二日目
寒い、寒い……どうして寒いのだ?住環境は全自動で完璧に制御されているのに、何でこんなにも寒いのだ?
渇く、渇く……何故こんなにも渇くのだ?毎日必要な水分は得ているのに、何でこんなにも渇くのだ?
腹が減った、腹が減った………どうしてこんなにも腹が減る?毎日必要な食事を得ているのに、何でこんなにも腹が減る?
白い部屋、窓はない。簡易ベットとトイレ、監視カメラがあるだけ。俺のすべて。寒くもなく、暑くもない。俺が知る世界。彼は何もない空間を無気力に見つめる、その目は死んだ魚のよう。
ドクター達は俺の全てを観察している。物心付いた頃からそうだった。だから慣れている、何時ものことだ。ドクターが知らないヤツをこの部屋につれてくる。老若男女、人種問わずつれてきて俺の半身に据えようとしているようだ。訓練や実験の時にドクター達は言っていた。
「ヨアキム博士は本当にタイプTとして造ったのか……?タイプSでも十分……いや、ソレ以上の性能だ。」
「コレは我々が追い求めていたモノだ!すばらしい!やはりヨアキム博士は天才だ!」
俺はドクター達が造り出したモノ。破壊のための獣。俺にとって日頃の訓練も、性能チェックも実験もたいしたことじゃない。要求どおり、屈強な特殊部隊所属の兵士が受ける過酷な訓練より更に上の訓練をこなし、時には本物の武器で……其々が持つ特殊な力で、他の子ども達を壊していた。知識の学習訓練だってもうドクター達と変わらないレベルの内容だ。
訓練は……何時も生きるか死ぬか、弱いヤツは死ぬしかない。俺は一人でも十分なのに、タイプSにもタイプTにも他の博士が造った奴等にも勝ってきたのに、俺を造ったヨアキム博士は欠陥品だと言う。
「知能も肉体の性能も素晴らしいのだがな……やはり半身が居なければ能力を安定させることが出来ない様だ。このままでは崩壊して使い物にならなくなる。やはりバニシングツインを起こした段階で処分すべきだったか。」
時折、俺は力を暴走させる。他の奴等よりも強いためドクター達も兵士達も俺を止めることが出来ない。だから生まれる前に処分する以外、俺を殺すことが出来ないのだ。
本来双子で生まれるはずの彼は、片割れを食っている為半身が居ない。安定の為の半身はタイプTには不可欠。実際に彼以外の子ども達は暴走することもなく、力の波も一定で安定的に実験でも訓練でも記録されている。実戦運用することを考えるならば、不安定なモノ程使用者にとって危険なものは無いのだ。だからドクター達は半身候補を彼に連れてくるのだが……全部駄目だったのだ。
ある者は精神を汚染され
ある者は肉体が朽ち
ある者は穴と言う穴から血液を流し
ある者は彼の手で
死んでいった。
彼と相対するものは皆壊れていく。いつしか彼はこの檻のなかで最も強い獣とされるようになった。
そして──
「今度のはドレクライモツノカナ──?」
生まれる前に食い殺した半身の呪いか、はてまた強すぎる力のせいなのか、彼の心は精神は蝕まれているようだ。
粗悪なベットはギシリと音を立て倒れ込む彼を冷たく受けとめる。
寒い……寒い……
お願い
誰か俺を
温めて
──俺だけを
獣は願うように、祈るように目を閉じ血と臓物の温もりとは違う温もりを明日に求め眠りの底に沈んだ。
ヤンデレ獣に俺はなる!
サクッと読めるサイズしか書けないようです。