一日目
今思い返せば、私が私であった最後の記憶は悲惨なものだった。
真っ黒な背広の男が二人、私を連れ去った。つい最近10歳の誕生日に買って貰ったお気に入りの靴を片方落として、甘い香と共に私の意識は闇に塗りつぶされる。
目覚めた時白い部屋に無数のライトの中、私の四肢は動かなかった。何かで固定され何かの台に寝かされている。
「たすけて」
そう叫んだはずなのに、掠れた空気が出てくるだけ。
(ここは何処、どうなってしまったの?恐い、助けてお父さんお母さん!)
「どれだけ叫んでも助けは来ない。まぁ、叫ぶ声すら今の君には無いがな。」
無慈悲な言葉と共に、男がこの白い部屋に入ってきた。抑揚もなく淡々と事務的に私に告げ覗き込んできた。
(白い服、灰色の髪、眼鏡…まるで映画やドラマに出てくる研究員のようだわ。)
「身体的変化無し、脳波とホルモンに微弱な変化…フム、良好のようだ。どうやら成功したようだな…」
タブレット端末と私を一瞥し部屋から出ていく、入れ替わるように何者かが数人入ってきた。
「移動だ、可笑しな考え起こすんじゃねぇぞ。」
ガシャっと両手足の拘束が外れ、起き上がることが出来た…が、力が上手く入らないうえに全身に鈍い痛みが走る。よく見れば包帯の巻かれた細い両手足、体も包帯だらけだが痩せている。
(痛い、何でこんなに痛いの?何でこんなに痩せているの?私に何したの?)
痛みと肉体の変化、謎の空間、頭を抱え感情も考えもぐちゃぐちゃになる。
「おい、さっさと移動しろ!殴られたいのか!?」
頭を平手打ちされ、台から転げ落とされる。落ちた痛みが追加され、必死に起き上がろうにも上手く出来ない。先ほどの初老と同じ服の若い男は苛立っているようで、今度は蹴り込んでくる。
(痛い、痛い、ごめんなさい、ごめんなさい、すぐにやります。殴らないで、蹴らないで、ドクター。)
必死になってふらつきながらも立ち上がる。立ち上がらなければ、蹴り殺される。蹴られた腹の包帯が薄紅色に染まっているが、今はソレを気にしている場合ではない。私は必死に歩いた。歩かなければ殺される。しかし、一般的な子どもの歩行速度からすれば酷く遅いものである。若いドクターは私の前を歩き振り返っては怒鳴り、その度に武装した兵士の一人が小銃の先で私を小突いて急かす。
白い手術室から灰色の冷たくほの暗い廊下を恐怖と痛みに耐えひたすら歩き、セキュリティーの付いた重い鉄の扉を抜ける。更にセキュリティー付きの檻の扉の向こう、幾つかの病室に似た部屋の1つに放り込まれ大きな音と共に扉が閉まった。
(痛い、酷い、何で突き飛ばすの)
突き飛ばされ、転んだ衝撃に呻いていると暗い部屋で何かが動いた。
「あ、帰って来た。」
「Oh, Your alive…」
か細い日本語と、少し元気な英語の声がした。同時に裸電球に照らされた場所に二人の男が現れる。一人は痩せこた日本人と、疲れきった顔ではあるが日本人ほど痩せてはいない白人。二人とも私と同じ様に暴力の跡と包帯やガーゼ、検診着に裸足。但し彼らは酷く汚れている。二人は私に近寄り、白人が倒れたまま起き上がれない私を抱き起こしてくれた。白人は嬉しそうに何かを話しかけて来るが、英語の為分からない。
「ハル、良かった。生きてた。7日経っても君が帰ってこなくて、奴等に処分されたのかもって心配してたんだ。あぁ、本当に良かった。」
まるで木の枝のような指が私の頬を撫でる。それはよく見知った相手に向ける感情を含んでいるのだが、私には何故だか分からなかった。初めて会う人達なのだから。
「人が少なくなっただろ?君が連れてかれてから2人死んで…、1人連れてかれた。あー、彼処に居る女はもう駄目かもしれない。昨日から息はあるのに動かないんだ。」
彼の見ている方に目を向けると、人が横たわっている。暗くて見辛く、痩せ細っている為性別は分からないが動いているようには見えない。きっとこの男の言うとおり、死にかけている女なのだろう。二人は何かを話しているが、私の思考が邪魔をして聞き取り辛い。
(おかしい…私…ここにずっと居たの?この人達を知っている?ドクターに連れてかれ…た?ドク…ター?わ…たしは、だ…れ……?)
いくつもの疑問が湧いて来る。だが私の視界は徐々に黒く塗りつぶされ、男達に尋ねることも考えることも出来ず、ぷつりと意識が途切れたのだった。
書き散らしているだけです。
果たして小説と呼べるのか疑問です。
試験的に投下してます。