十三日目
あの人は私の憧れ
科学や医学の世界で大きな業績を積み重ねる、天才と言われる人
美しい青い瞳の人
他の博士には無い、ミステリアスな雰囲気が私を夢中にさせるの
私たちは 二人で一人のような形で扱われた。
けれど今日は珍しく、私一人だけが部屋の外に出された。アッシュは私と離れることを拒絶し、私を一人にしまいとしたが制御装置のヘルメットをかぶせられ、どこかへ連れられて行った。
私はドクターと兵士に囲まれて着いた場所は、アッシュと出会った場所。沢山のダイブポットが置いてある部屋。一つだけ違うことは、沢山のダイブポットの向かいに大きな物があったことだ。
「アッシュ以外の人と接続ができるかどうか、確認させてもらうわ。一応念のためにね。」
シンシアから説明を受けると私は大きなポットの中に入る。扉が閉まり、気が付くと私の頭の中に白い世界が広がる。アッシュと出会った時の、あの精神世界とか言う所だった。アッシュの時と同じ、でも何かが違う。無限に広がる白い世界。何も聞こえない、孤独な世界。
「アッシュが独りだったとき、こんなんだったのかな?だとしたらすごく寂しかったんだろうな。」
私はアッシュの孤独や悲しさ苦しさを垣間見た。
───け……て──にするんだ!──ハハ……!!!
ふと気が付くと、ノイズのように人の声がする。誰もいないのに聞こえてくる声に、私の心がざわつく。
「これはたくさんポットの中に入っている人の声?いや、違う。これはアッシュ。でもアッシュは今、遮断されているはず。だって制御装置を着けられて、どこか別な場所に連れられて行った。つながるものなのかな?」
私はとても不思議に思った。アッシュの半身になってから、離れることはあってもお互いが視界に入る範囲内だけだ。それならば、脳内会話でアッシュと声が聞こえることは普通だ。私の能力の精度が上がったからと言って、果たしてここまで離れて尚且つ相手が制御装置つけられているのに、声が聞こえるものなんだろうか。私はその疑問を払拭すべくアッシュを意識し、話しかけてみた。
(アッシュ今どこにいるの?)
アッシュの返答はない。しかし、代わりに映像が目の前に広がる。
あぁぁああああ!!!!
アリスああありす
苦しい──いだい痛いここから出して
助けて……一人に……しないで、コワイヨ
血涙を流し、慟哭するアッシュ。頭を振り乱し、拳を地に打ち付け訴える。打ち付けたせいか、拳は血に染まる。制御装置を着けていない彼の姿と黒い世界は彼の精神状態。彼に近づこうと手を伸ばすが、届かない。彼の名を呼ぶも聞こえている様子は無い。私にも気づかないのは、きっと制御装置のせいだろう。苦しむ彼を救えないのはもどかしい。繋がりの無い精神の断片を見せられ続け、気が狂いそうだ。視界の端から黒が迫り、やがて彼を消し去るように、私の意識が飲み込まれた。
狂いそうなほどの感情に目覚める。呼吸は乱れ、大きく目を見開く私の眼は異常を写し出す。異常を知らせる警告音と赤点滅の中、シンシアやスタッフ達が慌てている。
「脳波の異常波形が正常に戻りました。脳血流についても同様です。バイタル、呼吸など安定に向かっています。」
「一体どうなってるの!?実験体の容態は?」
「ポットNo.4、8、9に異常無し。No.0、3、6、7は、異常脳波を検知。No.1、2、5はバイタルにも異常検知。異常は、アリスの異常波形が最大の時に短時間発生でした。」
「異常が出てるのって、z-155αを投与した奴?」
「はい、異常が確認された実験体は投与した奴らです。z-155を弱めたαタイプを最低量投薬した結果ですが、やはりz-155の影響で……。」
「──因果関係はあると思うし、異常脳波を示した個体は今後も継続観察で。バイタルにも異常が出た個体は解剖して検査して。別個体でも同様の反応があるか、後2・3回試しましょう。それとアリスが異常波形を示した原因も調査しましょう。実験体が原因というのは、この数値が示す限りじゃ無さそう……。」
「了解しました。──それにしても警報止まりませんね。実験体の脱走でしょうか?」
「たぶんね、そういう時しか鳴らないし。気が散るから早く終わらせて欲しいわ。」
私がアッシュの異常をみていたとき、現実では異常事態が起きていたようだ。実験体の脱走とのことらしい。私の知る限りでは脱走は殆ど無い筈だが、何時もの事とでも言っているようで、慌てている様子の無い彼らに驚く。
「失礼します!シンシア博士、実験を中止しタイプTアリスをBIO兵器実験区域に移送してください。現在、レスター博士が制作中の試作体が逃走、同区域内を移動中です。試作体を利用した双方の運用実験をすると、フェイ博士・ヨアキム博士の指示が出ています。現在既にアッシュの輸送を遂行中です。」
バタバタと慌てた様子で勢い良く兵士が入ってくる。走ってきたのか息を切らし、早口の報告をシンシアにする。
「もう!?戦闘運用はまだ早すぎるって、私は報告書と進言したのに……。わかりました、すぐに移送します。」
シンシアは眉間にシワを寄せ、苦虫を噛み潰したような顔を一瞬見せるとすぐに無表情に戻り、仕度を始めた。私はポットから出され器具を外され着替える。先程の兵士を加え数人で現場に向かう通路を早足で歩く。いまだ鳴り止まない警報音が緊張を増幅させる。
兵器区域、戦闘運用──その言葉の意味と、ここがどういった施設なのかを私は知ることとなった。
投稿する時間がギリギリ。流石12月、忙しいですな。




