砂漠を旅する二人
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。再び襲い来る盗賊達を倒した二人は…
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
星が薄れ、空気が闇色から藍色へと染まっていく。
広大な海を思わせる砂漠に二人、ラクダに乗って移動している。
一人は男、もう一人は少年である。
髪と同じ鳶色のマントを羽織った少年が、横にいる男に話し掛ける。
「ねぇ、トワ、傷の具合はどう?」
聞かれた男、トワは少年に笑い掛けた。
「だいぶ良くなった。もう全然痛くない。フォレスの手当てのお陰だな」
「これぐらいのこと、当然だよ。トワは僕を守ろうとしてくれたんだから」
トワに誉められ、少年フォレスは嬉しそうに笑みを返した。
「でも、あまり無理しないでよ。トワったら、あんな怪我してたのに、奴らのお墓まで作っちゃうんだから」
「早く埋めなきゃ遺体が傷んじまうだろ。それに、奴らだって人間だ。非道な奴らだが、必死に生きた人間なんだ」
トワは明けゆく空を眺め、言った。その姿をフォレスはじっと見つめる。
「トワは時々怖いけど、優しいね」
「なんだ、そりゃ」
「優しいよ。あんな人達でも、本当は殺したくなかったんでしょ」
「あの場では仕方なかった。あんなにいきなり現れて、バラけて来られちゃあな。ただ、やっぱり…できることなら、この眼は使わないでおきたかった」
「残念だったね」
「あいつらも不運だな」
トワの口調は、まるで事故か災害に遭った者に対して言うようだった。
直接手を触れず簡単に人を殺せてしまうと、命を奪っている実感がなくなるのだろう。
もちろん、初めはトワも罪の意識に苛まれたかもしれないが、慣れると感覚が麻痺していき、どれだけ大勢の人が犠牲になっても、自分でやった気がしなくなるのだ。
しかし、命を奪った事実は変わらない。彼の長い人生の中、どんどん積み上がっていく遺体を前に、トワは何を思ったのだろう。
能力を使いたくない、というトワの気持ちは本物だろうと、フォレスは思った。
でなければ、わざわざ自分を助けたりしないし、人を弔ったりもしないだろう。
トワの能力は、戦闘時に使いこなせば有利だが、日常では扱いにくく危険すぎる。
あまりにも簡単に命を奪えるだけに、奪わない為の制御は難しかったはずだ。
並の人間と同じ生活を送る為に苦労したことも多かろう。相手と直接目を会わせなくて済むサングラスも、不要に命を奪わない為の工夫の極一部に過ぎないのだろう。
「ありがとう」
フォレスがぼそりと言った。トワはフォレスを見る。
「なんだ、急に」
「助けてもらったこの命、大切にするよ。
危ない目には遭うかもしれないけど、こんな砂の海でも、なんとか生き延びてみせる。
いっぱい旅して、世界のこと、いろんなこと知って、学んでさ。汚いものも美しいものも、全部見るんだ。
それに、絶対トワより長生きしてみせるから!」
フォレスは悪戯っぽく笑うと、ラクダを小走りさせた。
「…俺より長生き?5千年生きてきた俺より?無茶言うな」
苦笑しながらトワもラクダを小走りさせた。
砂を巻き上げながら、まだ涼しい砂の海を二人は東へ向かって進んでいった。
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