二十三日日
3th/May/2063
ここ最近のボス変だ
あんなチビを後生大事に手元に置いてる
ボスはナイスバディの良い匂いがする大人の女が好みなのによ
ぜってー、ロリコンじゃねぇって……たぶん
カタリのジョニーが言ってた"カネヅル"の噂はホントウかもしれねぇ。
〈誘拐犯の日記より〉
私は手術台の上で目が覚めた。以前のように拘束されてはおらず、上体を起こして周りを確認しようとした。
──いっつう。
こめかみに鋭い痛みを感じ、周囲の景色が眩しく目を細める。追い討ちをかけるように幻聴が聴こえてきた。
困ったヤツだ。何故必要の無いことを思い出す?
──ム博士、準備が整いました。
あぁ、始めろ
腕に痛みを感じた後、細くて柔らかな手が私の額を撫でた。
「ゴメンネ」
その言葉だけがハッキリと私の耳に届いた。
再び目が覚めると、見覚えのある顔が間近にあった。能力使用で疲れたのか、いつの間にか眠っていたようだ。
(アッシュ……?)
彼は不安と喜びが混じり合う複雑な顔をしている。起き上がるとズキンと頭が痛んで、倒れ込むように彼の腕の中に入る。
「アリス……。」
彼の優しい温もりに、痛みなど忘れてしまいそうだ。無駄のない締まった胸に耳をつけ、彼の心音を楽しむ。
(おはよう、アッシュ。)
「おはよう、アリス」
(L1は?)
「やっつけたよ。」
腕の中の私を優しく撫でながら、アッシュは穏やかな声で答えてくれた。
無事に実験が成功したようで、安心する。この結果、アリスの性能が証明された。これで互いが引き離される訓練や実験の回数が減り、アッシュの側に長く居られる、そう私は喜んでいた。
「アリス、約束覚えてる?」
(やくそく?)
アッシュが不意に不思議な質問をしてきた。心音を楽しむのを止め、彼の顔を見る。そこには真剣な眼差しがあった。
(うん、覚えてるよ!私たちは二人で一人、どんなことがあっても離れない。今までも、これからも……でしょ?)
「……そう、だね。」
まっすぐに答えた私へ、驚き衝撃を受けたかのような反応が帰ってきた。彼の表情は驚きの表情からクシャリと顔を歪め、苦しそうな悔しそうな表情をした。キツく私を抱きしめ、ごめんと一言呟いた。
(何で謝るの?)
優しい声音で尋ねると、震える声が真横から聞こえた。
「もっと……強くなる。アリスを全てから守れるようになる。俺が約束を引き継ぐよ」
震える声は決意を語る。私たちは幼い頃から一緒にいるはずなのに、引き継ぐとはどういうことだろう?
研究所で誰かと約束をした覚えはない。私はドクターやスタッフたち、アッシュしか知らない。それに私は声がでないので、アッシュが通訳をしないかぎり私の意思が伝わるのは稀だ。だから必然的にアッシュとしか会話をすることがない。そんな自分に一体誰が約束をするのだ?
(変なアッシュ、私アッシュとしか話さないのに。)
「あぁ、そうかもしれない。おかしいね、俺。」
腕から解放され、ようやく彼の顔を見ることができた。温かな彼の温もりが冷めていくことに名残惜しさを感じる。
それを彼は察知したのか、頬や頭を撫でてくれた。暫くの間そうしていると、部屋の扉が開く。
「よぉ、相変わらずイチャイチャしてるな~。」
茶化した口調でマーレイ博士がきた。検査かなにかだろうか?ベッドに座る私たちに近くと、私を一瞥してアッシュに話し出す。
「実験成功のお印をヨアキム博士からいただいた。今日からアリスもガーデンに行って良いそうだ。よかったなぁ、アッシュ。」
今から行くか?と誘われたので、アッシュに行く旨を伝える。彼は一つ頷くと、立ち上がり私の手をひく。
マーレイ博士の先導もと、手を携えて私たちは行く。道中ガーデンについて質問すると、彼は優しい笑顔を向けて答えてくれた。
腕から解放され一瞬見えたあの苦しそうな顔は、きっと気のせいなのだ。
ガーデンに行きたい。みんなと絡ませたい。
体調不良で動けず、投下遅れました。




