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離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
共同生活のはじまり
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十二日目

私は貴方と共に、好きな事を研究出来ればそれで良かったのに

私たちの血を継ぐ優れた子どもなんて、いらなかったのに

私が貴方の側を離れてしまったのがいけないの?

お願い誰か

あの男の狂気を止めてください。




 検査の後、俺はアリスの健康状態を最善にするよう言われた。痩せ細った栄養失調のアリスではよい実験結果が得られないからだ。勿論、アリスは能力に目覚めて間もないため、能力運用についてとても不安定だ。同時進行で俺との接続を安定的にする訓練もうけている。

 毎日繰り返される訓練と自室の往復。数日の間、アリスはとても疲れているようですぐに寝てしまっていた。俺はなんとか起こして彼女に食事を摂らせる。粥状の温かい食事をスプーンで彼女の口に運んでいると、スプーンを持った俺の手に両手を添えて懸命に少しずつ食べる。その姿に、俺は形容しがたい感情が芽生えた。ライブラリに行く機会があれば調べてみることにする。

 俺の努力もあってか、彼女の体は徐々に丸みをおび、少し大人びた愛らしい女へと変わっていった。

 訓練においても彼女の体調の回復に比例するように、力の成長がみられた。

 始めのうちは俺が彼女の頭の中を覗くような形であった。脳内会話も俺が聞きに行くイメージだ。今となっては、脳内会話も双方から出来るようになり、接触していればアリスから映像や画像を送信出来るようになった。俺が知る限り、平均より早く成長している。じきに非接触でも可能になるだろう。また、物体に残る思いや記憶を読み取る力にも目覚めつつある。

 俺の力の安定運用を目的とした実験も、目覚ましい進化が観測される。飛んでいる小さな円盤を順に落としていく訓練だが、今までの俺だったらば数分もしないうちに順に落とすことが出来ず、全てを落としてしまっていた。アリスのおかげか、そういったこともなく何時まででも安定した能力の使用が可能となった。もうこれで俺の望まない破壊をしなくていい。

「よし、アッシュ、アリス、お互いがうまく接続できるようになった。それにアリスは健康的になったし次の段階へ移そう。」

 ある日、マーレイにそう言われると念力《サイコキネシス》の実験室と移された。台の上には、大きさも材質も違う四角や三角・丸といった形の物体が置いてあった。

「じゃあアリス、手前の丸い中くらいの物を持ち上げてみろ。勿論、手を使わずにな。 と、その前にアッシュが手本を見せて みろ」

 俺は 子供たちの中で一番の念力(サイコキネシス)使いだ。おそらく周りはこの俺の半身として念力の才能があるのでは?と思いここに来たのだろう。彼の指示通り、アリスに手本を見せる。

 ふわふわと浮く球体に、アリスは驚いて目を丸くしている。タネも仕掛けもなく、ただ念力(サイコキネシス)を使っただけなのだが……アリスの目には手品にでも写っているのだろうか。

「アリス念力(サイコキネシス)だよ。球体が浮くイメージをするんだ。大丈夫、やってごらん。」

 俺はアリスに助言をして、やってみるよう促した。アリスは 目を閉じ、手をかざして念力(サイコキネシス)を使う。しかし何も起きなかった。俺から言うことがあるとすれば、手をかざす必要もないし、目を閉じる必要もない。ただイメージをすればいいだけなのに。

 アリスは何度もやってみせたが、球体がピクリとも動くことはなかった。俺は何度も見本を見せ、助言を行った。アリスはそれを見て必死に学ぶ。しかしその努力も虚しく、マーレイからは打ち切りを言い渡されるた。彼女には俺と同じ力が無いと判断された。


 部屋に戻ると、彼女はとても落ち込んでいた。

(なんで私、アッシュの気持ちとか分かるだけなんだろう。こうしてお話することだけしかできないんだろう。)

 そんなに落ち込まなくてもいいのに。俺と同じ力がなくても、アリスには俺には無い力がある。ドクター達が求める攻撃の力など、必要ない。

「アリス、どうしてそんなに落ち込むんだい?いいじゃないか。俺たちは二人だけで会話が出来るし、アリスは俺の力を安定化することが出来るじゃないか。お陰で気を抜いてもモノを壊すことがなくなったよ。」

(そう言ってもらえると嬉しいけど、でもやっぱり何か……アッシュと同じような力が欲しい。そうしたらきっと──)

 アリスはそこで口を閉ざす。俺と同じ力を得たならば、一体何をしたい?そんな力がなくたって、俺が貴女の願いを叶えるというのに。

「アリスが強くなりたい気持ち、わかるよ。だけどアリス、アリスの持つ能力はとても希少なんだ。対人では俺だけだが、物に込められた思いや記憶を読み解く事なんて、俺は出来ない。だからそんな落ち込まないでほしい。大丈夫、俺が絶対守るから。どんなことが起きてもね。」

 俺の思いは彼女に届いただろうか。

(ねぇアッシュ、私なんだか疲れてるのかな?)

 彼女は珍しく、横にいる俺にもたれかかってきた。肩に乗る彼女の頭を優しく撫でる。

「そうかもしれないね。アリスがいた場所とは随分と変わってしまったから。今日はもう眠ろう。」

 俺はそう言うと、彼女に眠るよう促した。お互い横になると、俺は彼女を引き寄せ再び頭を撫でる。恐怖に怯える幼子あやすように。彼女は落ち着いたのか、すぐに眠ってしまった。

「今夜はどんな寝言を聞かせてくれるのかな?」

 彼女は時折寝言を言う。印象に残っているのは、お母さん・お父さんという言葉だ。作られた子供である俺には両親というものがなんなのかわからないが、アリスにはどうやらいたようだ。以前そのことを聞いたことがあるが、アリスは「わからない」と言った。その時の表情は本当にわからないようだった。

 アリスが忘れてしまった、アリスになる前のアリスを、俺は何時か知りたい。それはきっと、俺の知らない外の世界の事だから。

アッシュ君の念力は物凄く強い。強すぎてコントロール出来なかった子。

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