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離れることは許さない  作者: 池野三毛猫
共同生活のはじまり
11/45

十一日目

名前も満足に言えない幼い子どもから、同い年くらいの子どもたちが居る。

みんな誘拐された子どもたち

大人たちが来て、一人ないし二人ずつ外に連れていかれる。

最後にわたしが残って、誘拐した大人たちのリーダーの所有物になった。



 検査を受けた日からの生活は、私たちの部屋と実験室の往復だった。

 ドクターが建てた方針では、まず私の健康を取り戻すこと。次にアッシュとの接続を安定的にすることだった。今の私の体は栄養失調気味の骨の浮き出た体だ。能力の安定運用と実験の成果率を上げるためには、健康な体にする必要がある。毎日三食与えられ、徐々に体は丸みを帯びてきた。眠る場所も、とても清潔で牢獄と比べると天と地の差だ。ただしベッドが一つしかないため、眠る時にアッシュと寄り添うかたちになってしまう。

 ──色々と良くないと思う、主に精神的に。


 実験室では前と同じたくさんのコードが付いた向かい合う椅子に座り、ヘルメットを着用し様々な訓練という名の実験を受けた。マークの付いたカードを見てそれを相手に伝える、ごく一般的な内容から、映画の中のワンシーンをそのままもう一人が描写するなど、主に精神感応系の訓練を受けていた。それは何日にもわたって繰り返された。

 最初の何日かは、アッシュに私の思考を選んでもらうことが多かった。私がアッシュの思考を読もうとすると、うまくいかない。しかし、少しずつ彼の感情や思考が分かるようになってきた。一般的な言葉や映像というものではないが、色という形で私は認識することができるようになったのだ。もちろん映像や言葉はアッシュと接触してる状態、もしくはアッシュから送られてくる状態であれば認識できる。

 たとえば、互いが正常な状態で接続できていれば白色の光がお互いをつないでいる。アッシュが負の感情を抱けば、黒へと変化していく。能力の使用で暴走気味になってくると赤色へ、悲しみや孤独を感じていれば、青色へと変化していった。私はその変化に対して、かける言葉や態度を変えることで私から伸びる白い色を相手送る。そうすることで、アッシュを白い正常な状態へと戻したのだ。


「よし、アッシュ、アリス、お互いがうまく接続できるようになった。それにアリスは健康的になったし次の段階へ移そう。」

 ある日マーレイ博士からそう言われると、作業台のある部屋へ向かった。台の上に素材や大きさの違う四角や三角・丸の形をした物体が、いくつも置いてあった。

「じゃあアリス、手前の丸い中くらいの物を持ち上げてみろ。勿論、手を使わずにな。 と、その前にアッシュが手本を見せて みろ」

 マーレイ博士の指示通り、アッシュは手も使わず球体を持ち上げた。ふわりふわりと空中浮遊する。

──なにこれ、どうやったの?手品か何かだろうか?全くどうやったのかがわからない。

「アリス念力(サイコキネシス)だよ。球体が浮くイメージをするんだ。大丈夫、やってごらん。」

 私は言われた通りイメージをして、ついでに手もかざしてみる。しかし残念なことに、ピクリとも動かない。何度も何度も試したが、一度として動くことはなかった。アッシュは何度やっても物体が浮き上がり、あらゆる方向に動かすことができた。日を変えて行なってみても、それは変わらはなかった。

 どうやら私には彼の言う念力(サイコキネシス)の才能が無いのかもしれない。その後も様々なテストが行われたが、私に出来る事はアッシュの能力を安定させる事と、精神感応だけだった。

(なんで私、アッシュの気持ちとか分かるだけなんだろう。こうしてお話することだけしかできないんだろう。)

 部屋に戻ると、私は膝を抱え落ち込んでいた。

「アリス、どうしてそんなに落ち込むんだい?いいじゃないか。俺たちは二人だけで会話が出来るし、アリスは俺の力を安定化することが出来るじゃないか。お陰で気を抜いてもモノを壊すことがなくなったよ。」

(そう言ってもらえると嬉しいけど……でもやっぱり何か……アッシュと同じような力が欲しい。そうしたらきっと──)

 私は言葉を飲み込む。

「アリスが強くなりたい気持ち、わかるよ。だけどアリス、アリスの持つ能力はとても希少なんだ。対人では俺だけだが、物に込められた思いや記憶を読み解く事なんて、俺は出来ない。だからそんな落ち込まないでほしい。大丈夫、俺が絶対守るから。どんなことが起きてもね。」

 アッシュの言葉にはとても強い意志を感じる。けれど私が言いたいのは、飲み込んだ言葉は、そういう意味ではないのかもしれない。その瞬間、私はいったい何を言おうとしてたのか?私自身にもわからなかったのだ。何か引っかかるのだ、頭の奥底で。

 私は考えすぎなのかもしれない──頭を振り、思考を振りほどく。

(ねぇアッシュ、私疲れてるのかな?)

 横に居るアッシュにもたれかかると、彼は優しく私の頭を撫でてくれた。

「そうかもしれないね。アリスがいた場所とはずいぶんと違うし、状況も色々変わってしまったから。今日はもう眠ろう?」

 私たちはベッドで横になると、眠りにつく 。私が眠るまでの間、アッシュは私を引き寄せ頭を撫でてくれていた。不安で怯える幼子をあやすように。私の心が穏やかになっていく。いつのまにか私は、彼の腕の中で眠っているのだった。

もう少し長く書けるようになりたい……。

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