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離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
共同生活のはじまり
16/45

十六日目

わたしはね

この実験体があまりにも寂しそうだったから、離れなくて済むように一緒にしてあげたのよ。

それなのに、生みの親を裏切って暴れるなんてね。

お気に入りのマーレイとのツーショット写真が溶けちゃったじゃない。

あんたなんて、もう処分よ。




「アッシュ、先にいっておくが今回の運用実験はアリスにとってかなり辛いものになるかもしれない。」

 第1ブロックのミーティングルームにアリス達よりも早く到着した。俺を連れてきたマーレイは、着いて早々険しい表情で告げる。何時も飄々とした彼がいつになく真面目に見えた。

「何を急に……。俺たちは戦うためにつくられた怪物です。それにアリスが辛いなら、なおのこと排除するために戦います。」

「いや、そうなんだが……、とりあえず精神安定剤打っとくか?」

 目が赤くなってるぞ?と、指摘される。一部鏡面加工された壁面をみると、俺の瞳は赤い色に変わっていた。拘束が外されて精神が興奮状態にあると、瞳の色が変わることがある。この状態で能力を使用すれば確実に暴走する。彼はそれを恐れて言ったのだろうが、俺もそれは良くわかっている。押さえているのだから、気が散るようなことをして欲しくない。早く早く、アリスに会いたい。

 マーレイは頭を掻きながら、アリスたちが到着するまで他のスタッフと共に情報収集と整理にあたっていた。

(アッシュ!良かった無事で!何処にいたの?大丈夫だった?酷いことされてない?)

 暫くすると、待ちわびた彼女がシンシアたちとやって来た。アリスは俺を姿を見つけると、嬉しそうに俺の元へ駆け寄る。

「アリス。あぁ落ち着いて、俺は大丈夫だから。」

 俺は彼女の左手を握り引き寄せる。彼女と共に過ごす内に習慣化された行為。例え彼女が戻るまでと言われても、片時も互いが視界に無い状態など地獄以外何者でもない。離れる必要がある時以外、互いに触れあっていなければ俺は落ち着かない。

 エコーたちが起こしたこの一件のお陰で、俺は狂わずに済む。心なしか、アリスも安心しているように見えた。

「もしもーし、俺ら居ること忘れんなよー。」

 俺たちが見つめ合っていると、見かねたようにマーレイが邪魔をしてくる。

(ごごごごめんなさい、マーレイ博士)

「謝る必要ないよアリス、博士邪魔しないでください。」

「いやいや、これからお前ら運用実験だからな?アリスの初めての実戦テストだからな?今からブリーフィングやるんだから邪魔も何もないからな?俺、お前らの管理者の一人。わかってる?て言うかアッシュ、アリスの通訳してもらわなきゃ俺ら分かんないんだからちゃんとやれよ。」

 言われなくても、必要があればアリスの意見を伝えている。俺にとってアリスと会えれば試作体の脱走など、どうでも良いのだ。俺たちみたいな化け物相手でも、鎮圧出来るように訓練を受けているソコの兵士たちに任せておけば良いのだ。

 そんな考えが浮かんできたが、当初の目的──アリスと二人で成果を出して状況を変え、二人でいられる時間を増やす為に行動することにした。

「それではブリーフィングを始めます。現在試作体L1を第5ブロック屋内中規模実験室へ閉じ込める事に成功しました。20分前に室内に神経毒ガスを散布、L1の活動が低下しています。効果時間はあと30分程度と思われます。」

「実験室周辺の状況と被害状況はどんなだ?」

「区域担当の部隊員殉職三名、重症二名、軽症五名です。レスター博士とスタッフ二名は無事の確認がとれています。現在、第5ブロック隔壁閉鎖をした状態で全員第4ブロックに避難が完了しています。しかしながら第5ブロックはL1の体液汚染と建造物損傷が激しく、部隊では近づけません。またL1の活動が再開されれば第4ブロックに侵入されるでしょう。兵の弾薬も少ないとの情報が入っていますので、かなり危険かと。」

