赤く染まる
地上のほとんどが砂漠に覆われた世界の物語。
盗賊に襲われた村で出逢ったトワとフォレス。再び襲い来る盗賊達と合いまみえ…
~登場人物~
トワ…砂漠の世界を旅する男。常に黒装束でサングラスを掛けている。
フォレス…盗賊に襲われた村でトワが出逢った少年。
男は、トワの横から不意を突き刃を振るったようだが、トワはこれを見もせずに軽くかわし、相手の腹に蹴りを入れた。
吹っ飛んだ男は近くの家の残骸の中に突っ込んだ。男はなんとか起き上がろうともがいたが、傍に来たトワを見上げた途端、白目になって動かなくなった。
トワはサングラスをかけると、倒れた男達を見下ろして両手を合わせた。
その時、ビュンッと風を切る音と共に、トワの体に強い衝撃が走り、大きくぐらついた。すぐに持ち直したトワが振り返ると、サッと人影が焦げた柱の影に消えるのが見えた。トワの右肩に矢が刺さっていることから、敵が弓矢を使っていることが分かる。
トワは盗賊達が落とした剣を拾い構えた。が、再び体勢が崩れた。砂の上に膝をつく。
「毒矢か」
ぐらつく視界と暗がりの中で敵を探したが、見つからない。誰かが近付いてくる足音がするが、体が痺れて振り向くこともできない。
死ぬことはないが、代わりに盗賊仲間を殺した報復として半殺しに遭いそうだ、とトワは思った。
死よりも辛い恐怖というものがある。
身動きの取れぬ状態で、生きたまま切り刻まれ、焼かれ、埋められる…
…などの拷問のような想像を絶する痛みと、孤独にもがき苦しむ終わりのない恐怖。
死ぬことができない者にしか分からない恐怖だ。
できることなら、トワはそれを避けたかった。
だが一方で、フォレスが逃げる時間稼ぎになるかもしれないとも考えていた。
半ば諦め、半ば囮としての意義を見出だしていたトワは覚悟を決めた。
来るなら来い、と。
しかし、いくら待っても敵は来ない。
それどころか、襲ってくる気配すらなくなっている。
目を凝らしたトワの微かな視界が捉えたのは、月光を背にしたフォレスの姿だった。
ナイフを握った手は真っ赤に染まり、優しい眼差しでトワを見返している。
トワは腕や背中の皮膚が冷たい金属で削り取られていくような寒気を感じた。それは体に回っていく毒のせいばかりではない気がした。
「トワ、大丈夫?」
フォレスがトワの傍に寄る。肩を借りながら、トワは立ち上がった。
「毒矢を受けたが、じきに良くなる。心配ないさ」
トワは人影の消えた柱の方へ歩いた。そこには、武装した姿の女が一人、すっかり砂に染みて乾いた血だまりの跡の上に倒れていた。
「女の人もいたんだね」
「君がやったのか」
「うん」
二人は女の傍に屈みこんだ。フォレスは女の上に、近くに落ちていた布をそっとかけた。
「僕、隠れてたけど、トワのことがどうしても気になって窓から見てたんだ。もちろんトワの目を見ないように気を付けてたよ。
でも、トワが危ない目に遭ってるのを見たら、勝手に体が動いてたんだ。言いつけを守れなくてごめんなさい…」
フォレスはしゅんとなって言った。そんなフォレスをトワは抱きしめた。
「いや、君のお陰で助かった。ありがとう。君の手を汚させてすまない」
フォレスの目に涙が浮かんだ。
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