タイプTはお互いを補い合うような能力を持っているのかもしれない。

 私がアッシュの力を安定させるように。


 いつの間にか本を読むことを忘れ、他愛もないことで話が盛り上がった。

 こんな会話が出来る日が来るなんて思いもしなかった。アッシュは年頃の人が友達同士言い合っているようで、私の知らない一面が見れて何だか嬉しい。


 きっと外で生きていくことが出来るだろう。

ほのぼのー。

嬉しいなぁ。

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