「討伐はアッシュたちの任務ですが、ドクター(わたし)の権限で第5ブロックの状況を、モニターと実験データを記録出来るよう手配しましょう。……L1の情報が少ない状態ですね。第4ブロックのレスター博士に連絡を取れますか?」

「いや、連絡しな──」

「今繋げます!」

 聞いている限り、随分と暴れる制御のきかないヤツのようだ。通常であれば、安全装置が働いて実験体は死ぬはずなのだが、それを越える肉体を持っているのか……考えたくないが、エコーとエリーがそれさえ無効化させてしまった可能性もある。

 詳しい情報を得るため、試作体の創造主たるレスター博士に連絡をとる。マーレイが慌てていようと関係はない。少しの砂荒らすの後、繋がる。

「メーデーメーデー!!誰か、誰か応答してよ!おねがーい!」

 至近距離の男の顔がうつしだされた。隣のアリスが驚く。俺は空いた左手で彼女の頭を撫でて落ち着かせた。

「少し落ち着いたらどうですか?レスター博士……。」

シンシアが呆れた様子で答える。

「きゃぁー!!やったわよ、貴方たち!通信が繋がったわ。これは……第1ブロックのミーティングルーム?………まぁ、マーレイ博士じゃない!やっぱり私の事心配して助けに来てくれたのね!」

 喜びを爆発させ、五月蝿いくらい大きな声で喋る。余りの声量でマイクの音が割れて耳が痛い。

「だーかーらー、私もいますって!落ち着いて少し声のボリューム下げてください、レスター博士。マイクの音が割れてます。」

「私に命令するんじゃないわよ、シンシア!ねー、マーレイ聞いてよ。兵士は怪我人ばっかりだし、区域が何処もかしこも閉鎖されちゃって出られないのよー!」

「あ、うん。落ち着けよレスター博士……。今からお前らの救出に行くんだから。……俺は行かねーけど。」

 レスターはしきりにマーレイを気にしているようだ。おそらくお気に入りなのだろう。しかし、マーレイは青ざめた顔でひきつった笑みを浮かべる。何かを呟いているが、何を言っているかわからない。アリスにも確認したがわからなかった。心ここに在らずと言ったところだ。

 見かねたシンシアがレスターに俺たちの実験について話す。指示がフェイ博士から伝わっていなかったのか、眉間にシワを寄せ厳しい顔をしている。

「L1を破棄するのは賛成ね、造っておいてなんだけど、あんな言うこと聞かないポンコツは要らないわ。フェイ先生がヨアキム博士の提案受け入れるのは意外ね。ただ、アッシュを投入するのは良いけど、戦う能力無さそうなその女の子は正直足手まといだと思うわよ。」

 アリスは足手まといなんかじゃない。言い返したいが、今は大人しくする。

「上の決定だから仕方がないだろ。性能的に、L1とうちのアッシュは戦えそうか?」

「戦えると思うわよ。ただ、L1の自己回復力が強くてね。Z-155を投与したガン細胞使ってるせいか、何にもしなくても、体細胞が今も増殖し続けているの。完全処分するなら燃やすか何かしないと……。体液は強アルカリ性で、水酸化ナトリウムに匹敵するくらい。素体を二人分使って脳の一部を機械化、こっちで制御出来るようにしたんだけど……。」

 それを聞いた博士やスタッフたちの顔がひきつる。z-155入りガン細胞と水酸化ナトリウム並みの体液──増殖し続ける細胞と人体を溶かす溶液のコンビネーションはなかなえげつないモノを作ったものだ。

 この性能を持つL1との戦いが、本当の意味でアリスにとって辛い運用実験だと俺は勘違いしていたのだった。

アリスは攻撃系ではないし、アッシュが頑張らないと。

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